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Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.2 2020/9

 noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表されている小説の中から、独断と偏見で選んだ『ステキな小説のスクラップブック』。月に一度、批評を記事にして配信してる(まだ2回目だけどな。ちなみに前回の配信はこちら)。気に入ったらフォローしてくれよなっ✌️

 今回のラインナップはこの3作品。秋っぽいだろ?(そうでもないか)

not too late/山羊メイル

 この人の書くストーリーには少年の瞳に灯る澄んだ正義感が流れてるようで、読みながら拳を固めて登場人物に向かって「頑張れ」って言いたくなる。大声で、じゃなくて心の中で小さな声で。

 そして構成が上手い。物語の後半、ドライブのシーンで父親がこう言う。 

少し、窓開けるか。今日は、気持ちいいな。

 この後、頭の中では窓から入ってくる風がずっと顔を撫で続けているような気分になる。それが後半の展開の穏やかさ、物語全体の読後感にとてもマッチしてると思う。これが「ポテチの匂いが篭っちゃったな。少し、窓開けるか」ではこうはいかない。読み終わっても油の匂いが鼻腔を掠めてしまう。

 ちなみに、この山羊メイルさん、どうにも見覚えあると思ったら『 #応援したいスポーツ 』コンテストで審査員賞であるASICS賞を受賞していた。受賞作『運動で劣等感を散々味わった人が、運動できる人になった時に、僕は「にしのーー!!」と叫んだ』もエエ感じなので、ぜひ読んでみて。

見送る電車/寝癖

 夏も終わって秋の気配ってことで、ちょっとおセンチなやつを。

 きゃーっ!すっぱっ!甘ずっぱっ!

 そう思うのはこちらの心が煤けてしまったからだ。薄汚れてしまったことが後ろめたいからだ。そして、澄んだ心を持っていた日々をけっして忘れていないからだ(と思いたい)。皆の者、遠き日の甘酸っぱさを味わえ。

まだ、私らしさを諦めずにいたい/湖嶋イテラ

 選ぶのにちょっと迷った。だってこれ、創作じゃなくてエッセイかもしれないから。でもさあ、めちゃくちゃ良いんだよね。言葉、リズム、着眼点。そもそも、頭の中で作り上げたことを書くことばかりが小説ではない。実話に即した上で、多少の創意を加えて書くこともある。歴史小説なんてそうだ。さすれば、湖島さんのこの作品は小説だよ。良いじゃんか、面白いんだから選んでも。

フフン、と思わず笑いがこぼれた。

暑い暑い日差しが私の右腕をちりちりと焼く。

 冒頭二つの短文にすでに引き込まれる。「笑いがこぼれて、日差しに焼かれる。え?何でやねん!」関西のオカンなら総ツッコミ間違いなし。ところが、その後も「フフン」の理由が分からない。謎が解き明かされないまま、話が進む。「え?さっきのフフンの話はどこいったん?でもエエか、続きの話もおもろいから」。女性の会話に特有のパラレルワールドよろしく主人公の一人語りが続く。

 この一人語りが深い。

 主人公がずっと抱えていた「私らしさ」についての思い出話だ。自動車を運転する車内でたった一人。その脳裏にエピソードが浮かぶ。カーラジオからはパーソナリティの語りが聞こえる。

 でもって、絶妙のタイミングで「フフン」と笑ってしまった顛末が語られる。

 関西のうるさいオカンの中にも、ここまで読み進めばしんみりする人だっているんじゃないかな。「あるわあ、あたしも。それ、メッチャよぉ分かるわ」黙れ、オバハン!そんなデリカシーのない口ぶりのやつにこの丁寧な文体の微妙なニュアンスがわかる訳ないやろっ!

🍌

 今回の湖嶋さんの作品の主人公に何となく畠山美由紀さんのイメージが浮かんだ。という訳で、今日はこの曲でお別れ。最後まで読んでくれてありがと。
 じゃあ、また次回に。

🍌

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