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小さな物語。

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掌編・短編集。
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2020年4月の記事一覧

「今夜は晴れるでしょう」

「今夜は晴れるでしょう」

もう戻れないよ、と和美はいった。俺は承知していたけど、それでも「戻ってこいよ」とうつむきながら呟いた。和美の部屋の前で、情けなく雨に濡れた姿で。
「戻ってほしかったら、どうしてあのとき……」
和美はその後をいわなかった。いわずに、俺にタオルを差し出した。夜にとつぜん部屋に押しかけたのにもかかわらず、和美は相変わらず優しかった。
俺は、タオルを受け取って握りしめた。背後で玄関のドアが閉まる。俺の前髪

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