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ふじこ
2023年5月21日 20:54
講義が退屈だと感じると、僕らはいつもA棟の裏で煙草を吸っていた。煙草がうまかったわけでもなく、そうすれば話題がなくて手持ち無沙汰な状態になっても、一緒にいる理由があると思ったからだ。直也も同じように、考えていたのかはわからない。直也は会話を繋げる努力をいつもしなかった。「この間読んだ小説、クソつまんなかった」 そう愚痴を吐くために煙草を口から離すと、僕のスラックスの膝に燃え滓が落ちた。「何読
2023年5月7日 12:56
いつも大樹くんは、わたしを観察している。たとえば、前髪を切ったことや、柔軟剤の香りを変えたことも、不安になると爪を噛む癖、気詰まりなときには窓の外や背景に目を逸らすことなど、すべて観察している。「今日はマニキュア塗ってきたんだね。全部の爪を青く……」 感想を言おうとして、大樹くんは言葉に詰まる。わたしは「気分を変えたかったから」と言って、大樹くんの手を取った。いつもわたしのほうから、手を繋い