会計処理の落とし穴(受取配当金)
ながらく世間を騒がせていた新型コロナウイルス感染症も5月8日に5類感染症に移行されたこともあり、テレビ等でも話題となることが少なくなってきました。また、夏が近づき暑くなりつつあることからマスクをしている人も減ってきたように思えます。
最近、業務において会計処理を検討しているなかで、検討が不十分で、誤りそうになったことがありました。会計士として約20年間会計関連の業務に関わってきましたが、なんとなく理解をしているものの、正しい会計処理を十分に理解できていない会計処理の落とし穴があるものでまだまだ勉強が足りないと反省をしました。
今回は、そんな会計処理の落とし穴の1つである受取配当金についてお話したいと思います。
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■ 1.受取配当金の会計処理
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配当金の受取の会計処理について、多くの方は概ね次のように理解していると思います。
・通常は投資した会社のその他利益剰余金の処分として行われることから、原則として営業外収益の受取配当金とする。
・ただし、配当がその他資本剰余金の処分として行われる場合は、有価証券の帳簿価額から減額する。
会計基準を調べると、実は様々定められおり、ここに細かい落とし穴がいくつかあります。
まず、その他利益剰余金の処分による場合だったとしても、それが明らかに合理性を欠く場合は帳簿価額の減額を行う必要があります。(金融商品会計に関する実務指針286項)さらにその他利益剰余金の処分による配当の原資が、投資以後に投資先企業が計上した留保利益の額を超えている場合については会計処理が明記されていないため(「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」(以下、適用指針)13項)、事前に監査法人に相談することが望ましいと思われます。
また、その他資本剰余金の処分よる場合についても、対象となる有価証券が売買目的有価証券の場合は損益として処理(適用指針4項)し、そのほかにも次のとおり受取配当金に計上”できる”場合(適用指針5項)があります。
・時価のある有価証券を時価まで減損処理した期における配当
・投資先企業を結合当事企業とした企業再編が行われた場合において、結合後企業からの配当に相当する留保利益が当該企業再編直前に投資先企業において存在し、当該留保利益を原資とするものと認められる配当
・優先株式であって、払込額による償還が約定されており、一定の時期に償還されることが確実に見込まれる場合の当該優先株式に係る配当
このように、その他利益剰余金か、その他資本剰余金かだけで安易に会計処理を行ってしまうと、決算時に監査法人からの指摘で思わぬ修正が入る可能性があり注意が必要です。
ちなみにその他利益剰余金の処分か、その他資本剰余金かが不明な場合は、受取配当金として計上できますが、その後、その他資本剰余金の処分によるものであることが判明した場合はその時点で修正することになります(適用指針6項)
2.子会社からの受取配当金
子会社から資金を回収するためや、親会社の利益確保のために子会社からの配当を行うことがあります。
子会社からの受取配当金の会計処理を誤ったとしても四半期では連結開示のみであるため、受取配当金は連結上相殺消去されてしまうために誤りに気づかず、年度末に単体決算を行う際に初めて気付く恐れがあります。
また、子会社からの配当による利益を原資に親会社での配当を行うことを意図した場合、子会社からの受取配当金の会計処理にさらに留意が必要となります。もし本来帳簿価額の減額とすべき配当金を誤って受取配当金として処理してしまった結果、分配可能額を超過すると会社法違反となります。
このように投資先や子会社からの配当の会計処理は一見すると簡単そうですが、精緻に検討を行うには投資先や子会社から情報を収集する必要があり、意外に手間がかかります。(作成日:2023年6月9日)
■執筆者:ビズサプリグループ パートナー 泉 光一郎