議決権行使助言会社
1.議決権行使助言会社とは
議決権行使助言会社とは、株主総会での議決権を持つ機関投資家を顧客として、投資先企業の株主総会議案に対する議決権行使について賛成・反対の推奨を行う会社です。具体的には、機関投資家に対して株主総会での議決権行使に参考となるレポートを配信している会社です。
機関投資家は株主総会で議案に賛否を表明しなければなりませんが、投資先企業がとても多く、株主総会が一時的に集中する場合、個々の議案に十分に時間をかけるリソースがないため議決権行使会社のレポートを参考にするのです。
議決権行使助言会社で有名なのは、米国のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラスルイスの2社です。議決権行使助言会社は機関投資家や機関投資家の投資先企業から個々の議案に 対する賛否の理由を求められます。そのため、ガイドラインを公表しています。
以下2,3では、2017年に改定した議決権行使助言会社のガイドラインの主な改正点をご紹介します。
日本では、2017年5月に日本版スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家の議決権行使の個別開示が始まりました。日本の機関投資家も議決権行使助言会社のガイドラインを参考にすることでしょ う。そのためこのガイドラインはアメリカの会社が作成したものですが、日本でも注目を集めています。
2.相談役・顧問制度
日本企業では、取引先との関係維持や社内での相談に乗るため相談役や顧問がいる会社が多いようです。2016年9月に実施した経済産業省のアンケートによると、東証1,2部上場会社 のおよそ62%において相談役・顧問が就任していることが分かりました。
2017年の米ISSのガイドラインでは、相談役や顧問を新たに規定する定款変更議案について反対を推奨することとしました。それは、相談役や顧問は取締役ではないため、株主代表訴訟の対象にもならないし、また、その報酬や活動状況が外部に開示されないことが理由です。したがって、相談役や顧問を取締役の役職として規定する定款変更決議については反対を推奨していません。この場合、必要であれば取締役に対して責任を問うことができるためです。
会計不祥事問題が明らかになった東芝では、会長や社長を退いた経営者が相談役としてトップの人事や企業経営に大きな影響を与えてきました。後継者である現在の会長や社長が、前任者(相談役や顧問)が決めた企業戦略を変更することが難しくなってしまいます。東芝の会計不祥事事件がISSのガイドライン改訂に影響を与えたのかもしれません。
3.社外役員の兼務制限
米グラスルイスの2017年に改定したガイドラインでは、役員兼務数の上限の引き下げを行いました。上場会社の執行役員を務めていない役員については、6社以上の上場会社で取締役・監査役を兼任することに反対を推奨することとしました。上場会社の執行役員を務めている役員については、3社以上の上場会社で取締役・監査役を兼任することに反対を推奨することになりました。
近年の取締役または監査役の責務は重くなる一方で、社外役員がその役割を果たすためには、十分な時間を必要とするためです。社外役員は事前に送付される取締役会の資料を熟読し内容を理解したうえで取締役会へ出席したり、会社の事業などを理解するために、工場や店舗を往査したり、会社幹部と面談など、十分な時間が必要となるためです。兼務を制限して当該会社に時間をかけてほしいとの要請と思われます。
4.日本版スチュワードシップ・コードとの関連
前述した、2017年5月に改訂された日本版スチュワードシップ・コードでは、指針5−4にて、「機関投資家は、議決権行使助言会社のサービスを利用する場合であっても、議決権行使助言会社の助言に機械的に依拠するのではなく、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえ、自らの責任と判断の下で議決権を行使すべきである。」としています。
ISSでは、取締役会への出席率が75%に満たない取締役選任議案に反対推奨する方針でしたが、2016年6月に開催されたソフトバンクグループの株主総会で前年度の取締役会出席率が56%と、75%に満たない社外取締役である永守重信・日本電産会長兼社長の再任議案に賛成推奨したようです。取締役会への出席率は低いものの人物本位で評価した結果です。形式にとらわれず、実質で評価することが必要ではないでしょうか。(作成日:2017年10月17日)
■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 庄村 裕