株式の非上場化-マネジメント・バイアウト(MBO)-
株式の非上場化、特にMBOについて取り上げたいと思います。
1.USENの上場廃止
2017年8月10日に、㈱USENが上場廃止となりました。上場廃止理由は、「株式会社U-NEXTとの経営統合及びそれに伴う持株会社体制への移行のため…」とあります。U-NEXTは動画配信サービス、USENは有線放送の会社であり、両社とも筆頭株主は宇野康秀氏であり、営業基盤を共有し、経営効率を高める狙いのようです。経営統合のスキームとして、U-NEXTがUSENに公開買付(TOB)をする形で行うのですが、事実上、宇野氏によるマネジメント・バイアウト(MBO)と見られています。
スキームの詳細は省略しますが、今年2月13日付のUSENの開示資料において、「宇野氏は、当社の主要株主である筆頭株主であり、かつ、公開買付者の完全親会社であるU-NEXTの代表取締役社長及びその支配株主であるUNO- HOLDINGSの一人株主です。このように本公開買付けは、当社の取締役会長及び主要株主である筆頭株主である宇野氏の主導の下で行われることから、本経営統合はいわゆるマネジメント・バイアウト(MBO)に類する取引であると考えております」と記載しています。
同様の資料に、「マネジメント・バイアウト(MBO)とは、公開買付者が当社の役員である公開買付けのことをいいます。」とあり、宇野氏がUSENの役員であってかつ、宇野氏個人がUSENを買い取るのであれば、MBOそのものですが、今回のスキームは宇野氏個人ではないけれども、総合的に判断すると実質的にMBOだと言っているのだと思います。
そして通常、MBOをする際には、対象が上場会社の場合は買収者の持分はさほど大きくないので、買い付けに必要な資金を借り入れるのが一般的です。今回のUSENのケースでも、合計800億円を上限として借り入れる予定とのことでした。
2.MBOのメリット・デメリット
MBOの理由は様々ですが、USENの場合は、筆頭株主である宇野氏の下、U-NEXTの傘下にU-NEXTの既存事業を切り出した会社、USENの既存事業を切り出した会社、その他の子会社を配置する持株会社制とすることで、「マネジメントとして最適な経営資源の配分を実行することができると考えている」と言っています。
株式を上場すると、経営がガラス張りになり、経営者が長期的な思考で将来の事業を構築しようとしても、それが短期的には収益に繋がらない、あるいはコストがかかると判断されれば、短期的には利益が減る可能性があることから、すぐの配当や株価上昇を期待する株主からは、反対される傾向にあります。
そうすると経営者は株主の期待と本来自分がやりたいことのはざまで悩むこととなり、会社の従業員や将来性を考えた場合、上場を廃止し、余計な外部の圧力を極力減らす道を探すこととなり、それが非上場化、ひいては自らが株式を買い取る道を選択すること、すなわちMBOを行うこととなるのです。
そうすると経営者は外部の株主を気にすることなく、従業員のことを大切にし、リストラをすることなく長期雇用で家族経営を継続する、あるいは権限を社長に集中できるので、意思決定を迅速化し、チャンスを逃すことなく実行できる利点もあります。
但しそれはもろ刃の剣でもあり、権限が社長に集中する結果、社長によるワンマン経営(部下の進言に耳を貸さなくなる)、会社としてハイリスクな選択をすれば、ハイリスクを負いやすくなる、社長個人も多額の借入により、業績が改善しなければ、返済できないリスクを負いやすくなる、コンプライアンスに対する意識が希薄になる、というデメリットもあります。
3.不況に強いのは上場会社かオーナー会社か?
2014年7月11日付の日経新聞の記事で、『オーナー企業、資産の効率利用でサラリーマン経営上回る』という記事がありました。その要旨を簡単に述べると、大株主に創業家や創業一族がいたり、経営に携わったりする企業を「オーナー系」、それ以外を「非オーナー系」に分け、業績や財務などを比較した結果、総資産利益率(ROA)は非オーナー系が平均7.83%に対してオーナー系の平均は9.03%と大きく、またその他の指標も総じてオーナー系の方が成績が良かったと言うのです。
非上場会社=オーナー会社ではないですが、非上場の会社は上場会社に比べて株式の売買が自由でない分、株式が誰かに集中しやすい傾向にあるのは事実です。そしてMBOは経営者が中心となって株式を買い取るため、MBOした会社も一種のオーナー会社と言えます。実際MBOの多くは、元々創業者が上場後、株式を買い戻すケースも目立ちます。
元々の創業者、あるいは当初はサラリーマン社長であってもMBOをする経営者は事業への思い入れが非常に強く、リスクを取って、すなわち覚悟を以って経営できるのが強みのように思います。そしてそのような経営者は総じて行動力や従業員を大事にする姿勢から、カリスマ経営者として、従業員のベクトルを一つの方向へ集中することで、大きな改革を成功に導けるのでしょう。
不況下においてはいち早く課題を把握し、対応策を計画し、実行するスピード感が重要となります。また現在企業が置かれている環境は、国内における市場規模の成長の限界・縮小や、世界的な社会情勢の不安感、AI、IoTに代表されるITの進化等の中、企業自身がドラスティックに変化・対応していかなければなりません。その意味で社長1人で意思決定できず、取締役会、場合によっては 株主総会を経なければ行動できない上場会社と、社長の一存で物事を決め、全社員をいつにまとめられる求心力のあるオーナー会社の方が、一般的には優位であると言えそうです。
冒頭のUSENに限らず、ネースクエアHD、アデランス、TASAKI等、有名企業のMBOが続いています。またかつてMBOした企業の再上場では、2014年のすかいらーく、2017 年3月のあきんどスシロー等があります。一度MBOで非上場化した後で改革を行い、体制を立て直して再び成長軌道に 乗せ、再上場を図るいうのも企業の戦略の1つと言えます。
一方で上場会社の方は一般的にその知名度、社会的安心感から優秀な社員を集めやすく、借入だけでなく資本市場からの資金調達が出来るので多額の資金を集めやすい、会計監査を受ける過程において内部統制がきちんと整備・運用されることや一定のガバナンスが求められることから、経営管理体制が充実する、といった点で優位性があります。
起業した経営者の1つの目標は「上場」です。ある程度ビジネスが軌道に乗り、より成長を加速するため、上場することを目指しますが、上場そのものが目的ではなく、上場していることを通じて、会社の理念や経営方針の実現を目指して行くことが肝要です。最近は『ESG』投資という言葉もあり、環境(Environ-ment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重要視して投資をする考え方です。
シリコンバレーでは、世の中の問題解決型の起業が多いとも聞きます。やはり起業の目的として重要なのは、いかに世の中の役に立つか、ということではないでしょうか。そのための戦略の1つとして、上場か非上場化の選択があると思います。(作成日:2017年9月29日)
■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 花房 幸範
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