月は一面しか地球に向けない 「六人の嘘つきな大学生」と採用選考|ちゅん
「月は地球に、いつも同じ面を向けている。マルかバツか」
中学の理科の授業でそう問われ、勢いよく挙手して「バツ」と答えた記憶があります。理由を問われ「月も自転しているから」と答えた私は、おそらく先生にとって「思惑通りに間違えるいい生徒」だったのではないでしょうか。
正解はマル。月はいつも同じ面を地球に向けています。
「月の自転と公転の周期が同じ1日だから」というのが、その理由でした。
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「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成)という小説があります。
2024年に映画化も予定されているとのことでネタバレになることは避けますが、就職活動をテーマにした作品です。そしてタイトルにある「嘘つき」のモチーフとして登場するのがこの月の特性です。
地球に、同じ面しか見せない月。
それは、互いに一面しか見ることのできない「就活生」と「選考する企業」を暗喩しています。機会の限られた選考の場では、ほとんどの場合、互いに「裏の顔」を知ることはできません。
作品の舞台は就職活動ですが、転職活動においても、この「互いに一面しか見られない」という関係性は基本的には同じかと思います。
ただ、就職活動と転職活動ではいささか異なる特性もあるように思います。それは「光が当たり、見えている範囲」です。
個人が「月=見られる側」となる場合、転職活動の時に光が当たる部分は、就活時よりも少なくなることが多いのではないでしょうか。
個人の経験が豊富になればなるほど、限られた選考の機会でそのすべてに注目することは難しくなります。必然、企業は個人を、求めるスキルや経験、重視する特性に絞って評価をしようとする傾向が強まります。
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ひるがえって、企業が月となる場合はどうでしょう。個人的には、光の当たる部分は転職活動の時の方が大きい気がします。
自分の場合、新卒の時は業界や初任給、「就職偏差値」くらいしか気にしませんでした。それが15年後の初転職の時は、働き方やさまざまな人事制度、業績、業界の競争環境、経営体制、経営陣や従業員のひととなりなど、さまざまなことを気にするようになりました。
もちろん、そのすべてが明らかになるわけではありません。しかし社会人経験が豊富になったからこそできるようになったこともあります。多様な公表資料へのアクセス、その読み解き、口コミサイトや人脈を活用した情報収集などです。それによって浮かび上がる企業の姿もあるように思います。
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「さまざまな情報の開示義務がある大企業や上場企業かどうかで違う」「重要ポジションなら企業だってレファレンスチェックで『裏側』を見ようとするのでは」
そんな声が聞こえてきそうです。それはその通りだと思います。
主張としてはクレーターだらけかと思いますが、「もしあの時、今と同じことが分かっていたら、別の道を選んでいたかもしれない」。そう思ったことがある人は、少なくないのではないでしょうか。
私自身、20代の時の決断を誤りとは思っていません。ですが、もし今働く場所を選ぶなら、選び方は全く変わると思います。「裏の顔」というのは単に「自分の知らない側面」というだけで、悪いものとは限らないからです。
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「月はいつも、同じ面を地球に向けている」。そのことを教えてくれた先生は、「ですが」と続けて、もう一つ大事なことを教えてくれました。
「ですがそれは、人類が月の裏側を見ることができないという意味ではありません。地球を一歩、出さえすれば、違う姿を月は見せてくれるのです」
こちらの取材で、キャリアに対する「光の当て方」について考えさせられました。
≪転職ドキュメント さよならファーストキャリア(全4回)≫