DXの定義はもっとシンプルでいいのでは?
研修で伝えるDXの定義
DXを推進するためにITリテラシーを高めたいと要望する法人に対して、コンサルティングや研修を実施することがあります。
今月、2025年1月には神奈川県愛川町で研修を実施する予定です。
当然ながら、冒頭でDXとは何かという説明をするのですが、私は「組織目標を達成するためにITを活用すること」と説明することにしています。
あまりにも単純で拍子抜けするかもしれませんが、私が支援する組織の多くは、そもそもITが得意でないのです。
というのも、たとえ東証プライム企業であっても、ITに対する苦手意識を持っていることが少なくありません。そのため、DXに積極的に取り組む気持ちを全従業員が共有していないケースが非常に多いと感じます。
そういった企業であっても、ホームページ上では社長がDXへの取り組みを宣言しており、現場ではそれに向けて行動を取らなければならないという実態があったりします。
しかし、経営陣もITに詳しくない場合が多く、「DXを推進せよ」と号令をかけても、大きな成果が上がらないことが実情です。
その一方で、そうした企業が経営関連の雑誌で「DXの優良企業」として紹介されることもあります。
つまり、多くの組織の一般的な従業員はITに苦手意識がありDXを好意的に捉えていないのです。
ITがわかりにくい原因のひとつは用語がわかりづらいことです。ですから、DXの定義について話を戻すと、日本国内では政府が高尚な、つまり複雑でわかりづらい定義を行い、それが一般的にも広まっています。
国内でどういった定義が広がっているか見てみましょう。
日本国内のDXの定義
経済産業省の定義
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
(『DX推進ガイドライン』より)
総務省の定義
「デジタル技術を活用して、経済社会の様々な課題を解決し、人々の生活の質を向上させること。」
(『情報通信白書』より)
経産省と総務省で縄張り争いをしているように見えます。DXが進まない日本の現状を映しているような気もして興味深いのですが、それはさておき、役所が作る文章なので、反対意見に耐えられるよう包括的で抽象度の高い仕上がりになっています。
また、DXにおいては「D=デジタル技術を使うこと」よりも「X=事業に変革をもたらすこと」の方が重要なのですが、総務省の定義では、やや技術に重点を置いているように感じます。総務省だとNTTからのメンバーがいて発言権を持っていたのではないかと邪推できます。
海外では、もっとシンプルな定義になっているのでしょうか?
海外で広く認識されているDXの定義
MIT(マサチューセッツ工科大学)の定義
「DXは、デジタルテクノロジーを活用して、顧客体験、業務運営モデル、ビジネスモデルを根本的に変革し、新たな価値を生み出すこと。」
Forrester Researchの定義
「DXは、顧客の期待に応え、競争優位性を確保するために、テクノロジーを活用して業務を再構築すること。」
専門的知見があれば、日本の定義との違いを分析することができるのでしょうが、一般のユーザには難しい気がします。また、MITの定義ではビジネスモデルの根本的変革とは何かイメージできる必要がありますし、Forrester Researchの定義では、業務の再構築(BPRと言い換えてもいいとは思いますが)について多少の知識が必要だと思います。
結論
ITに関しては、専門性のある人たちと、ついていけない人たちの間に、一種の分断が生じているように感じており、その原因や対策については別の機会に述べたいのですが、DXの定義については、厳密さは追いかけずわかりやすくすることが肝心だと思います。
ちなみに、DXでは、X、私の定義では組織目標の達成、つまり一般の企業では儲かること、が大事なので、手段としてのD:デジタルを使う必要はないと話しています。
ただ、Xの実現について考えてもらうワークを実施すると、いまやITを使わずに競争優位を築くことは難しいと気づくことになります。