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身勝手な女による福音書
裁く側が男だと男に甘いのではという言説を見て思い出すのは離婚裁判の時の裁判官。「日本の妻はみんな我慢してる。未熟な夫を許し、育ててる。何年も何十年も結婚生活を支えている。それが何、あなたは不満がちょっとあったからって、簡単に離婚しようとして。あなたのような身勝手な妻の申し立てで、家裁の業務が圧迫されてる」とのたもうた。高齢女性だった。
子への虐待(ミルク冷まさず飲ませて火傷負わせた等)についても「仕方ないじゃない。妻が夫を育ててないのだから」と徹底的に加害者擁護。「そこまで認知歪めないと排除される職場なんですか」って聞いちゃったよ。答えは返ってこなかった。
結局、民草を苦しめるのは人権感覚の欠如した『立場ある人たち』なんだろう。人間が社会の中では平等で、命の軽重などつけられないという認識が共有されていれば、性犯罪を軽く扱ったり、女を面白おかしく吊し上げたり、重犯罪者を野放しにしたりしないはずで、でも現実は違うから、女子供が害される。「暗闇でこそ星は輝く」と言うが、少なからざる星が殺されて久しい。
人の命より男の沽券を尊ぶこの国で、これから『立場ある人たち』になりゆく若手は本当に大変だと思う。命を等しく扱おうとすれば身勝手と詰られる現場かも知れない。でも侵害するのも人なら守るのも人。希望は捨てたくないなと思う。実際、離婚裁判の時の私の弁護士も、「彼女の『妻はみんな我慢してる』という言葉はこの国の文化と歴史を踏まえた傾向の話であり、それは別にあなたたち母子が横暴な加害者の元に留まるべき理由にならない」と明言して、私と子供を一人の人間として扱い、侵害されてはならない存在として支えてくれた。
暗闇の中で時々出会う、『人権感覚が欠如した立場ある人たち』に反論する『人権感覚が確かな人たち』。私もそちら側の人間でありたいな、と子供の寝顔を見ながら考えている。
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