【ショートショート】料理に入れたのは
夕食後、妻のさゆりが嬉しそうに話しかけてきた。
「ねえ、たける。今からさっき食べた夕食のクイズしない?」
「え、急にどうしたの?(笑)でも、面白そうだからいいよ」
「じゃあ、質問には”はい”か”いいえ”だけで答えるから、その2つで答えられる質問にしてね」
「わかった。それで、質問は何?」
「今日の料理に込めた”もの”ってな~んだ?質問は5回までね」
ん、込めた”もの”ってなんだ。今日の夕食はカレーだったよな。まあ、とりあえず質問してみるか。
「じゃあ、それは美味しいですか?」
「いいえ」
「え、美味しくないの。んー、それは食べ物ですか?」
「いいえ」
食べ物じゃない?どういうことだろう。
「それは飲み物ですか?」
「いいえ」
「じゃあ、それは相手が僕じゃなかったら料理に入れませんでしたか?」
「はい」
「なるほど、なんとなくわかってきたよ(笑)」
「えー、ホント?(笑)じゃあ、次で最後の質問ね」
「それは、さゆりが僕のことを好きだから入れたんですか?」
すると、さゆりが頬を赤らめながら「はい」と答えた。
「答えわかったよ。さゆりが入れたのは”愛”だ!」
「もちろん愛も入ってるけど、間違いでーす」
「えー、絶対正解だと思ったのに。答えは何?」
「正解は”毒”だよ」
あまりにも想像していたものとは違う答えに、僕は息をのんだ。
「え、えっと、どういうこと?毒って何…?」
「口に入れたら1時間後に死ぬ毒だよ?これに心当たりない?」
見ると、さゆりの手には僕のスマホが。しかも、浮気相手とのやり取りが画面に表示されていた。
「そ、それは、、、」
「ここ最近、私たち喧嘩ばっかりだったから仕方ないよ。でも、私と離婚しようとするのはダメだよ~」
「そ、それでも毒を入れるのは違うだろ。ごほっ、ごほっ……うっ」
「だって、私はずっと好きなんだもん。ここで死んでくれたら、ずっとあなたと一緒にいられるでしょ?」
毒が体全体を巡り、意識は朦朧としているが、そんな言葉を笑顔でさらりと答えるさゆりに恐ろしさを感じる。
「うっ……くっ、ごほっ」
「もうそろそろ1時間だね。何か最後に話したいことある?」
体が熱く、もう声を出せる余裕はない。薄れゆく意識の中、さゆりの声だけがハッキリと聞こえてきた。
「これからも、ずーっとよろしくね」