インボイス制度について
今回は、令和5年度税制改正に盛り込まれる予定の負担軽減措置も含めて改めてインボイス制度についてお話したいと思います。
1.インボイス制度のおさらい
そもそもインボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を行うための要件の話となります。
これまでも消費税の仕入税額控除を行うためには、受領した請求書等について作成者の氏名、年月日、内容等記載すべき項目要件がありました。今回インボイス制度の導入に伴い、従来の項目要件に加え、そもそも「適格請求書発行事業者」の発行する請求書等でなければ、受領した側が消費税の仕入税額控除を行うことができなくなるということがインボイス制度の概要になります。
なお、「適格請求書発行事業者」とは適格請求書を発行できる事業者であり、税務署に届出を行い、適格請求書発行業者の登録番号を取得した事業者のことです。
インボイス制度導入に対する反対意見としては、制度導入における事務手続きの煩雑さということもありますが、従来免税事業者として消費税を納付していなかった事業者が、これまでは売上金を請求する際に消費税を加えて請求していたところ、インボイス制度導入後は適格請求書発行事業者とならない限り消費税を加算して請求することができなくなり実質的な手取が減少してしまうということが反対意見の大半のようです。
今回は免税事業者の定義やその問題点などを詳しく述べることは省略しますが、インボイス制度に対する多くの反対意見があった結果、導入まで1年をきったこの時期に新たな負担軽減措置が検討されることになりました。
2.令和5年税制改正における負担軽減措置
今回の令和5年税制改正大綱で示された新たな負担軽減措置は大きく3つあります。
1)小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)
従来免税事業者となっていた事業者は、適格請求書発行事業者となり消費税を納付する場合は、課税売上に係る消費税の2割を納めることでよいという特例です。
例えば、売上770万円(税込)、経費165万円(税込)の事業者の場合、
従来:手取は605万円(=770万円-165万円)
原則:手取は550万円(=605万円-消費税納付55万円(=70万円-15万円))
となることころ
2割特例:手取は591万円(=605万円-消費税納付14万円(=70万円×2割))
となり緩和されることになります。ただし、こちらは概ね3年間のみの限定となります。
2)一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)
上述のとおり現行制度においても消費税の仕入税額控除を行うためには要件に合致した請求書を受領する必要があるのですが、税込3万円未満の請求の場合は、帳簿等に記載するだけで仕入税額控除が認められていました。(余談ですが、あくまで消費税額控除の話であり、法人税の損金算入のためにも請求書等がなくてもいいという話ではありません。)
新たに導入予定のインボイス制度では上記の少額特例の定めがなくなります。
ただし、事務負担の軽減のために、一定規模以下(基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下)である事業者については、税込1万円未満については引き続き帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められるようになります。こちらも6年間の期限付きとなります。
3)少額な返還インボイスの交付義務の見直し
売上代金の入金の際に振込手数料を差し引かれて入金されることがありますが、インボイス制度導入に伴いその場合は返還インボイスを交付する義務が課されることになりました。
返還インボイスの詳細は省きますが、実際に振込手数料のために新たな事務負担が増える懸念から少額(1万円未満)については返還インボイスの交付が不要となりました。
個人的には1の負担軽減措置については3年間という短期間の特例で軽減措置自体も中途半端で実務上混乱すると思っており、2はそもそも従来の規定を改正する必要があったのかという疑問が残ります。
3については、実務に配慮した大変意味のある軽減措置であると考えています。
3.社内における具体的な対応
インボイス制度の概要や負担軽減措置がある程度定まり、また実際の施行まで半年に迫っており、免税事業者と取引を行っている会社の経理部門では具体的な対応を検討する必要があります。
その際、経理部門内での対応、事業部門での対応、全社員への対応の3つの観点でまとめたいと思います。
1)経理部門内での対応
インボイス制度については、伝票を起票する経理メンバー全員に関係があるうえに、制度導入にあたり紆余曲折あったことで軽減措置や特例対応のための帳簿の記載方法など複雑になっているため、改めて経理部門内での勉強会を実施するなどインボイス制度に対する正しい理解が必要になるかと思います。
そのうえで、情報システム部門と連携し自社の会計システムにおけるインボイス制度への対応を把握したうえで、業務フローの変更を検討する必要があります。
例えば、私の知っているだけでも次のようなことがあります。
・Aシステム:「課税売上対応10%免税事業者80%」というように課税区分のみで対応するため、請求書等で免税事業者である場合は伝票入力の都度課税区分
および消費税額を手入力で修正をするか、あるいは修正は課税区分のみとして月次で免税事業者に対する消費税額はまとめて振替仕訳にて修正を行う。
・Bシステム:取引先マスタに免税事業者フラグが付与されるため、伝票入力時に課税区分及び消費税額自動提案されるが、取引先について新しいインボイス制度においてのマスタメンテが必要であり、課税事業者への期中変更については請求書の受領の都度確認が必要となる。
2)事業部への説明
取引先に対して適格請求書発行事業者の登録(予定)の有無を確認する必要があります。
免税事業者は消費税の仕入税額控除や今回のインボイス制度に対する理解が浅いことも多く、いざ2023年10月になり、免税業者に対して消費税は加算請求できないという対応をした場合に取引金額についてもめることや下請法上問題となる可能性があり、適格請求書発行業者とならない取引先に対して事前に対応方針を決めるためです。
参考:「インボイス制度後の免税事業者との取引等に関するQ&A」(中小企業庁)
(https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/invoice/qa.html)
事務上はインボイス制度導入に際して免税事業者がうける売上に関する消費税金額の不利益について、ある程度発注元が負担することも考えられることから、上述の2割特例を考慮すると、免税事業者に対して、適格請求書発行事業者への登録の有無に応じて対応方針を決めることとなります。
例えば、従来税込110万円の取引をしている場合、
<登録しない場合>お互い約1万円負担するとして、3年間は税込109万円とする
<登録する場合>2割特例を考慮し、3年間は税込110万円のままとする
ことなどが考えられます。
3)全社員への説明
従来、従業員の立替経費について、領収書の名義や区分税率などの記載内容についてそこまで厳格にはチェックしていない会社が多かったかと思いますが、インボイス制度導入後は記載内容が厳格化されるとともに個別の特例がいくつかあるため、説明会とともに社内Q&Aの整備が必要となることが考えられます。
業種問わず一般的な会社における具体的な内容としては次のようなことが考えられます。
・簡易インボイスの考え方
・(一定規模以下の事業者)少額の場合の特例
・公共交通機関特例
・入場券等回収特例
・自販機等特例
・出張旅費特例
このようにインボイス制度は単なる税制改正とは異なり取引先や一般の従業員等影響範囲が広いため、10月よりスムーズに導入するためにはこの4月から徐々に対応を進めていくことが必要となります。(作成日: 2023年3月2日)
■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 泉 光一郎
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