老いる日本の住まい ~急増する空き家と老朽マンションの脅威
昨年(2023年)、放送されたNHKスペシャル「老いる日本の"住まい"」(私は見ていないが…)のスタッフがまとめた一冊。
私も二十数年前に家を買って、ローンを払い続けている。当然、気に入っている家だし終の棲家だと思っている。
しかし…私と奥さんが鬼籍に入ったらうちの子供たちはこの家をどうするだろうか。
もしかして誰も住まず空家になるのだろうか?借り手もつかず、売ることもできず子供たちの負担にならないか?この本を読むまで考えたことも無かった。
それどころか遠く離れた実家に母親が住んでいるが、順番で言えば母親が先に亡くなるが、そうなった後の家をどうするのか?思い出があるから人に貸したいと言っても地方では借り手を探すのも難しいらしい。売却するにしても買い手が少ないうえに更地にするのに費用もかかる。その時になって慌てないように考えておかなくてはならないと思った。
これは地方だけの問題かと思うとさにあらず。都心部や都市周辺の衛星都市でも同様というかもっと深刻な状況になっている所もあるようだ。
この本で紹介されている埼玉県の鳩山ニュータウン。当初は東京へのアクセスも便利で多くのサラリーマン世帯が入居し子供を育て、埼玉の田園調布などとも呼ばれたこともあるらしい。それが街開きして40年。まるでゴーストタウンのようだという。
まさか…私の住んでいる街も街開きして20年。20年後の私の街の姿なんてことはないと信じたいが。
マンションに至ってはもっと厳しい状況で老朽化が進んでいる上に住民が高齢化している。
ほとんどが空き部屋となっているマンションも珍しくないらしい。ただ簡単に取り壊せないのが問題を余計に複雑にしていて、修繕するにせよ建て替えるにせよ取り壊すにせよ住民(所有者)の賛成が必要なのだが決議要件を満たす所有者が集まらないため棚ざらしになっているという。
しかしなぜこんな状況に陥ったのか?人口が都会に流出している地方ならいざ知らず、都会でも同じ状況って。
この本では「住宅すごろく」と言われる日本のライフスタイルと新築信仰があるという。
高度成長期、地方の若者は都市部へ労働力として移動した。(団塊の世代)都市部は人口が増えそれに伴い住宅が不足した。増え続ける人口を吸収するために編み出されたのが一度に大量の住宅を供給できる団地でありニュータウンだった。
都市部へ出てきた人たちはある程度生活が安定するとそこで結婚し家庭を築く。(核家族)この団塊の世代の人々はライフステージに合わせて棲み処を変えた。若い頃は賃貸アパート→結婚したら賃貸マンションか分譲マンション→子供ができたら庭付き一戸建て。(手狭な都心部ではなく広くて住みやすい郊外。)という具合に誰もが一国一城の主を目指した。実際団塊の世代の持ち家率は86%と高い。
更に国も税制優遇などで彼らを後押しした。新築住宅を買う人(「住宅すごろく」に乗った生き方をする人)を支援してきた。
(私は団塊ジュニアだがその一人になるのだろう。)
国の後押しもあり日本の総住宅数は総世帯数を1970年頃に上回った。にも関わらず住宅の新規供給は止まっていない。
現在では800万戸もの家が余っているという。人口が減って住宅需要が減っているのに新築住宅は変らず供給され続ける。家が余るのは当然と言えば当然である。
また日本は海外に比べて中古住宅のシェアが圧倒的に低い。欧米諸国のほとんどが80%を超えるのに対して(日本より国土が大きいにも関わらず。)日本では20%を超えたことが無いというくらい、「新築信仰」が強い。(「住宅すごろく」のあがり。)
「中古では経年劣化や欠陥が不安。」「新築の方が気持ちいい。」など分からないではないが、このままでは益々住み手のない中古物件(空き家)が増える一方である。昔は木造家屋が多かったので高温多湿の日本では心配になるのも分かるが、最近はマンションも住宅も耐久性は大幅に上がっているので中古住宅を見直す時期に来ているのではないか。
ここへきてようやく少しではあるが「住宅すごろく」「新築信仰」を見直そうという動きも出てきているが、まだ小さいようだ。
これに加えて私は住宅メーカーの責任も大きいと思う。派手なCMで散々購買意欲をそそり、綺麗な図面や完成予想図を見せ、資金の相談にも乗って新築住宅を売りまくるが、その後のことを何も考えていないように思う。
購入者が住まなくなった家はそのままに、別の顧客を見つけては新築物件を売ることを繰り返してきている。無人となった家を他の顧客に斡旋する仲介役をするなどしないと日本の狭い国土に誰も住まない住宅が溢れる。(住宅メーカーで家を新築した私が言うのもおこがましいが。)
子供の世代につけを回さないためにも早いうちから考えておかないといけないと思わされる一冊であった