セグメント情報の開示
1.セグメント情報とは
セグメント情報は、企業集団の活動を製品・サービス別、地域別、規制環境別等に区分した単位(セグメント)ごとの情報で、連結財務諸表の注記事項です。 企業のセグメントごとの規模、利益貢献度、成長傾向などを示すことにより、 多角化・国際化した企業の業績や見込みについて財務諸表の利用者に有用な情報を提供することを目的としています。
我が国のセグメント会計基準では、国際財務報告基準や米国会計基準で採用されている「マネジメント・アプローチ」が採用されています。マネジメント・アプローチとは、経営上の意思決定を行い、業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメ ント情報の開示を行う方法です。すなわち、マネジメント・アプローチでは、セグメントの区分方法あるいは測定方法が特定の方法に限定されておらず、経営者の意思決定や業績評価に使用されているありのままの情報を開示することを求めています。
マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報により、財務諸表利用者が経営者の視点で企業集団を理解できる情報を開示し、意思決定に有用な情報を提供ができるようになりました。
2.マネジメント・アプローチの特徴と長所・短所
マネジメント・アプローチには以下の特徴があります。
(1)取締役会等での経営意思決定や業績評価で使用している事業部、部門、子会社、地域等の会社内部の単位が報告セグメントとしてそのまま使用されます。
(2)セグメント別の業績評価をするために、特定のセグメントに発生する費用は当該セグメントに集計されます。特定のセグメントに紐づかない全社費用はいずれのセグメントにも集計されません。
(3)セグメント情報は企業内部の作成基準に従って作成された情報であり、財務諸表を作成するために採用される会計処理の原則および手続に準拠することを求めていません。そのため、連結財務諸表計上額と報告セグメントの合計額は一致しないことがあり、その差異は開示されることになります。
上記の特徴をもつマネジメント・アプローチに基づくセグメント情報には、次 のような長所があると考えられています。
まずは、財務諸表利用者が実際の企業内部での経営意思決定や業績評価で使われた情報をもとに経営者の視点で会社を見ることにより、投資意思決定の判断ができます。 また、その情報は取締役会等で既に作成・使用されていますので、作成にかかる追加費用が比較的少なくなります。最後に、実際の企業の組織構造に基づく区分を行うため、その区分に際して恣意性が入りづらくなります。
しかし、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報は、企業ごとに作成方針が異なっているため、同業種間等の比較が困難になってしまいます。また、実際に内部で利用されている財務情報を開示することなるので、企業の事業活動の障害となる可能性があるという短所を持っています。会社によっては利益率の高い事業を開示することにより得意先との価格交渉で値引きを迫られてしまうことも考えられます。
3.セグメント情報の開示項目
セグメント情報の注記では、まず、報告セグメントに関する情報として、報告セグメント別の売上高、利益(損失)、資産、負債等の額、測定方法を開示します。実際の集計作業では、セグメントにおける取引を集計し、セグメント間の取引を消去することになります。
また、関連情報として、製品・サービスに関する情報(外部顧客への売上高)、地域に関する情報(地域別売上高、有形固定資産の額)、主要な顧客に関する情報(当該顧客の名称、売上高、主要セグメントの名称)を開示します。
次に、減損損失に関する情報として、減損損失の報告セグメント別の内訳を開 示します。 さらに、のれんに関する情報として、当期償却額、当期末残高の報告セグメント別の内訳を開示します。負ののれんがある場合には、負ののれんも報告セグメント別に開示します。
例えば、2017年3月期の有価証券報告書の提出期限延長申請しているT社では、米国原発取得で計上したのれんの減損処理で監査法人ともめているようで す。減損損失に関する情報で、問題のある米原発子会社が属する「電力・社会インフラ」セグメントで巨額な減損損失が計上されるかもしれません。また、報道されているように半導体事業を外部に売却すれば「電子デバイス」事業が報告 セグメントからなくなる可能性もあります。(作成日:2017年7月7日)
■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 庄村 裕