【Q&Aレポート】ミカエル・アース監督&ピエール・ギュイヤール(プロデューサー)登壇!<フランス映画祭2022>📝『午前4時にパリの夜は明ける』
いよいよ公開まで1ヶ月を切った『午前4時にパリの夜は明ける』。
今回は、昨年12月4日(日)に横浜・みなとみらいで行われました<フランス映画祭2022>のQ&Aレポートをお届けします!
上映後、会場の熱も冷めやらぬ中、ミカエル・アース監督と、プロデューサーのピエール・ギュイヤールさん、司会に矢田部吉彦さんをお迎えしました✨是非、最後までご一読ください👀
「その時代が素晴らしい」という訳ではなく、「自分自身がもう一度その時代に飛び込んでみたい」という意味で、80年代を描いた
矢田部吉彦(以下略):
再び日本で素敵な作品を作っていただきありがとうございます。
一言、会場の皆さまにご挨拶をお願いします。
ミカエル・アース監督(以下略):
皆さん、今日はお越しいただきありがとうございます。
私が日本に来るのはこれで3回目になります。
最初は、東京国際映画祭で『アマンダと僕』を上映した際に来日しました。
それから3年前にも横浜のフランス映画祭に来ましたので、今回で来日3回目になります。
こうした機会を作ってくださった運営のユニフランスにも感謝の気持ちを述べたいと思います。ありがとうございます。
ピエール・ギュイヤール(以下略):
皆さん、こんばんは。
『午前4時にパリの夜は明ける』は4月に公開され、その後地方を周ることになっています。
このようなアートシアター系の映画をずっと支持してくれる配給会社の存在を大変光栄に思います。
矢:ありがとうございます。
私のように80年代をリアルタイムに経験した方はこの会場にも多くいらっしゃると思いますが、今回、80年代を背景にした作品を制作したきっかけを教えてください。
ミ:80年代、私は子供の頃です。
フランスには、「人は祖国に形成される」のと同じように「子供時代によって形成される」という言葉があります。
私自身も「80年代の色合い、感覚、質感や音などに自分自身が形成されている」と感じています。
ただ、80年代をノスタルジックな意味合いで撮っている訳ではありません。ノスタルジックな視線というよりは、むしろ自分が経験した、「ノスタルジックではない」部分です。
どの時代にも良い所も悪い所もあります。
「その時代が素晴らしい」という訳ではなく、「自分自身がもう一度その時代に飛び込んでみたい」という意味で、80年代を描きました。
他にも、例えば「夫に去られたばかりの50代の女性を主人公に描いてみたい」と思っていたり、「パリのグルネル地区に関しての話を描きたい」と思っていました。
また<深夜ラジオ>をはじめ、いくつかの具体的な素材もあったのです。
矢:グルネル地区はパリの中でも特別な個性がある地区なのでしょうか?
ミ:そうですね。あの界隈は特別な所です。
とても興味深く、例えば16区にはブルジョアがたくさん住んでいたりだとか、学生街だとか、普通は簡単に「ここはこういう地域だ」と言い分けることが出来ます。
しかしグルネル地区がある15区はそのような地域ではなく、一言では言い表せない魅力があるのです。
例えば建築をみても、主人公が住んでいるような高層ビルもありますし、眼下にはセーヌ川が流れていて、そのすぐ近くには郊外が広がっています。
また高級住宅街のような地域もあります。
本当に、様々な性質の地域が一色丹になっているので、とても映画的な地域だと思いました。
シャルロット・ゲンズブールが演じたエリザベートという役柄は、決して一枚岩ではない側面を持っている
矢:会場の皆さんもきっと聞きたいことでしょう。
今回、50代の母親にシャルロット・ゲンズブールをキャスティングした経緯を教えてください。
ミ:先ほど地域についても申し上げましたが、「簡単に分類出来ないもの」に私は興味があります。
シャルロット・ゲンズブールが演じたエリザベートという役柄も、決して一枚岩ではない側面を持っています。
ナイーブな一方でとても洞察力があったり、内気である一方で勇気ある行動をしたり…。
実は、個人的にシャルロット・ゲンズブールについてあまり詳しく知らなかったのですが、今回の役柄にとても合うと感じました。
そして彼女自身も、脆い所や傷つきやすい所がある一方で、とても芯がしっかりしています。
女優に限らず、一般的に私は二重性を持っている人が好きです。
ですので、今回のエリザベート役にはシャルロット・ゲンズブールがぴったりだと思いました。
矢:シャルロット・ゲンズブールとエマニュエル・ベアールの共演。
フランス映画ファンは興奮するのですが、エマニュエル・ベアールが演じるラジオパーソナリティのヴァンダにはモデルがいるのでしょうか?
ミ:エマニュエル・ベアール演じるヴァンダ・ドルヴァルは、フランスで実際に放送されていた80年代の深夜ラジオ「Les choses de la Nuit(夜の出来事)」という番組のパーソナリティがモデルになっています。
こうした番組の中で私が描いたような、一般の方がラジオ局に来て、自分の身の上話を衝立の向こうでする、そしてパーソナリティが話を聞くスタイルの番組がありました。
当時、私は思春期でしたので、話を聴くことによってかなり想像力が掻き立てられました。眠れない夜にはウォークマンで、深夜ラジオをよく聴いていたのです。
矢:エマニュエル・ベアールのキャスティングはスムーズに行われたのでしょうか。
ピ:今回のキャスティングは本当に恵まれていたと思います。
ミカエル・アース監督の前作『アマンダと僕』(18)がフランスでも大変好評でしたので、多くの人がミカエル・アース監督と一緒に仕事をしたいと思っています。そういった評判はどんどん口伝で拡がっています。
それに付け加えて、監督が書くシナリオが大変素晴らしいので、多くの俳優から作品に出たいという声が出ています。
この状況が続くことを私も願っています。
ご鑑賞後の皆さまからも貴重な質問が💭
矢:それでは、会場の皆さんから質問を聞いていきたいと思います。
Q1:
息子役・マチアスと家出少女・タルラはまだ若い二人ですが、現実の80年代は主演のシャルロット・ゲンズブールがまだティーンエイジャーの頃だったと思います。
そんな三人は、現場でどのような話をしていたのでしょうか。
ミ:本当に自然と三人は家族のような関係になっていきました。
もちろん若い二人は、シャルロット・ゲンズブールと共演するということで少し神経質になる部分はありましたが、彼女はとても寛容な人ですので、本当にすぐ家族のように仲良くなっていきました。
シャルロット・ゲンズブールは、若い二人に対してとても気を配っていたと思います。
そして、彼女は息子役・マチアスを演じた、キト・レイヨン=リシュテルのことを本当に気に入っていて、とても優しく見守っていました。
現場はとても良い雰囲気でした。
Q2:
前作『アマンダと僕』を拝見して、『午前4時にパリの夜は明ける』と同じく「主人公の両親のどちらかが不在、もしくは映画に出てこない」といった演出ですが、この点は何か共通した想いがあるのでしょうか。
ミ:私自身には両親がいます。
もしかしたら、私の前世では片親だったのかもしれません。
遺伝的な特性でしょうか…何故か「別れ」や「不在」といったものが脅迫観念のように降りてきて、映画の主題になっています。
自分でも分からないのですが、もしかしたら映画を撮ることによって「平安を取り戻す」といった気持ちがあるのかもしれません。
矢:『午前4時にパリの夜は明ける』で家出少女・タルラが家族の一員として迎えられたように感じられるところは、『アマンダと僕』にも共通するところがあります。最終的には「いろんな形の“家族”の在り方」がミカエル・アース監督のテーマとして考えても良いのでしょうか。
ミ:確かに仰るように「家族」というのはテーマになっていると思います。
もともと私は、本当に平凡な日常や友情を描き、それに詩情を乗せています。『アマンダと僕』と『午前4時にパリの夜は明ける』に関しては、一つの家族が「複合家族」のようにどんどん拡がっていく構成になっています。
今回、作品の冒頭では悲劇的な話が重なりますが、そのまま希望もなく絶望的に終わらせることは、私が意図するところではありません。
必ず映画の途中から光が差してくるように、映画を語っているのです。
Q3:
「プリンを作ったらジョー・ダッサンを聴く」という場面がありますが、監督ご自身の家族での決まり事などがあれば教えてください。
ミ:私自身の家族には決まり事は特に無いのですが、あの場面では「音楽を中心に、家族が一つのことを分かち合う」象徴的な場面になっています。
Q4:
前作『アマンダと僕』と『サマーフィーリング』では「美しい夏のパリ」が印象的でしたが、本作は秋から冬ぐらいの、ちょっと寒そうな印象を持ちました。このような季節設定にされた理由を教えてください。
ミ:これは偶然もあるのですが、個人的には夏に撮影することが好きです。
というのも、機材も自分自身も身軽なので、比較的安易に突然の変更にも対応が出来ます。陽も長く、雨もあまり降らず、全体的な条件として夏が一番撮影しやすいのです。
それから、「不在」や「別れ」をテーマにした映画の場合、夏の方が寂しさや悲しさが強調されると思っています。
例えば、バックが青い空であることによって、寂しさがより強調されるように。
ピ:今回は新型コロナウイルスの影響で、撮影の時期が少しずれたこともあります。
80年代を再現しましたが、パリの街は、建築をはじめとして当時から随分様変わりしています。それから、ミカエル・アース監督は屋外での自然な撮影を好み、あまり加えることをしません。
撮影の時期、ちょうどロックダウンの影響で街に人出が少ないということもあり、その状況を利用して撮影しました。
矢:最後に、シネフィルとしてこれは聞きたいと思います!
劇中にエリック・ロメール監督『満月の夜』(84)が登場しますが、この映画を登場させた監督の想いをお聞かせください。
ミ:もちろん、私がエリック・ロメール監督を大好きなこともありますが、
今回『満月の夜』の抜粋を使用したのは、主演のパスカル・オジェ、彼女に対するオマージュのためでした。私はパスカル・オジェという女優に常に魅了されていて、大好きな女優です。
彼女は残念ながら若くして急死してしまいました。
『午前4時にパリの夜は明ける』に、タルラという少女が出てきますが、彼女には少しパスカル・オジェを反映させていると思います。
矢:劇中でも「あの女優亡くなったんだよ」と言っていて、劇場に行くと、こちらもパスカル・オジェ出演のジャック・リヴェット監督『北の橋』(81)が上映されていたというシーンがありますよね。
ミ:エリック・ロメール『満月の夜』もジャック・リヴェット『北の橋』も80年代の映画ですので、80年代の雰囲気を映画からも受け取ることが出来ると思います。
孤独な少女との出会いが「家族」の絆を強くする――
深夜ラジオがつなぐ、愛おしくて大切な7年間の物語。
1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。
そこで出会った家出少女のタルラを自宅へ招き入れ――。希望と変革のムード溢れる 80 年代のパリとともに、移り変わるエリザベートと家族の過ごした月日が優しく描かれる。
主演はフランス映画のみならずトリアー、イニャリトゥ、ヴェンダース監督作などに意欲的に参加し続け、活躍の場を広げるシャルロット・ゲンズブール。夫の裏切りに傷つきながらも逞しく前へ進む等身大の女性を演じ、『アマンダと僕』が ヴェネチア国際映画祭マジック・ランタン賞、東京国際映画祭グランプリと最優秀脚本賞 W 受賞に輝いた、フランス映画界の次世代を担うミカエル・アース監督とのタッグが実現!
『午前4時にパリの夜は明ける』
監督・脚本:ミカエル・アース 『 アマンダと僕』)
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、
ノエ・アビタ 、 メーガン・ノータム、 エマニュエル・ベアール
2022年/フランス/カラー/111 分/R15/ビスタ/
原題: LES PASSAGERS DE LA NUIT
配給:ビターズ・エンド
© 2021 NORD OUEST FILMS ARTE FRANCE CINÉMA
4月21日(金)シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次公開
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