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東京都内で美容クリニックを経営しております酒井倫明(さかいみちあき)です。

「隆鼻術について」を3稿目を執筆いたしました。今回が締めくくりの内容となります。
鼻の世界は奥が深く、話が色々と飛び散ってしまいましたが、今回は隆鼻で使用する材料をまとめてみました。

鼻で悩まれている方がいらっしゃいましたらご参考ください。自分の体の中に入る物質にどのようなリスクとベネフィットがあるのかを知っておくことをお薦めします。

隆鼻で使用する材料について

1)肋軟骨移植
肋軟骨とは前胸部の肋骨の部分にある軟骨を指します。
そもそも人体の軟骨には「硝子軟骨」と「弾性軟骨」があり、肋軟骨は硝子軟骨の代表です。その他関節の中の軟骨も硝子軟骨です。これに対し鼻を構成している軟骨や耳の軟骨は弾性軟骨になります。弾性軟骨は柔らかく自由に折り曲げることができますが、硝子軟骨は硬く、石灰化がおこると凹凸変形がでてきます。硝子軟骨における石灰化はほぼ100%におこるため、肋軟骨を移植すると、必ず変形がおこると言われています。また、移植肋軟骨は硬くなるため、鼻尖部に肋軟骨を移植すると、カチカチの鼻になり、皮膚が薄く変形する可能性があります。また、移植した肋軟骨を、除去しようとした場合癒着が強く、きれいに外れないことも多いのです。
これらの理由で形成外科専門医が美容の鼻形成を行う際、肋軟骨の移植を嫌がることが多く、安易に肋軟骨を移植する隆鼻術には問題があると考えます。

2)ゴアテックス
ゴアテックスとは厚労省で認可された医療材料で、筋膜、腹膜、脳硬膜、などの人体の膜組織の代用としてひろく応用されています。組織親和性がよく安全性も高いと言われています。
隆鼻にも応用されていますが、一つだけ問題点があります。それは、除去が困難だということです。もし、二度と鼻の形を変えないというなら、ゴアテックスも良い材料になるでしょう。しかし、ゴアテックス移植後、修正を希望する場合は、かなりの問題を提起します。隆鼻術はまだ、発展途上といえますので、今後、手術法や材料にも大きな変化が出てくると思います。その時、ゴアテックスが除去できない、あるいは、除去する際大きな変形を伴うとしたら、これは問題になりそうです。

3)耳介軟骨
耳の裏側にある軟骨のことです。
両側の耳介軟骨をうまく採取しても、その絶対量が不足しがちですので、きれいな隆鼻と鼻尖形成を完成させるには少々無理があります。

4)人工骨
ハイドロキシアパタイト(骨や歯に含まれるリン酸カルシウムの一種)の顆粒状材料です。
骨性組織である鼻根部の隆鼻にはきわめて良い結果をもたらします。ハイドロキシアパタイトの顆粒はいずれ自家骨になりますので、安全性が高いといえます。しかし、鼻尖部や鼻柱、さらに鼻背部の下半分には移植が困難なため、耳介軟骨の移植とともにデザインをしなくてはなりません。万が一、修正の場合は、移植人工骨を削り取ることは可能です。

5)シリコーンプロテーゼ
医療用の人工軟骨のことです。
初期のものは人体の鼻背軟骨の硬さを模倣したため、硬すぎてしまいましたが、現在のものはかなり柔らかくなり、皮膚への刺激も激減しました。鼻根部では鼻骨骨膜下に固定し、L型では、先端部を鼻中隔部に固定できます。(I型では鼻中隔部に固定できません)また、L型の鼻尖部や鼻柱部に耳介軟骨や真皮を接着して移植すると、簡単に直軟骨による鼻尖形成や鼻柱形成、あるいは鼻中隔延長術が可能です。
さらに、必要に応じ、鼻腔内の少量の切開で比較的簡単にプロテーゼを除去できます。このことは、将来、新しい材料との交換が簡単であることを示唆します。

シリコーンプロテーゼのパターン

前述の5)で記載しましたシリコーンプロテーゼについて詳細をかきます。


I型シリコーンプロテーゼ
鼻根部から鼻背部の上部へ移植するプロテーゼです。鼻骨の骨膜下のみで固定されるため、プロテーゼの下方移動や左右のブレ移動がおこりやすい事が欠点です。また、移植は簡単でも、除去の際、プロテーゼが見つかりにくいことも欠点となるでしょう。しかし、鼻尖部にはプロテーゼが届かないため、鼻尖部皮膚の菲薄化が起こりにくく破綻も少ないのが利点です。

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I型プロテーゼは鼻骨の骨膜下に固定されています。

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骨膜がプロテーゼから浮いていたりすると、I型プロテーゼは容易に左右に変位してしまいます。
プロテーゼの変位では、鼻が曲がって見えたり、鼻尖部が変形したり、場合によってはL型と同様に鼻尖部皮膚の崩壊を招くことがあります。


L型シリコーンプロテーゼ(先端を薄くした場合)
L型プロテーゼをインプラントする場合は、鼻根部では鼻骨の骨膜下に固定し、鼻尖部では鼻中隔にも固定します。鼻尖部にボリュームを残せば、鼻尖部を尖らせるようにできます。もし、鼻尖部でのシリコーンのボリュームを少なくすれば、鼻尖部はほとんど変化することはありませんし、鼻尖部皮膚の影響を与えることも少ないと考えます。

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 L型シリコーンプロテーゼ(先端で鼻尖を作る場合)
通常L型プロテーゼは鼻尖部が尖るように厚さがあります。これをこのまま鼻に移植すると鼻尖部は尖り、綺麗に見えますが、後日、鼻尖部の皮膚を菲薄化させ、最終的には鼻尖部を破綻させることがあります。

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 L型プロテーゼを利用したハイブリッド仕様
プロテーゼと耳介軟骨、真皮を利用したコンポジットによる隆鼻です。
柔らかいL型シリコーンプロテーゼの鼻尖部に、ご自分の自家組織である耳介軟骨と真皮を接着しコンポジット(複合体)を作成します。これをシンプルに鼻筋に移植する手術は極めて単純です。コンポジットの作成は人体外で行われますので、手術中の不快感はとても少ないのです。コンポジットの作成には職人技が必要とはいえ、移植はシンプルですので手術時間も短くて済みます。
また、シリコーンプロテーゼは簡単に除去できますので、将来の新素材への交換もたやすく行うことができます。

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まとめ

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いかがでしたでしょうか?隆鼻術に関わる鼻の組織構造は複雑ですし、材料も多種であり、手技も多様です。

今後医学はまだまだ発展し続けます。当然、医療材料もいろいろ試行錯誤されると期待されます。

私が特に注目しているのが、培養軟骨です。まだ、実現はしていませんが、必ず隆鼻の材料として陽の目を浴びる日がくるでしょう。おそらく、少量の耳介軟骨とご本人の血液があれば、数ヶ月で20㎠程度の軟骨を作ることができるはずです。場合によっては培養真皮や人工骨も利用されるでしょう。再生医療は現在最も注目されている分野でもあります。近い将来、再生医療にを応用した隆鼻手術が実現するかもしれません。それと同時に新たな手技が誕生するでしょう。


美の価値観は時代と共に変化していきます。
それに伴い医道も常に知識や技術を更新していきたいと思います。

「身も心も美しい人生で」

引き続きよろしくお願いいたします。


酒井倫明(さかいみちあき)

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