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カザフスタンのプロボクシング会場はある意味“神秘的”だった

 時差3時間(日本が早い)。そんなことも知らなかった自分が恥ずかしい。いや、そもそもカザフが世界のどの辺にあるかすら、ぼんやりとしか把握していないような状態。なにせ「ゴロフキンの国」、「アマチュアボクシングが強い」という印象くらいしか持っていなかったのだった。

 この興行がどういう経緯をたどってDAZNで配信されることになったのか、それはまったくわからないのだが、カザフスタンのプロボクシングを見られるなんて、なかなか滅多にあることではない。いい機会。あちらの会場の雰囲気をこの際に味わいたいと思った。

 アルマトイは、首都アスタナを押さえて同国最大の都市だそうだ。中心からは外れにあり、アクセスが面倒とのことだが、2016年に建てられたばかりというアルマトイ・アリーナは、収容人員1万2000人という。おそらくそれは常設席で、アリーナ部を数えれば1万5000近くなるのだろう。しかし、映像を見る限りでは全体で2万人くらい入りそうな巨大空間だった。

とても立派な会場だった ※写真はDAZNより(以下同)

 近年、日本のトップアマチュアは、中学生ですら海外遠征を行っている。ひょっとしたら、ここで何らかの大会に参加した選手もいるかもしれない。そういえば、井上尚弥も高校生のときにアスタナで戦っているし、わが国の数多のトップアマがカザフで拳を煌めかせてきた。
 若い時分からどんどん海外に飛び出して戦っている彼ら彼女らの逞しさたるや、飛行機に乗れただけで自分を褒めてしまう自分が情けなくなるばかり。「アマエリート」って何だかひ弱さを感じさせる言葉だが、実際、彼らほど心身ともにタフな人たちはいない。

 日本時間夜8時、現地時間夕方5時すぎからスタート。リングアナウンサーもDAZN配信に張り切って、ロシア語と英語を交えて絶好調。照明も最初からスパークし、4回戦の選手たちも堂々と長い入場ステージを歩いてくる。

 しかし、中盤あたりまでは観客席もガラガラで、素晴らしい会場だからこそそれが気の毒に思えてしまう。

 ほとんどがカザフスタン同士の試合だったが、中にはvs.ウズベキスタン、vs.ロシア、vs.フィリピン、vs.ジョージアなんて試合もあった。そちらはだいたいデビュー仕立ての選手が用意されており、あっさりと負けていくのだが、1試合だけ、ウズベキスタンの選手が完全に試合全体をコントロールしているものがあった。が、結果はほぼフルマークでカザフの勝ち。ああ、どこの国でもこういうことはあるんだな、と妙な納得をしてしまった。

 自然発生的に起こる「カーザフスタン!」コール。カザフ同士の試合でもそれはあった。ロシア系=寡黙、みたいなイメージがあったが、カザフの人たちは騒ぐのが好きらしい。DAZNのカメラが捉えると、それぞれが思い思いのポーズを取って応じたり。カザフの人たちはとにかく明るかった。

 そして、これもまた自分の認識不足だったが、ロシア系、ヨーロッパ系、モンゴル系、われわれに近い東アジア系と、カザフスタンという国には様々な人種が存在すること。アメリカなどでは見慣れているが、カザフもそれに近い、いやそれ以上に何か神秘的なものを感じさせられた。

ムジマンは菊地凛子に似てた
腕が4本あるように見えた
この長さ、アカンやろ

 とはいえ、9試合目までは試合のレベルの低さにガッカリした。期待が大きすぎたのかもしれない。けれども10試合目に登場した女子バンタム級4回戦のバロウサ・ムジマン(カザフスタン)にはハッとさせられた。リングアナのコールでは「アマチュア・ユース世界チャンピオン」とのこと。足裏の使い方、バランスの整え方、クイックなフェイント、パンチの出し方。どれもそれまでの試合とは雲泥の差、大きな力量を示した。
 けれどもひとつだけ難点。彼女の髪型だ。長く編んだ2本の髪の毛の束が、鞭のようにピュンピュンと飛び回る。相手のスクラ・イスライロヴァ(カザフスタン)に当たりそうになるし、自分の目の前をもヒュンヒュンとかすめるのだから、自分自身もやりづらかっただろう。日本では、リングに上がった時点で注意を受け、束ねるなりなんなりの対処をさせられるが、同国ではお咎めなく試合を終えた。

トゥラロフはウイニングを使用

 メインのIBOスーパーライト級戦は、チャンピオンのアレハンドロ・メネセス(メキシコ)がはっきり言って弱かった。挑戦者のジャンコシュ・トゥラロフ(カザフスタン)は、右回りを繰り返してメネセスの右をヘッドスリップでかわしざま、左ボディーカウンターを合わせるのがうまかった。いや、前座も含め、左ボディーブローの上手い選手が多かった。これは、同国の特質なのかもしれない。

 9ラウンド終了間際、トゥラロフがロープ際で右をハードヒットすると、回避しようとしたメネセスがほんのわずか頭を出す。ここで頭同士がぶつかって、メネセスが左眉付近をカット。10ラウンド開始後にレフェリーがドクターチェックを促して再開したが、コーナーが試合を止めた。
 本来なら、負傷判定となるところだが、コーナーの棄権を採用した形。判定でもトゥラロフの圧勝だったはずだ。

 試合よりも、選手のグローブだとか観客の様子に目が行きすぎた。グローブはロシア製の『ULTIMATUM』が多く使われていたが、初めて目にした『BUKA』も多く、また『GREENHILL』というのも初めて見た。

 嬉しかったのが『ウイニング』同士という試合も1試合あったこと。でも、ロゴが小さかったので、最新版じゃないのかな。トゥラロフもウイニングを使っていたが、こちらはロゴが大きい新しいバージョンだった。

 全12試合。5時間の大興行。最終的には超満員となっていた会場は、トゥラロフの勝利で盛り上がっていたが、自分はトゥラロフと有名人(?)の友人(?)のマイクの持ち方に目を奪われてしまった。マイクの丸い先っちょをどうしても持とうとするのだ。ロックンローラーかよ!

トゥラロフの友人らしき有名人風の人が、試合前に応援を呼びかける
トゥラロフもここを持つ。「類は友を呼ぶ」

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