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東証再編

皆様、新年明けましておめでとうございます。年末年始は日本海側で大雪となり、帰省された方は雪に見舞われ大変だったかと思います。東京は三が日は晴天でしたが、正月明け早々、都心においても大雪が降って週末まで雪が残り、久し振りに冬らしい寒さを感じる2022年のスタートとなりました。
そして年明けからオミクロン株を中心に、新型コロナウィルスの感染者数が急増し、外食や観光業に人が戻りつつあった消費回復の予兆が見えていただけに、ワクチン接種の更なる浸透と治療薬の一般化抜きには、景気回復を実感出来るような状況にはなかなか辿り着けないかもしれません。

2022年に予定されているイベントは数多くありますが、その中で個人的に注目しているのは、今年4月からの、東京証券取引所の市場区分の再編です。現在の一部、二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダードとグロース)の5区分 が、プライム、スタンダード、グロースの3区分に再編されます。新市場の選択は昨年12月30日で締め切られ、昨日、東証より各企業の選択結果が公表されました。
それによると、現在東証一部上場企業は約2200社ありますが、そのうち、プライム市場を選択した企業数は1,841社(現行の東証一部全体の約84%)となります。

2021年末における世界の主要市場の時価総額では、NY市場の時価総額は、約3,500兆円、NASDAQで約3,000兆円の規模に対して、東証は約750兆円と、規模で数倍の差があります。アジアでは中国の上海市場 とはほぼ同規模ですが、香港市場は900兆円を超えており、世界での位置付けとして、米国市場と大きな隔たりがあります。東証の市場区分変更で投資環境を整備し、株式市場を活性化させられるか、投資家にとっては気がかりなところです。

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■ 1.再編の目的

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現在の東証の市場区分は、市場一部、市場二部、JASDAQ(スタンダードとグロース)、及びマザーズの5区分がありますが、各市場区分のコンセプトが曖昧で、例えば東証一部企業は約2,200社あり、これは全東証上場企業約3,800社の6割を占めていますが、東証一部上場企業と言えば、時価総額の大きな大企業のイメージですが、そうではない企業も一定数含まれています。これは、IPOでいきなり東証一部に上場する場合は時価総額が250億円を要求されるのに対して、市場二部やマザーズからの移行だと、時価総額は40億円とバーが低く、その後成長すればいいのですが、時価総額が10億円未満にならない限りは上場廃止基準に抵触しないため、大企業とは言えない企業も混ざっていました。また、市場二部、マザーズ、JASDAQも、企業規模や成長性の観点で位置づけが重複している、という問題点もあります。

そこで、これを新市場区分のコンセプトにより、(1)多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えた企業向けの「プライム市場」、(2)一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えた企業向けの「スタンダード市場」、(3)高い成長可能性を持つ一方で相対的にリスクが高い企業向けの「グロース市場」、の3区分に再編することとしています。

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■ 2.プライム市場に求められる企業の姿勢

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東証の市場区分再編により、特にプライム市場は、海外の機関投資家のマネーを呼び込む大企業としての役割を担うこととなります。そのために、株式の流動性を高めたり(流通株式の時価総額の基準が現行の市場一部では10億円から、プライム市場では100億円に引き上げられます)、より高いガバナンス水準(取締役会の3分の1以上を独立した社外取締役で構成することや、英文開示、国際的な基準に基づく気候変動リスクの開示義務化等)が求められます。

従って、プライム市場に属する企業は、持続的な成長を続けられるグローバル企業として、世界で存在感を高める一方、社会的な責任を果たすべき企業が多く集まることを期待せずにはいられません。時価総額が全てではありませんが、昨年の7月には、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)の時価総額が当時の換算で770兆円となり、日本株全体の時価総額を超えたとの報道があり、今年の1月3日にはアップル社だけで時価総額が3兆ドル(約340兆円)を突破し、1社だけで東証の半分近い時価総額となってきて
います(ちなみに日本株で時価総額トップは、トヨタ自動車の約37兆円です)。

GAFAの他にもマイクロソフトやテスラといった企業が世界の株式時価総額では上位にいますが、いずれも革新的な商品やサービスを世の中で提供し続けることで、成長を持続しています。プライム市場を選択した企業は、ガバナンス意識の高い企業であることは必要条件ですが、グローバル規模での高い成長を目指せる企業であることを十分条件として、目指して欲しいと思います。

現在の世の中は、巨大ハイテク企業による寡占化が進みつつあると言えます。寡占化は、適切な競争原理が働きにくくなるという弊害もありますし、それが海外企業だと、その分野での日本企業の存在感も薄れてしまいます。日本が世界での競争力を取り戻すには、日本企業の中からGAFAと伍する企業が出てくることが望まれますし、プライム市場はそれを後押しする市場であることを期待したいです。

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■ 3.再編が骨抜きとならないために

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東証の新市場区分において、プライム市場は上場基準(新規上場基準と上場維持基準があり、そのいずれも) を現在の市場一部よりも厳格化することで、所属する企業の質を高めることを意図しています。しかし一方で 、すでに東証一部に上場済みの企業については、上場維持基準を満たさなくても、経過措置基準に適合している限り、「維持基準の適合に向けた計画書」を提出することにより、当面の間は、プライム市場上場が維持できることになっています。

経過措置基準というのは非常に緩い基準となっており、例えば流通株式比率35%以上、流通株式の時価総額100億円以上という上場維持基準を満たしていなくても、経過措置基準では、流通株式比率5%以上、流通株式の時価総額10億円以上であれば認められることになります。しかも当面の間については、現時点では期限が明確となっていないため、本来の上場維持基準を満たさない会社が永久にプライム市場に残る可能性があります。

東証では、昨年の6月末時点で、東証一部上場企業のうち、664社は上場維持基準に適応していないと公表しており、これらがそのままプライム市場に移行しなければ、プライム市場に残留出来る企業は1,500社強と、現在の東証一部企業の7割程度になるはずでした。しかしながら、昨日公表の、プライム市場を選択した上場会社は前述した通り、現在の東証一部上場企業の約84%に当たる1,841社と、本来の上場維持基準 を満たす企業と340社近い開きがあることから、再編の効果が見えにくい形となっています。これは、上場維持基準を満たさない600社強のうち、約300社が経過措置を選択したことを意味します。

市場再編が骨抜きにならないようにするためには、経過措置にきちんと期限を設けて、これからIPOする企業と既存の上場企業で適用される上場維持基準の公平性を図るとともに、それぞれの市場区分への出入りを厳格にコントロールすることです。市場再編の結果、東証の市場毎の上場社数の比率は、プライムが49%、スタンダードが39%、グロースが12%となり、約半分がプライム市場を占めることになります。GAFAが上場する、ナスダックのグローバル・セレクト・マーケットでは、全上場企業約4千社のうち約4割の1,600社強が占めることと比べると、東証のプライム市場の希少価値はさほどないと言えるかもしれません。

東証のプライム市場を世界で活躍する真に魅力のある日本の優良企業が集う場とすることで、企業側もその市場を維持するための努力を怠らないですし、参加する上場企業としての企業価値を高めることで、株式市場としての持続的な発展に資することになると考えます。

なお余談ですが、東証株価指数(TOPIX)は現在は東証一部の全銘柄で構成されていますが、これには流動性の低い銘柄も含まれるため、市場再編に伴ってプライム市場と切り離され、今後は2025年1月まで段階的に(具体的には、流通時価総額100億円未満の銘柄については段階的ウエイト低減銘柄、として指定し、2022年10月以降、10段階に分けてTOPIX組入比率の逓減を開始する予定とのこと)、流動性を考慮した新基準で選定されることになっているようです。

■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 花房 幸範​


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