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ダブルエージェント 明智光秀


ダブルエージェント 明智光秀

図書館の『隅っこ小説特集』コーナーで見つけた。
「隅っこ」小説とは書庫ではなく通常の書棚に置かれているのに一年間貸し出されていない小説のこと。
(図書館による定義)
この本が図書館で過去一年間貸し出されたことが無いとは信じられないほど面白かった。
数ある本能寺の変を起こした明智光秀の動機説の中からこの本では「天皇(朝廷)を廃して自分(織田信長)が天子となり、未来永劫天皇家に替り織田家が日本を治める野望を持ったため、これを止めるため。」という説が
採られている。
タイトルのダブルエージェントは光秀が信長と室町幕府14代将軍足利義昭の二人に仕えたことを指しているが比較的早いうちに光秀は義昭を見限っている。(面従腹背)
またこの本では光秀は羽柴秀吉(豊臣秀吉)以上のスーパーマンとして描かれている。武芸(特に鉄砲の扱い)に優れ、軍略や戦略など知略に優れ、数字にも明るく、更に芸術(茶や歌)に秀でており、家来や領民の人望も厚い。またそれだけではなく、堺の商人や京の公家衆からも一目置かれている。(実際、今でも亀岡辺りでは光秀は謀反人ではなく名君として扱われているのであながち嘘ではないが、余りにも完全無欠に描かれ過ぎているように思う。)
そして信長の天下布武の野望のために粉骨砕身する。常に上司(信長)が何を望んでいるか考え、実行に移す。報・連・相も怠らず、常に上司の動向を把握し、外部(朝廷、幕府、商人)との調整も完ぺきにこなす。信長もそんな部下(光秀)を秀吉以上に信頼し、難しい仕事を次々と依頼する。
現代でいう理想の上司と部下の関係で描かれている。
長篠の合戦や比叡山の焼き討ちを光秀が主導して行ったというのは無理があるような気もするが、信長の野望のために尽くす超優秀な部下という設定ではやむを得ないか。
そんな光秀が本能寺の変を起こすまでの気持の変化が面白い。信長の仇敵、松永久秀や荒木村重が光秀にどんな影響を及ぼしたのか。そして本能寺の変の後の光秀はどうなったか。あれほど完璧な人物として描かれている光秀が秀吉になぜ敗れたのか。
単なるフィクションではなく史実として読んでみても面白いかも知れない。
一つ残念なのは有名な徳川家康の饗応でのエピソードが描かれていないこと。これが描かれると信長と光秀の関係性が壊れるからだと思うが、やはり入れて欲しかったと思う。
また所々に散りばめられている現代人の処世訓(上司と部下の理想の関係について)も参考になる。

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