「見守りロボット」でケアはどう変わる? 介護現場のICT化がもたらす意義と、未来のため大事にしたいこと
こんにちは!あきた創生マネジメント代表の阿波野です。
前回の記事では、来春開設予定の「かいごの学校」について書きました。この学校は、これから資格の取得を目指す技能実習生も、在留外国人も、そしてもちろん日本人も、誰もが通える学びの場です。準備は順調に進んでいます。特に秋田県内で介護の仕事に従事するみなさんに、ぜひ知っていただき、この学校で一緒に学んでもらえたら嬉しいなと思っています。
コロナ禍でも昨年からやり続けていること
その中で今回のテーマは介護のICT化について。当社では、人材不足の解消や業務のさらなる効率化を目指して、LINE WORKSやZoomなどを使った介護現場でのICTをいちはやく取り入れ、活用しています。
働き方改革と入居者様の安心・安全のために
2021年6月、当社で運営する能代と大館の介護施設に、株式会社オフィス・ワンさんが開発した見守りロボット「ハピネス絆」を全床に導入しました。全国では20例目、秋田県では初めての試みとなります。
介護の見守りロボットと説明すると、人型を想像するかもしれません。「ハピネス絆」は、マットレスの下に設置したセンサーが感知して、24時間365日入居者様の安全をリアルタイムで確認する非接触型のシステムです。
このシステムでは、入居者様の心拍・呼吸の異常や離床の確認、排泄・排泄の自動通知、AIによる転倒状況などを即座に知らせる機能を備えています。入居者様の状況を見える化させ、データとして詳細に記録を残せます。
▲各センサーのイメージ写真 出典:「ハピネス絆」Webサイト
これまでは、夜勤スタッフが2時間に1回巡回して、入居者様全員の安全と排泄の確認をしていました。「ハピネス絆」を使うと、排泄時もシーツ下に備えたセンサーがリアルタイムでスタッフに知らせてくれるので、入居者様のプライバシーを守りながら、適切なケアを施せます。
また、ぐっすりと眠っている方を無理に起こさずに済みますし、介助を必要とされる方のもとにはすぐさま駆けつけることができるように。日中よりも少ない人数で稼働するスタッフにとっては、業務の負担を減らして効率よく動けるようになり、入居者様にとっては安眠維持やリスクの軽減につながるので、お互いのメリットが大きいと考えています。
目的にマッチした補助金を上手に活用する
「ハピネス絆」は、3年前から導入を検討していました。当時はハローワークに求人を出しても応募が来なかったため、採用が大きな課題でした。
そのため、働きやすい職場の環境づくりや業務の効率化を目的に、「人の手による介護」と「スタッフ以外でもできる作業」を分け、ICT化による業務の細分化しなければいけないと考えるようになりました。しかし、この時は残念ながら、コスト面の関係で導入に至りませんでした。
3年越しに念願の見守りロボットを導入できたのは、国の補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)を活用できたからです。この補助金は、きめ細かく顧客ニーズを捉える創意工夫のために、ものづくり中小企業や小規模事業者が実施する試作品開発や設備投資を支援するもの。当社は「県内初!見回りシステム導入による非対面ビジネスの転換および業務改善効率化」という事業計画を提出し、特別枠で採択されまし(No.149)。
▲介護見守りロボット導入〜設置、設定、説明編〜
「ハピネス絆」のイニシャルコストは当社の場合、トータルで1,300万円。このうち4分の3の金額を補助金でカバーすることができました。
コロナ禍における非接触型の見守りロボット導入で採択されたのは、私たちが初めてとのこと。介護施設にとっても、オフィス・ワンさんにとっても良い実績をつくれたケースだと自負しています。
また、申請時に提出した事業計画では、「非対面ビジネスの転換」のためのコンサルティングも視野に入れました。以前の記事でお伝えしたように、今後始めるコンサルティングサービスでは、人手不足の問題など、多くの介護施設が抱える問題の解決に加えて、こうした補助金の活用に関するノウハウも提供していく予定です。積極的な情報共有や教育を通じて、大きな視点で捉える介護の現場をより良い環境に変えていけたらと考えています。
道具に“使われる”介護ではなく、“活かす”介護を
当社はこれまでにもLINE WORKSを活用したスタッフ間での情報共有や、ケアコラボを活用した介護記録のICT化などに取り組んできました。「ハピネス絆」は、その集大成ともいえる大きな取り組みとなりました。
同時に、新たな課題も見えています。便利なツールを活用しているのに、業者が違うため、それぞれが独立して存在していることです。私は、各機能を連携させることで、よりICT導入のメリットが高くなると考えています。
最初の一歩として、これまで当社で採用したツールを連携できるよう、業者さんに依頼をして、進めてもらっている最中です。
たとえば、「ハピネス絆」もLINE WORKSとの連携が決まりました。これが実現すると、入居者様の見守りの通知がLINE WORKSに届くようになり、業務の効率はさらに向上するだろうと期待しています。
また、介護記録で活用中のケアコラボでは、スノーボードでも重宝されているBONXさんのインカムと連携し、音声を文字情報に変えて記録入力できるよう進めてもらっています。若い世代に向けてかっこいい介護のスタイルを提示できたらと、ワクワクしながら思案中です。
▲当社で毎月開催しているリーダー研修の様子。このような機会を通して、新たな取り組みの目的をシェアするようにしています。
テクノロジーの進化とともに、働き方はどんどんアップデートされていきます。ICTは職場に導入したから終わりなのではなく、現場の介護スタッフたちが機能を使いこなし、活用を継続させなければ意味がありません。
そのためには、どんな目的で新しいツールを入れるのか。その理由について職場で徹底的に共有するようにしています。ケアの最終目的は利用者様の笑顔や幸せを考えてケアをすること。それを目指していく過程で、業務を補うために使えるツールは積極的に取り入れていきたいと思っています。
でも、この時忘れてはならないのが、道具を“活かして”介護をすること。これがきちんとできないと、道具に“使われる介護”になってしまいます。
昔は便利なツールがない環境で仕事をするのが当たり前でした。でも、今は機械に任せられる業務も増えているので、道具に頼りすぎるとケアについて自ら考えたり、工夫したりする機会が失われたりしてしまう可能性もあります。ケアの本質が問われる時代が訪れた時、その差は大きくなるでしょう。
「なぜ今まで通りではダメなのか?」。ICT化や多様な人材、多様な働き方、組織づくりに取り組む介護経営者の方々は、スタッフからこのような声が届くかもしれません。繰り返しになってしまいますが、介護の人材教育には「何のため」なのか、目的を伝え続けることが大事だと感じています。
そのためにも、当社ではリーダー向けに毎月1回、時代背景や社会状況なども含めて、これまでの取り組みや目的などをシェアし、議論する研修を開催しています。人口減少が確実に進んでいる未来の介護は、少なくとも今より負担が増えているはずです。その時が訪れてから困るのではなく、スタッフが自立した生活を送れる環境を今から整えておきたい。ICTの導入は、介護現場の未来を考える取り組みのひとつだと考えています。
今後、何か一緒に取り組みたいと思ってくださった方、取材や採用に関する問い合わせをしたい方は、私のTwitterかメールアドレス(rin.sousei.saiyo[アット]gmail.com)まで、ご連絡いただけると嬉しいです!