食卓の先にいる「あの人」とつながる
「おじいちゃんがガンになった。」母から去年の暮れにそんな連絡があった。詳しく話を聞くとガンは初期のもので治療をすれば問題ないし入院もする必要がなさそうとのことだった。しかし、私の頭の中にはいくつかの心配がぐるぐると巡っていた。もし急に体調を崩したら誰が助けてくれるのだろう?祖母は免許をもっていないから祖父が入院したらスーパーにもいけないのではないか?近くにいない私がどうやって不調に気づくことができるだろう?
そんな自分の不安をどうにかしたくてプロジェクトを始めた。
「人とつながる」というリスクヘッジ
貯金する、保険に入る、スキルを磨く、など。様々なリスクヘッジを日常の中で私たちは行っている。しかし、「人とつながる」というリスクヘッジについてはどうだろうか?高齢者二人暮らしの私の祖父母の場合、急に倒れた場合の一番のリスクヘッジは周囲に助けてくれる人を作っておくということだろう。こういった人とのつながりを豊かにするということを私たちはないがしろにしてはいないだろうか?
食卓のその先のストーリー
そうはいっても私たちは学校や仕事、やらなければならないことに追われていて、まわりの人とのつながりを豊かにするために多くの時間を割くことは難しい。そうであるのならば、生活の中で実は既につながっている人の存在感を強めていくことで「人とつながる」というリスクヘッジを機能させることができるのではないか。
今日食べたものを想像してほしい。今日食べたもののその先には生産者さんがいて、卸売業、小売業、運送業の方がいる。たくさんの人が、あなたが食べたもののその先にはいる。ただ、今はそれが非常に見えにくい形であるだけだ。そして、これは消費者の側からだけでなく、生産者の側からも同じことが言える。市場のその先の先にある消費者は生産者から見えにくい。私たちのプロジェクトvegecommuではこれを可視化していく取り組みを行っている。
先ほど紹介した私の祖父母も農家を営んでいる。私の祖父母は、私が好きだからという理由でいくつかの野菜を作っている。幼いころに好きだったトウモロコシを夏になると今でもたくさんくれて、「まいちゃんが好きだから今年も作ったよ」と言ってくれる。こういった関係を誰もが作ることができたとしたら、消費者は生産者の生活の中に馴染み、拠り所になれるのではないか。更に言えば、高齢者単身世帯の孤独感を解消し、セーフティネットワークとして機能できるのではないだろうか。高齢化が進む農業人口に消費者が寄り添うことができれば高齢者の孤立の解消が進むかもしれない。
近くの野菜を通して近くの他者を思う
生産者と消費者の間にある壁を取り払うため、vegecommuの活動の中心として動かしているのがECだ。このECの特徴としては地域性にフォーカスし、近くでとれた野菜を、地域の配送者が、地域の消費者に届ける。という仕組みになっている。現在vegecommuの活動の中心は茨城県茨城町で、ここの高齢農家グループが作った野菜を地域の大学生が地域の家庭に配送している。
このシステムのなかでは消費者が野菜を購入することで、1つの多世代の交流が生まれる。生産者⇒運送者⇒消費者という正体の分からない存在であった「他者」が、笑顔がかわいいおばあちゃん⇒あの大学に通っている学生⇒小学生の子供を育てるお母さん、というような「あの人」に変化する。このようにして野菜を購入するという日常の中に「あの人」を想像する余白を作り出すということをこのECを通して実現したい。
ECを通して知り合った「あの人」の存在感をさらに強めるため、今後vegecommuではインターネットメディアでの発信を行っていく予定だ。生産者である農家さんひとりひとりのストーリーを紹介し、消費者と生産者の距離感をさらに近づけそのつながりを個人と個人のつながりへと変化させていきたい。
EC,インターネットメディアでつながった「あの人」と実際に会う機会を作るため、イベントの企画もしている。11月29日に1回目のイベントを開催し、「あの人」との距離感をさらに縮めていく。
現代のご近所付き合いを作る
このような取り組みを通して私たちは「現代のご近所付き合い」を作っていきたいと考えている。私たちが定義する現代のご近所付き合いには3つのポイントがある。
1.オンラインとオフラインの交錯した
オンラインとオフラインを交錯させることで、物理的制約を超え、地縁的な意味だけでの「ご近所さん」でなけでなく、あらゆる場所に「ご近所さん」を作ることができる。
2.生活の一部でつながる関係
従来のご近所付き合いの煩わしい面であったプライバシーが保護されないという面をなくし、生活の一部、このプロジェクトの中では野菜を通して放射上に広がっていく繋がりを目指している。
3.既存の関係性の可視化
生活をしているだけで実はすでにつながっている人との繋がりをより豊かにしていくことで、誰もが生きているだけで他者との繋がりを持っていることを見える化し、孤独感の解消とセーフティネットワークとしての機能を持たせていく。
やさしい社会の実現に向けて
vegecommuは、祖父母の抱える問題を解決するために始まった。しかし、今はこのプロジェクトを通して支えたいと思う人の顔がいくつも浮かんでくる。同時に、プロジェクトを支えてくれる人たちも増え、現在は茨城大学との共同企画も進行中だ。
そして、このプロジェクトを持続的にしていくために新たな組織として生まれ変わり、大学生が地域をサポートする仕組みづくりをしていく。
誰もがあらゆる場所に持つご近所さんとのつながりを見える化し、ただ生きているだけで既に誰かを支え、支えられているという実感をプロジェクトを支えてくれる人と共に作っていきたい。
Bizjapan副代表 綿引麻衣
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