土瓶蒸し
わたしは18歳頃で初めて土瓶蒸しという食べ物を食べた。それは会食会でのことだった。この時期ならではのご馳走してやるというなかなか気前のいい知り合いがいたのだ。
土瓶蒸しは急須のようないれもん。蓋の上にスダチがのっている。その蓋がおちょこのようになっているものもあり、すだちを急須に絞ったら注ぎ口からまずはだし汁からすする。なかなか洒落た食べ物だと思う。
和の何重にも重なるカツオベースの優しいお出汁。
ふわりとすだちのコロンが香る。
具材の持ってる旨味が溶けだしていて思わず喉が鳴る。二口目は口から迎えに行ってしまうくらいうまいもんだ。
その土瓶蒸しの具としては わたしは松茸が入っているものを食べた。
わたしはビックリしたのだった。
松茸に。親指くらいのサイズのスライスされた松茸。
うちの実家の松茸のがでかいぞ!?と。
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わたしは昔からミーハーな子でした。
テレビで見た食べ物に興味をすぐ持ち、食べたい!食べたい!と言っていた。
ある日、秋の味覚!まつたけ! 特集を見た。
芸能人が山から松茸を探し、見事に見つけて、炭火で焼いて食べたり、炊き込みご飯にして食べているのを見て私は食べたくてしょうがなかった!
母ケイコに「松茸が食べたい!!」といったら「あんなもんキノコやぞ」と。
ビ「キノコでも食べてみたい!炭火のとか美味しそうやもん!」
母「高いし無理やわ」
ビ「そのへんの山に生えてないん?」
母「生えとるわけないやんか。なんでも取ってきて食べるなや?毒もあるぞ!?」
ビ「えー食べてみたいー!!」
母「なんも!あんた松茸食べてるやん!?ほら、お吸いもん!」
ビ「永谷園のスープやなくて!わたしは松茸が食べたいの!!」
食べたい欲しいとなったら母がブチギレるまで言うしつこい少女ビヨちゃん
食べたい食べたいと言い続けたある日である。
母「今日はビヨのためにすごいもんあるから楽しみにしてまっし!」
ビ「え!?そうなん!?も、もしかして…?」
母 にやり。
き、き、キター!!!
母が松茸を買ってきたのだ!
これは凄い事だと思い、わたしは絵を描いて残そうとした。
母は新聞紙の上にそれは大きな松茸を2本ゴロリと置いた。
うぉーーーー!!これが松茸か!!クンクン…テレビで言ってた香りがいい!はこの香りなんだ!
軸の太さが椎茸やしめじと全然違う!
ラップの芯くらいの太さぐらいあるんやない!?
頭の傘も見たことない形だ!!
私の画家の魂が震えたのだ。
思う存分書きしるし、母に見せると「美味いなぁ~良く書けとるわ!」と褒めてくれた。そして、「あ、この松茸は貴重やし食べてたのもこの絵も友達にや周りに言ったらだめやぞ?ひみつや。みんな羨ましがったら買ってこれんくなるからね!」
そうだな!!!食べたのは秘密!絵は見せない!内緒!!能美市の松茸は私が全部食べるんだ!!そのくらいの気分の高鳴り。
そして、母はその松茸を
炊き込みご飯とお吸い物に入れてくれた。
松茸と油揚げと人参が入った炊き込みご飯は最高だった。松茸を噛むとむにっとした中からじゅわりと出汁が染み出る。おぉ!!すげぇ!いつもと違う!
お吸い物は出汁とわかめの味がする!でも短冊切りされた松茸が入ってるからおk!
最高だった。それから年に4回松茸の日があったのだった。
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さて。話を戻す。
わたしは土瓶蒸しを食べたのだけど、あまりに小さな松茸にびっくりした
味は美味しいけどせっかくなら大きな松茸をいれたらいいのに。そしたら食感もええのになぁ。なんて思いながら全て食べほした。
そして、その方に人生初の土瓶蒸しに感謝はしつつ、松茸について話した。
方「ん?ラップの芯くらいの松茸!?そんなもんなかなかないやろ?違う種類やないか?」
ビ「いやいや!松茸ご飯とお吸い物食べたことあるもん!年に4回やよ!?すごくない?」
方「おまえ、年に4回ってありえんやろ(笑)」
わたしは否定されたことに対してプンプンした。
もうこうなったらその場で姉に電話した。
ビ「ねぇ!うちの家って松茸の日年に4回あったよね!?」
姉「はぁ?ないよ。でたことないよ。」
ビ「なんで!!あるやん!炊き込みご飯やお吸い物してもらったやん!」
姉「はぁ?なにゆーうて…あ。」
ビ「ほら!!合ったよね!」
姉「あーあれね。あれ
エリンギ
だから」
ビ「…え?」
姉「エリンギな。」
もういい?じゃ。と電話を切られた。
方「どうやった?」
(うっそ。まって。わたし今までエリンギを松茸と食べていたの?嘘でしょ…それで香りがすると味が違うとか言ってたの…?え…)
衝撃の事実に震え始めた。そして赤面した。
ご馳走してくれた方に
「あのー…私の家の松茸…エリンギだった。」
と話したら
その人は腹を抱えて大爆笑した。
わたしはポカーンです。
しかし、この話のおかげで、追加注文で松茸の焼いたヤツを食べさせて貰えたが、香りが違うし味も違うし「これが…松茸か…」と言うだけでその方は涙を流しながら大爆笑してくれたのだった。