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生保の含み損拡大と市場の変化
最近の報道によると、日本の生命保険会社が抱える国内債券の含み損が急増しており、その額は2024年12月末時点で11兆7060億円に達しました。この状況は、金利上昇による影響が大きく、今後の資産入れ替えが急務となっています。本記事では、この問題の背景や影響、そして生保各社の対応について考察します。
含み損の現状
生命保険会社が保有する国内債券の含み損が、08年度以降で最大の水準に達しています。特に日本生命保険の含み損は2兆5311億円、明治安田生命保険は9389億円にのぼっており、いずれも急激な増加を見せています。金利が上昇することで債券の価格が下落し、その影響が顕著に現れています。
金利上昇の影響
2024年3月に日銀がマイナス金利を解除したことが、金利上昇に拍車をかけました。新発10年物国債の利回りは約15年ぶりの高水準に達し、これにより長期保険契約に見合った資産としての債券の利回りが見劣りする状況が続いています。このため、多くの生保会社が資産の入れ替えを進めています。
債券って何?
まず、債券(さいけん)というのは、お金を借りるための「約束手形」のようなものです。例えば、あなたが友達に1000円を貸したとします。友達は1年後に1200円返すと約束しました。この1200円が「利息(りそく)」です。債券も同じように、お金を貸して、後で利息をもらう仕組みです。
金利が上がるとどうなるの?
金利が上がる
もし金利が上がると、新しく発行される債券の利息も高くなります。例えば、今まで1000円貸して1200円(利息200円)返してもらう約束だったのが、金利が上がると新しい債券は1000円貸して1400円(利息400円)返してもらうことになります。古い債券の価値が下がる
でも、すでに持っている古い債券(あなたが友達に貸した1000円の約束)は、利息が200円のままです。新しい債券の方が利息が高いので、古い債券は「つまらないもの」に感じられます。これが「含み損」が出る理由です。売ると損になる
もしその古い債券を誰かに売りたいと思ったとき、新しい債券の方が利息が高いので、古い債券は安くしか売れません。たとえば、1000円で貸した債券が800円でしか売れないこともあります。この場合、あなたは200円の損をすることになります。
まとめ
だから、金利が上がると、古い債券の価値が下がって、含み損が出てしまうのです。生保会社も同じように、古い債券を持っていると損をしてしまうので、資産を入れ替えようとしています。
資産の入れ替え
生保各社は、保有する債券の利回りが現行の金利水準に対して低下しているため、より高い利回りが見込める資産への入れ替えを急いでいます。例えば、日本生命は2024年4~12月期に約2200億円の国内債売却損を計上し、過去最大の入れ替えを行いました。
売却損の影響
第一生命保険も同様に、責任準備金対応債券の入れ替えに伴い、前年同期は売却益を計上していたのに対し、今年は1925億円の売却損を計上しました。このような状況は、各社の運用成績にも影響を及ぼしています。
株式との関係
金利上昇の局面では、株式をはじめとした保有資産の厚みが各社の対応を分ける要因となります。例えば、住友生命は株式や債券を合わせた全体の含み益が約60%減少していますが、一方で日本生命は含み益が相対的に減少しなかったため、影響を軽減しています。
株式の保有状況
ソニー生命保険では、株式の含み益が1億円を下回る一方で、有価証券全体の含み損が2兆円を超えています。このように、株式の保有状況が各社の経営状況に大きな影響を与えていることが分かります。
市場環境の変化
最近発表された国内総生産(GDP)の速報値は市場予想を上回り、日銀が利上げ路線を続けるとの観測が強まっています。これに伴い、生命保険会社の基礎利益は前年同期比19%増の2兆9658億円となり、運用利差が業績を押し上げています。
今後の展望
第一生命ホールディングスやT&Dホールディングスは、25年3月期の通期予想を上方修正しました。明治安田生命も同様に予想を増収増益に引き上げています。市場環境の変化に応じた柔軟な対応が求められる中、各社は今後もさらなる戦略的な資産運用を進めていく必要があります。
まとめ
生保業界が抱える国内債券の含み損は、金利上昇の影響を受けて急増していますが、各社は資産の入れ替えや株式の運用など、さまざまな戦略で対応しています。今後の市場の動向を注視しつつ、柔軟な経営判断が求められるでしょう。
引用:2025/02/20 日本経済新聞 朝刊 8ページ