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「現場管理職の意識改革」がDX推進の要。変化に応じた意思決定を行う管理職を育成する背景とは?

こんにちは!Bizer team代表の畠山です。シリーズ6回目は、帝人株式会社 DX推進部 戦略企画グループ長の井上さんをお招きして「いま、取り組んでいること」をテーマに対談を行いました。今、世の中の多くの企業がDXを推進していますが、ITツールの導入やリスキリングなどにとらわれない、井上さんならではの「DX推進」を語っていただきました。
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100年以上蓄積された社内資産のデジタル化など、全社でDX推進の機運が高まっている


畠山
まず、簡単に自己紹介していただけますか。

井上さん
2018年に情報システム部から業務改革推進室という新設部署に配属され、2023年3月までの約5年間、全社のRPAを推進していました。業務改革推進室の業務管理をするために、Bizer teamを導入して内部業務の可視化を行っていました。

2023年4月からは現在のDX推進部に異動になりました。DX推進部の前身はAIを研究する組織でしたが、事務担当者がいなかったので、直前まで業務変革の推進をしていた私の目から見ると、稟議書や契約書といったドキュメント管理が不十分に映りました。誰がどのような契約をしていて書類はどこにあるのかといった確認や管理プロセスはもっと効率化できると考え、事務手続きをやってくれるメンバーをアサインし、プロセスの標準化と可視化のためにBizer teamを導入しました。業務整理や管理は組織運営の基本です。これができないと組織として成立しないので、今後もさらに徹底して改善を追求していきたいと考えています。

畠山
DX推進部ではどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

井上さん
私がグループ長を務めているDX推進部の戦略企画グループは、文字通り全社のDXを展開・浸透することをミッションとしています。グローバルを含めた帝人グループ2万人ほどの従業員向けの、教育施策を考えています。人材育成のための教育コンテンツとしてeラーニングや社内イベントなど様々な取り組みをしています。また、社内でのDXへの投資状況や進捗などを調査し、把握するようにしています。

畠山
御社はどのような経緯でDXを強く推進するようになったのでしょうか。

井上さん
1つは2018年に設立された業務改革推進室などで推進された、全社的なIT化の流れ。もう1つは、以前から社内で指摘されていたデータ活用の重要性です。

帝人は105年の歴史があり(2023年時点)、パソコンがない時代の手書き資料が会社の倉庫に大量に眠っています。長い歴史で蓄積された研究開発の成果や様々な業務の知見やノウハウが詰まった宝の山であるにもかかわらず、現在はほとんど活かされておらず、もったいない状態です。さらに、業務を効率化し、より高付加価値の仕事をするという経営や現場の意識の変化もあると思います。社内外のDXへの注目度や意識の変化など様々な要素があって、DX推進の意思決定がされていると思います。

約2万人の従業員に実施する教育施策。特に注力したいのが現場管理職の意識改革

畠山
井上さんがDXで注力していきたいのはどのようなことでしょうか?

井上さん
データの利活用も含めて全体のボトムアップを図っていきたいと考えていますが、特に注力したいのは現場管理職の意識改革です。
 
これはRPAを推進していた時の経験なのですが、例えば工場で使っている資料をペーパーレスにしようとした時に、現場の管理職から「いかにプロセスを変えるのが難しいか」という理屈を一生懸命説明されるケースが多かったんです。もちろん難しいのは重々理解していますが、できない理由を探すのではなく管理職にはどうやったら変えられるかを考えてもらわなくてはなりません。

我々は工場で工業製品を作っているので、安定しているのが当たり前。変えても変わってもいけない世界で生きているから、現場管理職の言いたいことも分かります。マインドは理解していますが、変化に適応できなければいずれ淘汰されてしまいます。

そこで、管理職が受講する「マネジャーコース」を用意し、マインドセットとして自分なりの解釈の仕方や意思決定する姿勢を学んでもらうことにしました。これは、DXやデジタル技術の知識以前に、新しいプロジェクトやアイデアが出てきた時に、管理職としてどのように変化を捉え意思決定するのかを教えるコースになっています。
 
畠山
なるほど、バックオフィスでも同様の話題が出ます。経理や労務は間違いやミスが許されず、安定的に遂行することを正とされていたという経験があるために、なかなか変化を受け入れることができない。受講する管理職の方は何名くらいいらっしゃるんですか?

井上さん
課長以上の方を中心に、500名ほどだと思います。工場もバックオフィスも、成果物にばらつきや季節変動があってはいけません。とにかく安定し続けることが求められてきたので、突然変革を求められて戸惑う気持ちは分かりますが、変えてはいけないところ、守るべきところ、そして守るために変えなくてはならないところがあることを理解してほしいんです。

やっぱり現場やバックオフィスの様々な部署で働く方たちが日々努力していい製品やサービスを作って市場に投入しているからこそ、会社は成り立っています。だからその方たちの考え方や経験は会社の大切な資産として、リスペクトしていかなければならないと思っています。そうした様々な部署の想いを大切にしながら、どうやって次の段階に進むかを試行錯誤していきたいですね。

原点は前職のトマトの栽培指導。全国行脚した経験から、現場は多種多様であることを学んだ

畠山
DX推進の一環としてIT人材を増やそうとした時に、言葉通りにITの知識をインプットする研修を実施するという選択肢もあると思います。でもそうではなく、管理職の意識改革に舵を切ったのは、会社が決めたミッションというよりも井上さんご自身が推進されたことなのでしょうか?

井上さん
そうです。自分もCやFortranなどのコードを書いていた経験があるので、技術系の研修に違和感を抱いていました。例えば「PythonでDBを構築してSQLで実行する方法を学びましょう」と教わったとしても、受講してすぐにプログラムを書けるほど簡単な話ではないし、書けたからといって業務改善ができるわけでもありません。

今はノーコード、ローコード開発できるツールがありますし、プログラミングはベンダーさんやエンジニアに任せることもできます。管理職は課題とやるべきことを理解し、RFP(提案依頼書)と要件定義ができる力があればいいのではないかと考えています。

畠山
すごいですね。DXというと、ついIT系の研修をイメージしてしまいそうですが…。実際にプログラムを書いた経験と現場でITを導入した経験があるからこそ、そういう発想を持てるようになったのでしょうか。

井上さん
自分のキャリアを振り返ると、学生時代は遺伝子の研究と情報処理を学んでいて、自分の研究成果を世に認めてもらいたいという意識が強かったんです。新卒入社した企業ではトマトの新しい品種を作って、全国の農協や産地を回って栽培指導をしていましたが、地域によって気候や温度、水源や土壌などが異なるため、座学で学んだ理想的な条件での栽培と実際の現場は全然違うことが分かりました。

しかも当時はインターネットも脆弱で、デジカメもないから事前に現場の状況も全然分からない時代です。紙の分厚い時刻表で交通手段や発着時間を調べて何時間もかけてようやく現地にたどり着いたら、トマトの栽培以前に「イノシシの食害に困っている」と言われて、呆然とするということもありました(笑)。でも高いチケットを買って大変な思いをして足を運んでいるわけだから、現場でどうにかしようとするんですね。30年近く前の話ですが、現場によって事情は全然違うし、現場を知らないと物事が進まない。これまでに続けてきた栽培方法を変えてもらうために、相手への伝え方や考えてもらう姿勢が大事だと教わりました。

畠山
なるほど、前職でのご経験も礎になっているんですね。

従業員30%の変化を目指し、「一事が万事」の精神でDX推進を実行していきたい

畠山
教育施策は今後どのように進めていくのでしょうか?研修は振り返りや分析が難しそうですが…。

井上さん
すでに全従業員2万人を対象とした基礎講座は実施していますが、1回受講すれば終わりではなく、2024年1月に新しい研修コンテンツをリリースする予定です。

振り返りとしては、従業員約2万人から無作為抽出した1,500名を対象に定期的にアンケート調査を行って、職場の雰囲気やDX推進の状況を確認しているところです。

現在の業務は会社が105年間かけて積み上げてきたことなので、数回の教育研修で全体が変わるとは考えていません。「黄金の3割」という理論では、30%の人が変わると組織全体に変化をもたらすと言われています。まず30%が変われば会社も変わるでしょう。管理職の意識改革に加えて、DX推進としてDXやデジタル要素を研修に盛り込むことに注力していきたいと思っています。

畠山
経営層からしても従業員の意識改革やDX化はとても興味深いテーマだと思いますが、ディスカッションや意思確認はどのように行っているのでしょうか?

井上さん
DX推進部は経営企画の管轄なので、我々の取り組みは経営にも話が伝わりやすくなっていると思います。

ただ、我々の取り組みが売上・利益などに結びついているのかを定量的に示す必要があり、現状では「意識改革が会社の業績にこのように影響しました」とまで言えないのが一番の悩みです。経営層はそれが難しいことも、会社を変える取り組み自体が大切なことも理解してくれているので、いずれは業績に結びつくような答えを出したいですね。会社としては、2023年に発表した統合報告書に「DX戦略」というページがあり、対外的にもDXへの取り組みを約束しています。これから議論を重ねて発展していくでしょう。

畠山
管理職の意識改革で会社を動かしていくという大きなお話の一方で、冒頭でお話しいただいたBizer team導入のような、丁寧な業務管理もカバーされています。これらを両立されているのが興味深いです。

井上さん
メンバーにも伝えていることですが、「一事が万事」や「魂は細部に宿る」という考え方があります。例えば、机の上がとても散らかっているのに、「自分の家はピカピカに整頓していますが、会社の机の上だけゴチャゴチャなんです」という話をされたら違和感がありますよね。これは業務でも同じことがいえると考えています。会社組織は、業務管理など小さなことの積み上げで成り立っています。そのため、一部がいいかげんであるということは、他でもいいかげんなところがあり、全体もいいかげんである可能性があるかもしれない。少なくともそうした緊張感は持ちたいですね。

それはBizer teamも同じですよね。一つひとつのチェックリストは細かいけど、その積み重ねがタスクになって会社が動いています。細かいことにも目配りしなければなりません。

畠山
本当にそうですね!Bizer teamを提供している我々としても、改めて大切だと感じました。今回は貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!

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