
SCARABEE スカラベ

先日の茨木ビブリオバトルでチャンプ本を獲得させていただいた本。
(テーマは「たま」)
スカラベとは簡単に言うと「フンコロガシ」のことである。では「フンコロガシ」とは何ぞや。
参考図書として使用した「糞虫図鑑」(中村圭一さん 著)によると、コガネムシの仲間で糞を食べるものを糞虫と定義している。では糞虫=フンコロガシかというとそうではなく、糞虫というカテゴリの中の一種類がフンコロガシでありスカラベということである。
因みに日本には概ね140種類の糞虫が確認されているが、そのうち糞玉(ビブリオバトルのテーマが「たま」だったのでこの言葉を使っている。)を作るのは6種類。更にそのうち糞玉を転がすのはわずか1種類、「マメダルマコガネ」だけである。(大きさも米粒くらいの大きさである。)
尚、私は糞虫好きである。息子が小さい頃はカブトムシを繁殖飼育していたが、息子が手を離れ、トレランや山歩きをするようになってからは、興味がカブトムシから糞虫に移って行って現在に至っている。
さて、このスカラベに話を戻すと本の構成は最初の3分の2はスカラベの写真集となっている。スカラベが巣から姿を現す所や、動物の糞を求めて飛ぶ姿はサンダーバード2号(若い人は知らないかな?)が秘密基地から飛び立つ姿を彷彿とさせる。
更に糞玉を作っている所や糞玉を逆立ちして転がす姿が色々な角度で撮られている。どれも全く汚い感じがしない。むしろ美しくさえある。勿論、スカラベ以外にもスカラベに糞を供給する動物たちの写真も盛り込まれている。
面白いのは表紙の写真もそうだが、実はスカラベが糞玉を転がす際は結構複雑な軌道を描くらしい。進行方向や軌道が分かるように特殊なレンズを使って撮ったのが表紙の写真であり、中にもそのような写真が含まれている。
(写真に疎い私はてっきり疾走感を出すためにこのような撮り方をしたのかなと思っていた。)
本の残りの3分の1はスカラベの習性や生態の解説となっている。もちろんまだまだ分からないことも多いのだが、今森光彦さん自身による写真や解説となっている。ファーブルが昆虫記でスカラベのことを記しているが、その時よりは研究も進んでいてかなり詳しく書かれている。
印象的なのは産卵期のスカラベの解説。
まずスカラベのオスが糞玉を作って、それに自身のフェロモンをかける。
それに誘われてやってきたメスと一緒に更に糞玉を大きくして、夫婦で大きくなった糞玉を巣まで運び、メスが卵を産み付ける。この糞玉をウェディングボールというが、夫婦最初の共同作業がウェディングボール作りというのも微笑ましい習性である。
勿論前半部の写真集にもウェディングボールを作って運ぶスカラベ夫婦の写真もある。
たかがコガネムシの仲間と言うかも知れないが、古代エジプトでは太陽神ケプリそのものとして崇拝されていた。ケプリは「再生復活」のシンボルとされ身分の高い人(ファラオと呼ばれる人々)のお墓には必ずスカラベが描かれている。この本にもツタンカーメンやラムセス6世のお墓の壁画の写真があり、スカラベが描かれている。
全体的にスカラベの魅力を余す所なく表現している写真集であり解説書(学術書と言ってもいいかも。)だと感じた。
当然、糞が写っているわけだが全く汚さは感じない。糞玉に至っては見事なというか完璧な球形であり美しくさえある。
古代エジプトの人達が太陽神として崇拝したのも納得できる素晴らしい写真集であり、今森光彦さんの8年間に及ぶフィールドワークの結晶である。
私に言わせればスカラベを含む糞虫=汚いというイメージは全くあたらない。彼らは大地をきれいに掃除をしてくれているのだ。
ここからは再び参考図書に移るが、身近な所で奈良公園。660ヘクタール(東京ドーム165個分…想像もつかない。)に1300頭ものシカがいて毎日、およそ1tもの糞が排泄されている。これを人手で掃除しようとすると莫大な費用がかかる。参考図書では設備投資も含めると年間100億円と言っているが、さすがにこれは言い過ぎだとしても十数億円程度は浮いているのではないか?
むしろゴミを出しても所定の場所に捨てず放置して帰る観光客やキャンプ場でゴミを持ち帰らないキャンパー。人間の方が余程大地(地球)を汚しているのではないか。そう考えると糞虫の方が余程地球に貢献しており、我々人類はその恩恵に預かっているだけでは?という気がする。
そんな糞虫にも絶滅危惧種もおり、奈良公園でも最近姿を見かけなくなった種類もいるらしく、地球の環境悪化が進んでいることを危惧する。
確かに人間の環境は衛生的になり糞虫達には住みにくくなっているのかも知れない。
最後に参考図書(感想文は別の機会に。)と糞虫について詳しく知ることができるならまち糞虫館を紹介しておく。
(参考図書)

ならまち糞虫館
https://www.hunchukan.jp/
こちらは参考図書に使わせていただいた上記「たくましくて美しい 糞虫図鑑」を記された中村圭一さんが館長をされています。スカラベは勿論、世界中の糞虫や国内(特に奈良公園)の糞虫の標本も見ることができ、先のマメダルマコガネの標本も見せていただきました。
時間が合えば館長さんに解説もしていただけるとてもフレンドリーな場所です。