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原爆の父 オッペンハイマーはなぜ死んだか


原爆の父 オッペンハイマーはなぜ死んだか

昨年、映画になって話題になったオッペンハイマーについての本かと思い手に取ってみた。
ご存知の通りオッペンハイマーは原爆の父とも呼ばれており、米国によって広島、長崎に投下された原子爆弾を開発した物理学者である。
広島、長崎の惨状を見て原子爆弾を開発したことを悔やみ、戦後は水素爆弾の開発に反対したため、公職を追放されるなど不遇をかこったともいわれている。贖罪の気持があったのか湯川秀樹博士など日本の学者に活躍の場を多く提供したりしている。1967年咽頭がんで他界している。

最初は長崎に原子爆弾が投下された理由を公開されている記録から考察している。巷間言われているのは当初、小倉に投下する予定だったが天候が好くなく、市街地を確認できなかったため予定を変更して長崎に投下したという。ただ、この日(1945年8月9日)は長崎も天候は好くなく辛うじて雲の間から市街地が確認できるかどうかだったらしい。ではなぜか?そこには当時のプルトニウム型原子爆弾の構造上の問題があったためと著者は分析しており、いろいろ言われているが米国の都合と論じている。

とは言え公開されている公文書にもその日の天候などの記録や飛行記録はあっても、なぜ日本の広島・長崎に原子爆弾を投下したのかという動機までは書かれていないし、これから公開されるものにも恐らく書かれていないだろうということで、可能性の一つとしての論調になっている。

次にタイトルにもなっているオッペンハイマーの死因である。
直接の死因は咽頭がんなのだが、なぜ咽頭がんになったのか。
著者は医者で医学的な見地から本書で解説を行っている。多少陰謀論めいた所もあるが、医学的な見地での解説には説得力がある。
しかしこれも現在の医学では「可能性がある」という所までしか言うことができない。ただ、最近広島大学の先生が過去に遡って病気になった原因を調べる方法を発見したということで、近い将来オッペンハイマーの死因について解明されるかも知れない。

オッペンハイマーの死因の可能性について論じた後、オッペンハイマーは悪魔かという議論に一石を投じている。著者曰く物理学者という立場上、彼は原子爆弾を開発せざるを得なかっただろう。ただ実際に使用することを決定したのは米国だし、実行したのは米軍である。開発者を悪魔だというのであれば、包丁を使った殺人事件があった時に包丁を発明した人は悪魔なのか?という極端ではあるが分かりやすい例を挙げている。
ただ、オッペンハイマーが犯した罪は別の所にあり、むしろ著者はこちらを厳しく断罪している。これについてはやはり医者という立場のなせる批判であり説得力があった。

この後の章では世界の核開発(主に原発)についての著者の考えが書かれている。ここでも著者は原発について賛成や反対のいずれの立場も取っていない。それぞれの立場で科学的根拠に従ってメリットやデメリットを議論し、原発を稼働させるのも廃止するのもいいと言っている。但し、今の日本では原発を稼働させるべきではないという。なぜか?私はここでは科学や技術の問題ではないとだけ言っておくので、詳細は本書を読んで欲しい。確かにそうかもしれないと思った。

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