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「片隅の絵葉書」ほか

「片隅の絵葉書」

透き通った朝方 ふいに目覚めて
あなたの夢で 目が覚めて
青く暗い部屋に ひとりでいる
自分自身が とても不憫に思えた
望むものは 多くなかったはず
ただあなたの部屋を飾るもののように
壁に留めた 片隅の絵葉書のように
ただ、そばにいたかった
初めから 予感がしていたの
あなたは いつか離れると
会話が途切れて 窓外の雨を見る
あなたの横顔が とても悲しかったから
誰も必要としていない 友だちにそう
強がって 電話で話したこともあった
だけど本当は 心の中では
あなたの記憶を辿ってばかり
過去の場所に留まっているみたい
「君が思うような人間じゃないよ」
笑って言ったあなたの言葉
本当はわかってた 優しいのではなく
「優しくしている」だけだと
部屋にひかりが差し込み 頬の涙を照らす
朝のひかりが眩しかったから泣いたのだと
わたしは自分を騙そうとしたけど
一筋の涙が 寂しさを煽った
ただ、そばにいたかった
部屋の片隅にある絵葉書みたいに
存在に意味がなくともいい
視線を向けられなくともいい
あなたと一緒に ただ、いたかった

***

「話せない物語」

季節に押し流されていくように
毎日をやり過ごしていく僕
心だけは あの場所 あの時のまま
夜の街中で笑っている恋人たち
僕たちもそんなふうに見えていたのかな?
つなぐ相手のない手が 凍えてしかたない
思い出となった君の記憶を探し求めたよ
足りないところは たくさんあったはずだ
でもそれが「さよなら」の理由ではなかった
ときおり伏せる君の顔 最後まで僕はわからなかった
自分が傷つくくらいなら 僕は耐えられた
「泣かない」君に 安心していた

君の隣を埋めようとして
他の誰かに慰めを求めた
だけど心の中は 違ったんだ
君じゃない誰かを笑わす自分など
今でも想像さえできないんだ
今年の冬はいつもより早く来た
だから春を迎えるのも早いだろう
そしたら君を 傷つき切った君を
また抱きしめに会いに行くのも 許されるかな
「泣かない」君は 「泣かない」のではなく
僕の前では「泣けなかった」のだと
誰にも言えない物語を抱えて
それを話すことさえ できなかったのだと
手放しに受け止めるよと 言えなかった
それほど君は物語に苦しめられ そしてそれを愛していた

***

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