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コーポレートガバナンスと企業業績の関係

今回は、素朴な疑問として、コーポレートガバナンスが強化されれば、企業業績が良くなるのか、というテーマです。読者の皆さんはどうお考えでしょうか。

1.Comply or Explain原則による規制強化

上場企業に対するコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」)の導入は、企業としてはやらないという選択肢を取ることはできないことから、規制強化の一つであると考える企業は、もしかしたら多いのではないかと思います。

ご存知のとおり、コードはComply or Explainの原則に基づいていることから、説明をすれば準拠しなくても問題ないのですが、横並び指向の強い日本企業は、Explainをできるだけ少なくしようと努力しようとすると思います。その結果として、やらざるを得ないことになってしまいます。 Comply or Explain原則は、よく考えられた規制強化の方法であると思います。

2.コーポレートガバナンス・コード導入の趣旨

コーポレートガバナンスを強化したら何か良いことがあるのでしょうか。安倍内閣「日本再興戦略」改訂 2014 -未来への挑戦 (2014年6月)では、次のように述べています。

「日本企業の「稼ぐ力」、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何が必要か。まずは、コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。」(「均てん」は、誰もが利益を享受できるようにするということだそうです。)

日本企業の「稼ぐ力」(中長期的な収益性・生産性)を高めるためには、まずコーポレートガバナンスを強化することが必要と説いています。これは、コーポレートガバナンスを強化すれば中長期的に企業業績が良くなるということを前提にしています。でも、実は誰もそれを証明できていないのではないかと思います。すなわち、コーポレートガバナンスを強化すると企業業績が良くなるというのは、まだ証明されていない仮説と考えてよいと思います。

3.これまで影を潜めていたコーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスが「稼ぐ力」を強化するということは、筆者はこれまで聞いたことはなかったように思います。そもそもコーポレートガバナンス 強化は、経営者の暴走防止やコンプライアンス強化のためのものであると考えられていたのです。

ガバナンス体制としては監査役設置より優れているとされている委員会設置会社((以下「指名委員会等設置会社」)にいち早く移行したソニー、日立、東芝の状況を見れば、コーポレートガバナンスが稼ぐ力に寄与したとかどうか疑わしいと思わざるを得ないのです。 (日立は2014年にV字回復していますので、この点は回を改めて検討したいと思います。)

4.平成28年度の経済財政白書の位置づけ

キャッシュリッチ(現金預金残高が多い)の割には、売上高利益率が低いのは、日本企業が積極的な投資をして来なかったからであると考えられています。社外取締役が経営者を叱咤激励して、積極的なリスクテイクを促すことにより、「稼ぐ力」が強化できることがあるでしょう。

しかし、政府としては「稼ぐ力」を高めるためにはコーポレートガバナンス強化と謳った手前、なんらかの証拠を示す必要があります。平成28年度の経済再生白書では、下記のとおりコーポレートガバナンスとROEに有意な関係があることが記述されています。

「企業のコーポレートガバナンスへの取組とROEの関係をみると、「独立社外取締役数」については、増加した企業群、そして、「外国人株式所有比率」については、議決権の3分の1を上回る企業群が、いずれも、コーポレートガバナンスへの取組が進んでいる企業群において、ROEが高くなる傾向が示された。」

おそらく、これは、「稼ぐ力」とコーポレートガバナンス強化との有意義な関係を求めた記述と思いますが、あまり成功しているとは言えません。つまり、業績の良い会社は、資金的な余裕があるためコーポレートガバナンスについても熱心という傾向があることも事実ではないでしょうか。コーポレートガバナンスが良いから儲かったのではなく、儲かった会社がコーポレートガバナンスを良くした、ということも逆に言えると思います。

5.過去のデータからは判断不能

コーポレートガバナンスと企業業績の関係を証明するためには、もう少し時間がかると筆者は考えています。前述の「日本再興計画」改定2014には、「コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革」すると書いてあります。このため、コーポレートガバナンスの目的がコンプライアンスであった時代を対象とした分析では判断できないと思います。(作成日:2016年10月6日)

■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 久保 惠一

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