【ボクシング】打倒テイラー目指すメイヤー。WBC暫定で世界王座へ返り咲く
☆4月15日(日本時間16日)/イギリス・ロンドン/カッパーボックス・アリーナ
WBC女子世界ライト級暫定王座決定戦10回戦
○ミケーラ・メイヤー(アメリカ)3位
●ルーシー・ワイルドハート(スウェーデン)WBCフェザー級14位
判定3-0(98対92、100対90、98対91)
メイヤーの当初の対戦相手は元WBCスーパーライト級王者(現同級5位)のクリスティーナ・リナルダトウ・デュラン(ギリシャ、ドミニカ共和国生まれ)だった。リナルダトウは、メイヤーからWBO&IBFスーパーフェザー級王座を奪った宿敵アリシア・ボムガードナー(アメリカ)に唯一の黒星をつけている選手。メイヤーが目指すケイティ・テイラー(アイルランド)とも対戦(10回判定負け)しており、因縁を含め、メイヤーが現在地を知る上では格好の相手だった。
だが、計量直前になってリナルダトウの出場キャンセルが伝えられた。彼女がかつて手術を受けて装着した目のレンズに対し、医師の許可を得られなかったとして英国ボクシング委員会がライセンスを交付しなかったためである。テイラーと対戦した際(2019年11月、イギリス・マンチェスター)は認可されており、今回NGとなったことには疑念が残る。
急遽代役に選ばれたのはマイナーのIBOコンチネンタル・ライト級の元王者ワイルドハート。IBFスーパーフェザー級8位にもランクされる30歳は、イギリス・ブレントウッド在住で、同国で腕を磨く身。コンディションが心配されるものの、ビッグチャンスを逃すわけにはいかないと、勇んで登場してきたのだろう。
対戦相手が変わろうとも、メイヤーが取るスタイルは変わらない。175cmの長身から真っ直ぐ伸びる左を上下に打ち込んでいく。しかし、ワイルドハートはこの左に対し、早々に右クロスを合わせる。右ストレートへの反応は当初こそ鈍かったものの、ステップバックで対応。2ラウンドにはメイヤーのダブルジャブにも右を合わせ、メイヤーのストレート攻撃をアームブロックで弾く上手さも披露した。
しかし、メイヤーの対応力、実行力は一段上だった。中距離での右クロスが邪魔とみるや、距離を縮めて左右アッパーをボディに刺す。ワイルドハートがプレスをかければ、右回りステップでこれを回避。そして離れては左ジャブを使ってリズムを組み立て直し、どの距離でもワイルドハートに主導権を渡さない。
5ラウンドに入り、いっそうプレスを強めたワイルドハートは、やはり右クロスを基点とする攻撃を仕掛けるが、両者が密着するとメイヤーのアッパー&フックによる左右ボディ攻撃が光る。ワイルドハートはこの回、ダメージを受けたように見えた。
しかしワイルドハートは落ちていかない。6ラウンドには右の相打ちを狙い、返しの左ボディブローもヒット。メイヤーには疲労の色も見え始めるが、続く7ラウンドにメイヤーはジャブから立て直し、ステップのしなやかさも取り戻してボディ攻め。効果をキープした。
この急造対戦者はしかし、決してあきらめない。9ラウンドに入ると、それまでの前傾姿勢から一転、上体を立ててフットワークを使ってリズムを刻み始める。解説のティモシー・ブラッドリーも感嘆の声を上げる変貌ぶりだ。
けれどもメイヤーも“行き所”の嗅覚を備えている。それで調子に乗せまいと、左右のボディ攻めから右ストレート、アッパーと攻撃を強め、ワイルドハートに口から出血させる。それでもジョン・レイサム・レフェリーが様子を確認しなかったのは、果敢に打ち合いに応じる姿を認めたからだ。
最終10ラウンド。小気味よくボディワークで攻め入るワイルドハートに、メイヤーも攻撃力を強めて迎え打つ。ワイルドハートはいつしか鼻血も流し始め、その返り血をメイヤーも浴びたものの凄惨さは受けず、両者の打ち合いにはむしろ清々しささえ感じさせられた。
突然の対戦相手変更に、もやもやとした思いを抱かされたものの、ワイルドハートの奮闘に、興行同様救われた。そしてあらためて、メイヤーの多彩さ、展開の作り方の上手さを見せつけられた。
ライト級4団体王者テイラーが、スーパーライト級4団体王者シャンテル・キャメロン(イギリス)に挑むスーパーファイトまで、あと1ヵ月(5月20日/アイルランド・ダブリン)。この試合の結果次第で、女子ボクシング界の勢力図が大きく動き出す。
《ESPN+ライブ視聴》
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暁視GYOSHI【ボクシング批評・考察】
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