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現実の世界は動的なカオス

風が吹けば桶屋が儲かる。
その昔、浮世草子に書かれたこの言葉、皆さんも何度か耳にされたことがあるかと思います。
ある出来事が、一見関係なさそうなことに影響してゆく様を示していますが、それが転じて無関係な出来事同士がさも因果関係がある様な、いわば「こじつ」の理屈に対しても使われたりします。
どちらかといえば、あり得ない関係性を示す言葉、というイメージが強いかもしれません。

でもこの諺は、現実世界を構成する「ダイナミクス」の特徴を鋭く捉えた言葉です。

私たちが活動する現実世界は、カオスという言葉で表現される様に、無数の要素が相互に影響し合う複雑系で構成されており、時に予想外の関係性から、驚くべき変化が発生します。
現実世界の複雑系の特徴は、ある一つの動きや変化は、他の要素に影響を及ぼすと同時に、その影響の結果が反応として返ってくる循環構造、いわゆるフィードバック・ループを有し、ある均衡状態に到達するまで変化が継続する動的システムである、という点です。

なにやら難しそうに聞こえる話ですが、この動的システムの顕著な例を、実は世界中で今、人類全員が実体験中です。
そう、新型コロナのパンデミックは非常にわかりやすい動的システムの一例です。

一般的にパンデミックの構造は動的システムそのものであり、その感染過程の中で、私たちは様々なダイナミクスを観測することが出来ます。
どの様な行動や要素・条件により感染者が増えるのか、どの様な行動規制・対策により感染を抑制できるのか。感染者数の変動は、こうした社会反応に基づき新型コロナが何らかの形で均衡状態(感染拡大の結果、変異量・回数が限界に達し感染力を失う、強力な防疫措置で感染が遮断される、市中で十分な集団免疫が獲得される等)に至るまで続きます。

この動的システムの特性について、その構造を変化をより強める正のフィードバック・ループ(positive feedback loop)と、逆に変化を弱め均衡状態に近づける負のフィードバック・ループ (negative feedback loop)からモデル化し、各種要素が、このループをどの様に構成し影響を与えるかを解明する方法論の一つとして、MITで生まれたシステム・ダイナミクス(*)と呼ばれる手法があります。

(*) ご興味のある方は、システム・ダイナミクス学会のweb siteを参照してみてください。

21世紀初頭に猛威を振るったSARSのケースでは、後にWHOがこの手法を用いて、そのパンデミックの動的システムを解析し、感染者の隔離措置が、感染を抑制し終息に向かわせる防疫措置として非常に有効であることを確認しています。

一方、今回の新型コロナの場合、変異によりウィルス特性が刻々と変化し、その感染力と感染経路、抗体による影響、潜伏期間と拡散性、症状の有無等の多様な組み合わせが存在する一方、社会環境もより大規模に世界中を人と物が移動・接触する状況となる等、動的システムそのものがさらに複雑となっていることから、現時点でもその感染力学構造の詳細と終息に向けた決定的な対策は未だ不明です。

今回の新型コロナのパンデミックに限らず、社会の様々な活動や変化について、私たちは往々にして静的で単純な線形構造 (y=axの様に単調な直線変化) のシステムと誤解し、非常に狭い因果関係と影響範囲で物事を考えがちです。

それぞれの要素がどの様に複雑に関係・影響し合い、それがシステム全体にどの様なフィードバックを返すのかという視点を欠いた状況・原因分析は、最も影響力のある主要素や時間の経過と共にシステム全体に変化を及ぼす力学構造を適切に把握出来ず、全く誤った見方や解決策を選択し、より事態を悪化させます。

残念ながら、現代教育の大半は還元主義的な視点が強く、Aの課題はBが原因である、XはYとZで構成されるといった、単純化かつ固定された因果関係で世界を説明し過ぎているきらいがあります。入試に代表される様に、一つの問いに一つの正解を求める(暗記する)といった世界観は、非常に複雑で非線形にダイナミックに変化し続ける現実世界とは大きく乖離しています。

現実の世界は変化し続けるダイナミックなシステムであり、安定に見える状態はあくまで動的な均衡にすぎず、決して静止・固定・完成している状態ではない、という視点は極めて重要です。
そして、狭い視野に止まらず、多様で幅広い分野から世界を見つめ、長い時間軸から複雑な関係を読み解き、これからの変化を考える必要があります。

温暖化危機、フードロスの問題、エネルギー問題、etc。
高度に複雑化し、同時に気候変動をはじめとする様々な危機を抱えた現代社会において、新たな創造と活動を考える際、結果としてどの様な影響が社会にもたらされるかを考えることは、もはや必須となっています。
また同時に、この世界に暮らす私たち全員も、自らの暮らし・活動が社会全体に影響を及ぼしていることを意識することが求められています。

この時必要とされるのは、世界を動的システムとして捉えたダイナミクスの視点です。
この世界は、全てがつながり、全てが影響し合い、弛ることなく変化し続けている。
この視点は、Entrepreneurshipとして決して欠かすことのできないとても重要な視点です。

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著者の紹介:山下哲也(BizWorld Japanアドバイザー)
NEC・Motorolaにて携帯電話のシステム開発・国際標準化に従事、NTTドコモではスマートフォン戦略担当として新規事業開発・スマートフォン導入にあたるなど、20年以上モバイルIT分野を歩み、2012年に独立、Accelelator等のスタートアップ支援事業の開発・運営、Entrepreneurship学習プログラム開発を行う山下計画株式会社を設立。2016年より開始されたAccelerator 「500KOBE」の企画・運営、岡山大にて2019年に開講されたEntrepreneurship育成プログラム「SiEED」を設計・運営し、現在兵庫県・神戸市・UNOPS S3i共催の起業支援プログラム「SDGs CHALLENGE」の統括コーディネーターを務める。
2007年 マサチューセッツ工科大学 Sloan FellowsにてMBAを取得。
Twitter : @tetsu_yamashita
Facebook : https://www.facebook.com/tetsuya.yamashita.90

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