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初任給30万円時代、ボーナスも退職金も「給与」が変わる?|ちゅん

相次ぐ「初任給引き上げ」

初任給の引き上げをするという企業のニュースが相次いでいます。

「ファーストリテイリングは25年3月以降に入社する新卒社員の初任給を、現在の30万円から33万円に」

「三井住友銀行は26年4月入行の大学新卒の初任給を現状の25万5,000円から30万円に」

多くの企業が30万円台にのせようとしている、ということも驚きですが、個人的にはこの引き上げの流れが幅広い業種で起きていることにダイナミックさを感じています。

先日、非常に驚く取材がありました。外食産業を専門に扱う人材紹介会社、itkの方のお話を聞くと、なんと今、多くの外食企業で「20歳前後の未経験の方で、月給30万円といった条件はもはや普通。35万円近い条件を提示する企業すらある」というのです。

社会人経験がある方の転職なので、「新卒初任給」と同じ条件とは言えません。しかし20代前半・未経験という条件だけみれば、新卒の方と大きく変わらないとも考えられます。

一般的に、大手金融や不動産などと比べると、外食産業は賃金水準が低いというイメージを持たれがちです。しかし直近、新聞紙面をにぎわせている大手企業の初任給と同等の給与を、外食企業が中途採用する人材に提示し始めているというのです。

新入社員じゃない人はどうなる?

少子化や人手不足を背景に、企業はとにかく、目の前で足りない人員を確保するため、必死になっているようにも見えます。

働く人にとって、採用時の待遇改善は喜ばしいことかもしれません。しかし、そう単純ではない可能性もあります。

経験の浅い人材だけ給与水準を引き上げれば、経験が長くより成果を出している先輩社員らに不満がたまります。公正に処遇しようと思えば、全体の給与水準も引き上げざるを得ませんが、生産性がこれまでと変わらないと仮定すれば、企業にとっては単純な「コストアップ」です。

大和ハウス工業は、大卒初任給を2025年4月にこれまでの25万円から35万円に引き上げるとともに、社員全体の給与を年収ベースで平均10%引き上げることを明らかにしています。

ただ、全体の給与を引き上げる余裕がある企業なら別ですが、そうでない会社は全員の待遇を引き上げることはできません。「一部の人は上げ、それ以外の人はそのままか場合によって下げる」ことになります。そうだとすると、より多くの企業で「入った直後はいいけど、その後給与を上げていくための条件が厳しい」ということが起きかねません。

ソニーグループの「冬のボーナス廃止」

もう一つ、気になるニュースがありました。

「ソニーグループが、冬のボーナスを廃止する」というものです。

廃止したボーナス分の給与は、月給と夏のボーナスに振り分けるとのことで、重要なのは「月給は最大14%引き上げられる」という部分でしょう。

一見すると「成果主義」に反する動きのようにも思えますが、個人的にはこれは「会社の業績に左右されず、個人に報いやすくする仕組み」ととらえました。

業績連動型の賞与を取り入れている会社は多くありますが、業績連動色が強ければ強いほど、「どれだけ個人として成果を出しても、その年に会社全体が業績不振だったら報われない」ということも示しています。

逆に、個人としては大した成果を上げなかったとしても、会社全体の業績がよければ報われるということで、これは高い成果を上げる優秀な人材に不満がたまりやすくなります。

会社からすれば、業績連動部分をなくすということは、固定的な人件費が上がるのでコストアップです。ソニーグループがそれをしたというのは、より従業員に報いる必要があると考えたからでしょう。

記事にはそこまで書かれていませんが、人材の定着につなげる狙いがあるように思えます。

退職金の見直しも今後の焦点

2024年、ある上場企業の人事担当役員と話していたところ、「中途入社者が増え、ジョブ型の職場になれば退職金制度も当然見直すことになる」と言っていました。

退職金は「給料の後払い」という性質があると指摘されています。もし会社が、同じ原資で目の前の従業員の待遇を高めようと考えれば、退職金で支払う分を月額給与に含める、という考え方もあります。

人手不足が多くの業界で深刻になり、中途採用も含めた人材獲得合戦は激しさを増しています。新たな人を採用するにせよ、離職を防ぐにせよ「目の前の報酬アップ」は分かりやすい手だてです。

しかしそれを実現するため、企業はさまざまな工夫をこらします。自分にとって有利な動きなのか、そうでないのか。転職を検討する人は、自社だけでなく、世の中の動きにも注意をしたほうがいい時代になってきたと言えるのかもしれません。