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経理の役割

1.経理部内の役割の分化

「経理の業務」の記事では、経理部門に期待されている役割が変わってきており、従来の数値集計の役割よりも、分析や分析、経理情報等に潜んでいる経営上の問題点の把握、さらにマネジメントが経営判断を実施する際に有用な情報を提供することがより重要となってきていることをお話ししました。

とはいっても、やはり決算作業を締めて数値を集計することや支払業務は、申請された書類(ワークフローを利用した電子申請の場合もありますが)と添付されているエビデンスを照合するといった労働集約的な作業となり、経理部門はその実施にかなり時間を費やすこととなります。そのため、一部の経理部員のみが上記の業務を実施することとなり、経理部員の大半の人はいわゆる定型的業務(ルーチン)を実施することとなります。 ある一定規模以上の経理部門において、各部員は次のような担当に分かれていると思います。

責任者:実務業務はせず、社内調整や部員マネジメントを実施する部門責任者。

プレイングマネージャー: 決算に基づいた各種資料の分析や月次のマネジメントへの報告書の作成を担当。必要な場合はルーチンも実施し、また中期計画や予算との絡みもあって会社によっては経営企画部門や事業部内管理部門が担当することもある。

ルーチンマネージャー:ルーチン担当者を仕切り、定型作業の円滑な遂行及び効率化を担当。

ルーチン担当者:伝票処理や支払い処理といったルーチンの実際の処理を担当。いわゆる経理事務員。

その他、もちろんM&A、法定開示、会計システム関連の導入といったスポット業務については各担当者が実施することになるかと思います。

2.経理部門の置かれている状況

従来より経理業務のうち、ルーチン担当者が担ってきた業務、例えば経費精算業務などはグループ内のシェアード化や海外へのオフショア化によって集約化、あるいは会社からなくなるといわれてきました。これに加え、近年においては、人工知能(AI)やRPA(Robotic Process Automation)によって、そもそもそういった業務は人が担当する業務ではなくなり消える職業であるともいわれています。

野村総合研究所の2015年の発表においては、経理事務員はAIやRPA等による代替可能性が高い職業とされており、次のような見解が述べられております。

「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い傾向が確認できました。」 (「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」株式会社 野村総合研究所 2015年)

元々、経理部門は会社内において力が強くないことが多いことですが、こういった研究や社会における見方が広がることにより、ますます社内における経理部門の地位は低下し、その結果人員を削減されることや、場合によっては事業部門で評価の低い社員の異動先になってしまうなど厳しい状況に追い込まれる可能性があります。

3.経理部員のキャリアの悩み

前回のメルマガのとおり経理部門がますます忙しくなってきているという状況に加え、人口知能等により将来的にはなくなる職業の1つと言われ、ますます難しい状況であるといえますが、さらに経理部門を含む人事や総務といったバックオフィス部門の部員はそのキャリアパスにも別の悩みがあります。

バックオフィス部門は、それなりに専門性があるためかえって社内においては異動することが難しく、結果としてその所属する部門で昇進していかざるをえ ません。ところが、日本中、あるいは海外も含めて子会社を多数もち、経理部員としてもローテーションができる大企業は別として、大半の企業では、経理部は1つであり経理部長は1人です。そして、上記に述べたように専門性があるが故に、部長クラスの人が異動する ことはさらに難しく、特に問題が顕在化しない限り会社としても経理部長を異動させるインセンティブはありません。

そのため、経理部員の多くは昇進のポストが空いておらず、報酬の面においても個人の成長の面においても業務に対するモチベーションを維持することが困難になりやすいと個人的には思っています。(もちろん、ワークライフバランスを重視するなど別な観点から評価するとよい点もありますが。)

4.経理部員の目指すべき方向性

さきほどの野村総合研究所の発表においては、次のようにも述べられています。「芸術、歴史学・考古学、哲学・神学など抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替は難しい傾向があります。」

経理部門と近しい具体的な職業としては、経営コンサルタントや中小企業診断士が代替可能性の低い職業として挙げられています。これは外部のコンサルティング業がいい意味ではなく、今後、経理部門は社内において、経営陣、事業部門 等に対してコンサルティング的な業務、単なる伝票処理部門ではなく他部門との連携や他部門の課題解決の助けとなるような業務にシフトするべきということだと考えることができます。

そのためには、経理部員は従来の業務に固執することなく、積極的に他の部門、特に事業部門の実施している業務について興味をもち、可能であれば異動して社内の理解を深めていくことが必要ではないかと思っております。(作成日:2018年6月6日)

■執筆者:株式会社ビズサプリ パートナー 泉 光一郎

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