壊死性軟部組織感染症の診断あれこれ
凍結切片
たまたま見つけた論文
壊死性軟部組織感染症の迅速診断に,切開して凍結切片を病理でみてもらう,と英語の教科書には書かれていますが,個人的にはやってもらえたことはありません。
最終的な臨床診断を基準に感度73%,特異度68%とイマイチでした。
Solomon IH, et al. Frozen sections are unreliable for the diagnosis of necrotizing soft tissue infections. Mod. Pathol. 2018;31:546–52.
Finger test
一方,Finger testはよくお願いしていましたし,最近は関係する外科系(皮膚科,整形外科,形成外科など)の先生たちの認知度も上がっている印象です。
1)局所麻酔下に深筋膜まで2cmの切開を入れる
2)深筋膜のレベルに示指を入れる
・出血しない
・悪臭を伴う濁った浸出液(dishwater)が出てくる
・組織が抵抗なく指で剥離できる
以上の所見があれば壊死性筋膜炎と診断し,より広範囲のデブリードメンを考慮する。
というものですが,これの診断精度の論文を初めて見つけました。
壊死性軟部組織感染症の確定診断は術中所見陽性(皮下の壊死組織,筋膜の浮腫,血管塞栓,水様性でさらっとした悪臭のある液体)または術中検体の病理組織所見陽性(抗菌薬のみで治癒した場合は,壊死性軟部組織感染症なしと判定)として,感度100%,特異度80%
→Finger test陰性なら壊死性軟部組織感染症を否定できる
Lau JK, Kwok K, Hung Y, Fan C. Validation of finger test for necrotising soft tissue infection. J. Orthop., Trauma Rehabilitation 2022;29:2210491720961546.
LRINEC score
みんな大好き(かもしれない)LRINEC score(個人的には好みではない)のメタアナリシス(ただしプレプリント)
・6点以上をカットオフに壊死性軟部組織感染症の診断について感度59%,特異度84.9%(参照基準は手術)
→スコアが低くても除外できない
抄録その他に49件のRCTを選択と書かれていますが,壊死性軟部組織感染症の診断について,そんなにRCTがあったかな?と思って見ると,すべて観察研究で,RCTは1件もありません。もしかしてRCTはランダム化比較試験ではないものを指しているのか?と思って確認するとRCTをスペルアウトしている記載がなく,何の略か不明。怖い。
ちゃんと査読されている別のメタアナリシスをみると,LRINEC scoreの6点以上をカットオフにして感度68.2%,特異度84.8%と似たような感じでした。
Fernando, Shannon M. et al. Necrotizing Soft Tissue Infection: Diagnostic Accuracy of Physical Examination, Imaging, and LRINEC Score: A Systematic Review and Meta-Analysis. Annals of Surgery 269(1):p 58-65, 2019.
自験例でもLRINEC scoreが0点の壊死性軟部組織感染症(というか,壊死しつつある軟部組織感染症か)をみたことがあり,スコアが低くても除外はしない方がよいです。スコアが高いと壊死性軟部組織感染症の可能性が高いことは確かですが,大体黒く壊死しているのが肉眼でわかることが多いので,かなり微妙です。
壊死性軟部組織感染症(壊死性筋膜炎)は壊死しきる前に治療できると,機能予後も含めて予後がよいです。
壊死性筋膜炎については,以前,以下のような記事も書きました。