DX戦略とビジネスモデル❶
(第1回)DX戦略の5つの焦点
昨年の暮れより、デジタル経済を読み解くための8つの重要なトレンド(全8回)、米国企業のDXへの取り組み動向(全5回)、日本のDX台所事情(全7回)という一連のブログを書いてきました。
月日が経つのは早いもので、ブログを書き始めてから1年近くになりました。
今回は、企業がスポットライトを当てることができるDX戦略の5つの焦点というテーマでブログを書いていきたいと思います。
何が変革で、何が変革ではないか
企業レベル(ミクロ経済レベル)におけるDXとは、これまでの一連のブログの中で「デジタルテクノロジーを活用したビジネスモデルを通じて組織を変革し、業績を改善すること」と定義してきました。
DX戦略の5つの焦点について言及していく前に、何が変革であり、何が変革でないかについて考えていきたいと思います。
例えば、デジタルカメラの台頭により、日本のフィルムカメラ・メーカーは、従来もっていたフィルム技術を、医療デバイスやプリンターといった領域に活かすことによって再生しました。
また、海外に目を向けると、会員向けDVDの宅配サービスから事業をスタートしたネットフリックスは、ストリーミングサービスへシフトすることによって事業規模を指数関数的に拡大していきました。
これらは、変革でしょうか?
あるいは、事業内容の刷新でしょうか?
1つだけ言えることは、フィルムカメラ・メーカーの場合、それまで培ってきたフィルム技術などの独自リソース(経営資源)を応用とした新しいプロダクトやサービスを提供することによって、新しい市場と顧客を開拓していったということです。
一方、ネットフリックスの場合、宅配サービスからストリーミングサービスへとシフトする際に重要となったリソースは、それまで蓄積してきた顧客ベースです。なぜならば、ターゲットとする顧客と顧客が成し遂げようとしているジョブ、「つまり映画や音楽コンテンツを楽しむこと」はストリーミングサービスにシフトしても変わらないからです。
結局のところ、何が変革で、何が変革でないかを明確に区別することは難しいのかもしれません。
また、新規事業の開発(デジタルテクノロジーを活用した)は、はたしてDXなのかという疑問も浮かんできます。
変革とは基本的に、Aという姿からBという姿に変わることを意味し、新規事業の場合はそもそもAがないからです。
また、新規事業と新規プロダクトやサービスの境界線でさえ、デジタルテクノロジーを活用した複合的なプロダクトやサービスが増えている現代においては曖昧になってきています。
例えば、ナイキが販売したセンサーが装着されたランニングシューズは、新規事業なのでしょうか、あるいは新規プロダクトなのでしょうか?
ランニングシューズに注目すれば新規プロダクトのようにも思えるし、センサーと連動したアプリ開発に注目すれば新規事業として捉えることもできます。
私は、現行事業を差し置いて、それとはあまり関係のない新規事業や新規プロダクトの開発はDXではないと思っています(あくまで私見です)。
ただし、現行事業と大きなシナジーを生む新規事業や新規プロダクトの開発に関しては、DXの範疇に入れてもよいかと考えています(これも私見です)。
DX戦略の5つの焦点
前置きが長くなってしまいましたが、あらゆる企業がスポットライトを当てることができるDX戦略の5つの焦点をご紹介したいと思います。
DXとは、デジタルテクノロジーを活用したビジネスモデルを通じて組織を変革し、業績を改善することでしたが、DX戦略の焦点を見定めるためには、ビジネスモデルとは何かを正しく理解する必要があります。
これも過去のブログで触れてきましたが、ビジネスモデルとは「組織が価値を生成、提供、獲得する方法の論理的根拠を説明するもの」です。
もう少しかみ砕いて言えば、ターゲットとする顧客に対して、価値あるプロダクトやサービスを生成するとともに、それらを顧客に提供し、その対価として金銭的な価値、つまりお金を獲得する仕組みです。
デジタルを関連させ、さらに簡潔に言えば、「デジタルテクノロジーを活用して、ビジネス全体が上手く機能するストーリー」です。
これも以前のブログでお話ししましたが、ビジネスモデルを簡潔に描写するツールであるビジネスモデルキャンバスを使うと、少なくともDX戦略が焦点を当てるべき4つの領域が見えてきます。
それは、
❶ デジタルテクノロジーを活用したプロダクトの革新(サービスを含む)
➋ デジタルテクノロジーを活用したオペレーションの変革
❸ デジタルテクノロジーを活用した顧客経験の生成
❹ デジタルテクノロジーを活用した収益モデルの確立
です。
ただし、❹に関しては、単独で焦点を当てるというよりも、❶~❸に焦点を当てた結果として検討されるべきものでしょう。
では、残りの1つの焦点は何でしょうか?
それは、
❺ デジタルテクノロジーを活用したプラットフォームの構築
です。
プラットフォームは、21世紀の最強のビジネスモデルと呼ばれて久しくなりました。
世界の時価総額のトップに名を連ねるGAFAM、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトは、いずれも強力なプラットフォームを構築しています。
既存企業が、これに指をくわえて見ているわけにはいきません。
なぜならば、プラットフォームを持っているこれらの企業が、近い将来、既存企業のビジネスモデルを破壊(正確には混乱させるという意味)する可能性を無視することはできないからです。
今回はここまで。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回からは、ご紹介したDX戦略の5つの焦点の各々について、その要点を簡単にご紹介していきます。
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