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ほんの一瞬だけ、鉛筆にハマった(前編)

 シャーペンの芯と鉛筆の芯は、一見同じに見えて実はかなり違うものであるということを、小学の頃以来久々に鉛筆を引っ張り出して書いてみるとひしひしと感じるものである。シャーペンのカリカリした、きっちりした書き味とは裏腹に、鉛筆は滑らかで、どこまででもついてきてくれそうな、そんな気がするような書き味なのだ。

 そもそも私が鉛筆にハマったきっかけは、芯ホルダーを使ったことからだった。ちょうど去年の今頃にマルチ8を手にしたのだが、私はそこにカスタマイズでHBの黒鉛芯を組み込んだ。そしたらその書き味が、シャーペンのHBとは全く違う。私は基本的に濃く軟らかな書き味を好むので、シャーペンの芯も0.5ミリのHBよりかは0.7ミリの2Bなのである。それでもなお、なにか書き味に「角がある」というか、その違和感を完全に消し去るというわけにはいかないのであった。それが、マルチ8の書き味には文句の一つも付けようがなかった。そこからはマルチ8を色ペンとしても、鉛筆としても常用するようになった。

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 そもそも鉛筆や芯ホルダーの芯とシャーペンの芯では、根本的とはいかないまでもかなり大きな違いがある。両者とも「芯に含まれる黒鉛を紙に擦り付けて筆跡を残す」という点は同じなのだが、芯の硬度を調節するために配合する物質が異なる。鉛筆の芯は粘土を含ませ、その量を調節して濃度を変化させる(鉛筆の中にも、ぺんてる・ブラックポリマー999という樹脂で固めた異端児がいたのだが、現在は廃盤になってしまった)。一方、シャーペンの芯は樹脂を配合して芯をより頑丈かつ柔軟にしている。この過程にはぺんてる社の尽力があるのだが、詳細は添付の記事に任せることにする。理論的にはシャーペンの芯の方が鉛筆より濃く滑らかに書けるようなのだが、それはあくまで個人の感じ方の違いであり、私にはあまり合わなかった、とそれだけの話である。

 すっかり芯ホルダーに傾倒した私は、私が知る限り汎用品の中で最もグレードの高そうなものに手を出した。文具好きなら多分知っているであろう、LAMYのスクリブルである。純正の芯は非常に高価なので、ファーバーカステルの3.15ミリ芯を半分に折って補充している。削る手間こそかかるが、うまく使えばシャーペン芯でいうところの0.5ミリから1.3ミリまで自在に操れるので、非常におすすめである。詳しい評価はまた今度書くことにする。

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 先にも述べた通り、芯ホルダーと鉛筆は大体似たようなものであるから、久々に鉛筆を引っ張り出して使うのも悪くないだろうと思い始めた。ちょうど貰い物の鉛筆が多少あったのと、それだけではつまらないので各社のいわゆる高級ライン(それでも1本せいぜい150円)を計7本新たに購入し、『ペンシラー』としての活動を始めた(今年の1月終り)。

 私は比較的手が大きい方で、鉛筆を裸の状態で握ると軸が細くて無駄に力が入ってしまうため、それを避けるために補助軸を用意した。一つはステッドラーのもの(写真上側)、もう一つは工房楔のトゥラフォーロ(写真下側)である。前者は消しゴムとクリップがついている以外は何の変哲もない補助軸なのだが、後者は一癖あって、軸の後端が筒抜けになっており、どんなに長い鉛筆でも補助軸を着せることができるようになっているのである。はじめは、未使用の長い鉛筆がほとんどだったため、もともとコンパスに取り付けていた短い鉛筆をステッドラーの軸に入れ、他は使うときに適宜トゥラフォーロに挿して使っていた。

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 実際に使ってみると、同じ硬度とはいえメーカーによって全く書き味が異なることに気付く。シャーペンの芯は、会社ごとの違いがあまりわかりにくいように感じてしまうが、鉛筆では会社間の差異がはっきりと感じ取れる。これを書き始めると止まらなくなりそうなので、後編として後日執筆することにしよう。

 1月ほど鉛筆と仲良くする生活が続き、今後のメモ書きなどは引き続き鉛筆をメインにしようと思っていた矢先にコロナ禍が巻き起こり、そのメモを取る機会が失われてしまった。私は家にいるときは基本的に万年筆かたまにボールペンしか使わないので、鉛筆は出る幕なく引き出しにしまわれ、たまの出番も再び芯ホルダーに奪われてしまった。というのも結局鉛筆と芯ホルダーの書き味自体はほぼ同じなので、軸の持ちやすさが使用頻度に直結するのだが、スクリブルがあまりにもちょうどいいバランスをしていて、気づいたら手に取ってしまっているのだ。鉛筆削りはなぜか家にあった肥後守を使っていたのだが、削り口の美しさという面では一般の鉛筆削りには敵わず、さらに削るのにだいぶ時間がかかることから面倒くさがりの私は結局敬遠する運命にあったのかもしれない。

 そんなこんなで芯ホルダーに戻ってきた私だが、鉛筆関連の小物でいくつか気になっているものも存在する。これを手に入れれば、ペンシルライフが再び豊かになるかもしれない、と、そんな期待を背負ったものたちを後編で紹介したいと思う(人はこれを『沼にハマる』という)。というわけで前編はここまで。後編は鉛筆各社比較と、気になっている小物を紹介する。

2022.7.22 追記
2年近く放置し、後編で何を書こうか忘れてしまったので、後編はお蔵入りということでよろしくお願いします。

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