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老人喰いー高齢者を狙う詐欺の正体
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先日、参加したビブリオバトルで紹介されチャンプ本に選ばれた本。
実はこのビブリオバトルが開催される前の週、二日続けて私の母と義母(共に80歳を超えている。)が危うく特殊詐欺の被害に遭いそうになったため、他人事とは思えなかったので読んでみた。
因みに母親は一部個人情報を取られ、義母は銀行でお金を出す所まで行っている。(幸い銀行でそんな大金は前もって言ってもらわないと用意できないとのことで出金できなかった。)
まず驚いたのは詐欺グループと侮るなかれ、普通の会社以上にきっちりと組織化、分業化されていること。就業規則も厳しく徹底されており、福利厚生も行き届いているうえ、社員?教育(もちろん詐欺の)もしっかり行っている。(もちろん、こんなグループばかりではないが、そういうグループは警察に摘発されたりして淘汰されていくという。)
巷間言われているように組織は資金の出し手(特殊詐欺組織を作るにも場所を借りたり、設備を用意したりとお金がかかる。)、複数の店舗を取りまとめる番頭、現場の責任者である店長、詐欺の電話をかけるプレイヤー、お金を受け取りに行く受け子、更に受け子から番頭に金が渡るまでに複数のメッセンジャーと言われる運び屋が入り、末端が警察に逮捕されてもそこで切れるようになっている。
ただ、筆者は今の社会構造では特殊詐欺は無くならないという。
なぜなら特殊詐欺が高齢者を狙う原因が高齢者自身にあるからだと言うのだ。
確かに戦後の焼け野原の中、必死に働いて日本を経済大国と言われるほどに立て直し、子供を育てようやくリタイアして穏やかな老後を過ごしたいだけの自分達が貯めた財産がなぜ狙われるのか?と高齢者は言うだろうし正論である。定年まであと5年の私でさえそう思う。
しかし特殊詐欺に手を染める若者の考え方はそうではない。自分達は向上心があり、アイデアもあるし、働く意欲もある。しかしいくら働いても給料は上がらず、経済的に困窮したままで、結婚すらままならない。将来もらえるはずの年金もどうなるか怪しい。何か新しく起業しようにも元手も無い。そんな状況でふと隣を見るとリタイアした老人が自分の孫には多少お金を使うものの、年金などを貯め込んでいる。
昔なら今は食パンをかじるしか無くても、必死に働けばそれに見合う収入が得られ、いいものを食べることができ、将来に不安が無くなった。しかし今はそうではない。一生、食パンをかじっていろというのか!そういう社会にしたのは高齢者たちではないかということである。それならばどうせあの世にお金は持って行けないのだから、一部を自分たちが奪って経済を回してやろうと自分を正当化してこの道?に入るそうである。(勿論、リクルータもそのように洗脳するのだが。)
国や政府、政治家がいくら「特殊詐欺は犯罪です。誘われても絶対に手を出さず、警察に相談を」と言って、対策費に予算を付けても、この道に進む若者にしてみれば「分かっているが、自分たちが特殊詐欺に手を染めざるを得ない社会にしたのはアンタたちだ」ということになるのだ。
まだ現役である私から見ればうなずける部分も無いことはないが、だからと言って容認することは当たり前だができない。
確かに社会構造に問題があるとは思う。会社でも私が若手の頃に比べて今の若い子は恵まれていないなと思うこともある。ただそれは私が若い頃でも同様であり、それでも犯罪には手を染めずまっとうにやって来た(と思う。)
いつの時代にもやる気があって、寝る間も惜しんで脇目もふらずに働いて、上昇志向が強いが周囲からは「痛い奴」「浮いている奴」と見られがちな人がいる。高度成長期であればそういう人が財を成したりしたものだが(裸一貫という言葉があるが、今や死語。)現代では「痛い奴」「浮いている奴」となってしまうだけである。そしてそんな若者たちが特殊詐欺の世界に入って行くという。確かに犯罪という一点を除けば、頑張れば頑張った分が成果となり自分に返ってくるから彼らには魅力的なのだろう。(実際、彼らは自分のやっていることが「犯罪」だということを理解している。)
この本には残念ながら防犯対策は書かれていない。防犯対策は警察などから数多く出されており、それらを確実に実行するしかないだろう。ただ特殊犯罪は今のままでは手を変え品を変え出てきて無くなることはないだろう。
私でさえ将来の年金がどうなるかという不安を抱えているのだから、若い人は余計にそう感じているだろう。年金制度は若い働き手が高齢者を支える仕組みである。自分たちが高齢者になった時に支えてもらえるどうかも分からないのに、なぜという思いは誰でも持っていると思う。
頑張れば頑張った分が成果となり自分に返ってきて、将来に不安のないそういう社会構造にしない限り特殊詐欺は無くならないと思った。面白かったが他人事ではなくなったため、真剣に考えさせられる一冊であった。