トップの交代時期:政治リーダーはコロコロ変わるが・・・
2024年の衆院選の投票が目前に迫っています。
ここでは個別の政党や政策について論じることは避けますが、日本の政治が共通して抱えている問題点について、企業経営との対比から考えてみたいと思います。取り上げたい問題点は、政治のリーダーが頻繁に交代してしまうことです。
日本の政治の仕組み上、ある程度は仕方のないことだと思いますが、自民党内では、選挙で勝てなさそうだと首相を交代させ、新鮮な印象があるうちに選挙を行うということが繰り返されてきました。民主党政権時代も同様です。
自民党の総裁の場合、任期は3年ですが、党内の支持や情勢により短期間で交代することが多く、安定的な長期政権を築くのは難しいのが実情です。その結果、リーダーの頻繁な交代が続いています。
米国では、大統領の任期は4年で最長2期8年まで務めることができますが、多くの場合、再選されて8年間大統領の地位にとどまります。
ドイツの首相は任期が4年ですが、再選は無制限であり、ドイツのメルケル首相は16年間の長期政権を務めました。
英国では任期に制限がないものの、議会の支持を失うと早期に退陣することがあります。とはいえ、マーガレット・サッチャーやトニー・ブレアのように、10年以上の長期にわたり政権を維持した例もあります。
ちなみに、中国やロシアでは再選の制限があっても、習近平やプーチンのように事実上ルールを変更して長期の政権を維持することもあります
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民主主義国家の場合、国民の信任を失えば政権が交代するのは当然ですが、特に外交上、トップが頻繁に変わると海外からの信頼が損なわれたり、長期的視点に基づいた政策の実行が滞ったりするというマイナス面が大きいと考えます。
人類の歴史で最も安定して栄えた時代の一つとして、ローマの「五賢帝」の時代があります。この時代では5人の皇帝がそれぞれ約20年間、皇帝の地位にとどまりました。
日本の企業では、孫正義氏、柳井正氏、稲盛和夫氏、ニトリの似鳥昭雄氏といった創業者が長年にわたりトップに立ち、業績を残している例が多数あります。
創業者でなくても、ニデックの永守重信氏やセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文氏など、長期間にわたり企業をリードした例もあります。業績の良い企業はトップがあまり交代せず、長期にわたって経営の責任を担っていることが一般的な傾向として見られます。
もちろん、業績が悪ければトップを交代せざるを得ないという面もあります。
日本の政治に話を戻すと、トップが頻繁に交代することは、政治が安定していないことの裏返しであるようにも思います。
特に国民にとって受け入れがたい政策、たとえば増税などを実行するためには、安定した政治が必要です。
首相になるチャンスがあっても、「どうせ短期間で終わるだろうから、その次でいい」という判断が働き、本当の意味での権力闘争を経てトップに立つ人が少ないという問題もあると思います。
大臣は首相以上に頻繁に交代し、所管する分野に詳しくなくても大臣に任命されることが少なくありません。
例えば、財務大臣がマクロ経済学に詳しくなかったり、厚生労働大臣が医療の専門知識を持っていなかったりすることは、日本では一般的ですが、米国などの先進国ではあまり見られない傾向だと思います。
こうした状況を考えると、政治の世界でどこまで民主的な手続きを重視するべきか、議論が必要かもしれません。
自民党や立憲民主党は選挙のプロセスを通じてトップが選ばれます。
公明党や共産党も比較的最近トップが交代しましたが、あまりニュースにならないため、どのようにトップが選ばれたのかはよくわかりません。
企業の場合、取締役会で経営責任者を選ぶことになっていますが、実際には引退する前任者が後継者を指名することが多いように思います。
民主的な手続きを重視する政治の世界で、どれだけ企業的な手法を取り入れるべきか不明ですが、少なくとも、首相や大臣の任期については安易に短期間で交代させるのではなく、専門性を持つ人が長期間にわたって職務を全うすることが求められるべきでしょう。
企業の場合、一旦トップの地位に就くと10年政権が続くことが慣例となっている企業では、長期的視座に立って戦略を練り、実行することになります。私自身、さまざまな企業で働き、10人以上のトップが経営を仕切ってきまりたが、CEOが長年にわたり任務を全うする企業およびオーナーシップをもつ創業者のほうが業績がよかったといえます。民主主義のよさを保ちながら、任期のあり方については改善を望んでいます。