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当たり前のことを忠実に。僕は、ヒーローにならない。〜High Standard Interview #4〜

ビットキーnote編集部です。
さて、High Standard Interview第四弾に登場するのはプラットフォーム領域を担当するエンジニアの泉川さんです。

実はこのインタビュー、依頼時にご本人から辞退の申し出を受けています。その理由を紐解いたときに、泉川さんのある信念が浮き彫りになりました。

ビットキーで価値を出し続けるエンジニアが語る、「当たり前」にご注目ください。

【インタビュイー】

泉川 貴洋(ソフトウェアエンジニア)

新卒でワークスアプリケーションズに入社、フロムスクラッチ(現:データX)を経て、創業メンバーとしてビットキーへ。デジタルコネクトプラットフォーム「bitkey platform」の開発者の1人。


ーーインタビュイー選出にあたって、多くのメンバーから「ハイスタンダードといえば泉川さん」との声が集まりました。しかし、インタビューの依頼をしたとき辞退の言葉をいただきましたよね。

ハイスタンダードという言葉を社内でよく聞くようになりましたが、実際どんな状態を指すのか僕自身イメージできていなくて。もしこの状態で自分が登場したら、「ハイスタンダードが何なのか分からないけど、僕はハイスタンダードです」なんていう矛盾が起こりますよね。それってめっちゃ嫌なやつじゃないですか(笑)。インタビュー対象者に該当するのか自分でも判断できなかったですし、誰かに役立つようなアウトプットが出せるイメージが湧かなかったので、せっかくのお声がけでしたがお断りしました。

ーーその後、背景のすり合わせを行った上で応諾いただけました。

企画の趣旨と今回のコンテンツで達成したいことを説明いただき、この企画を通して実現したいものがある、そんな熱意を強く感じました。誰かのためになれるよう、僕なりにお話できればと思います。

ーーありがとうございます。では最初に、泉川さん自身が「こうなりたい」と思うエンジニアはどんな方なのか教えてください。

ずっと尊敬している方は数名いらっしゃるのですが、一番記憶に残っているのはワークスアプリケーションズ時代の上司Iさんです。技術力もさることながら、目的意識やゴールのイメージが明確で、しかも効率を大変重視する方でした。Iさんは朝早めに来て夕方には帰る方だったのですが、そのワークスタイルは当時の会社では珍しかったんですよ。どんなに綺麗事を言っても、結局は長時間労働しないと飛び抜けて優秀になれない、と考えていた僕の考えは一気に覆りましたね。

Iさんは開発を始めたばかりの僕を信頼して丸投げしつつも、何事もない様子で細かなレビューや裏取りをしてくれました。大きな失敗をしないように背後で動いてくださっていたんですね。それに気づいた時に、「すごいな、こういう人になりたいな」と心底感じました。今でも僕はIさんのワークスタイルやマネジメントスタイルを踏襲しています。

ーー上司の方の影響が大きかったのですね。効率化という言葉が出ましたが、泉川さんは効率化においてどんなことを重視されていますか。

「走る方向とゴール地点を間違えない」「走る速度を上げる」「走る時間を守る」という観点です。そのために、短時間でPDCAを回す仕組みを取り入れています。具体的には、25分を1サイクルとして一度振り返りの時間をつくり、ひと息休憩を入れます。

ーー25分ごとに振り返りを?想像以上に短いサイクルでした。

時間の感覚は人によって違いますが、僕にとっての最善がこの形でした。長時間の集中は途中でバテてしまい、長期間でみると生産性が落ちていることが分かりました。「走る方向を間違える」リスクもあり、時間をかけたのに成果が出ない状況を招きかねません。そのためにあえて時間を区切って振り返りの時間を設け、1週間という枠で見たときの生産量の最大化を目指しています。

忠実にPDCAを回し続けているだけなので当たり前の話かもしませんが(笑)。継続できるかがポイントだと思います。

ーー「時間をかけて成果を出す」のではなく、「生産性をあげて成果を出す」ことに相当コミットしているイメージを持ちました。泉川さんが生産性を重視するのはなぜなのでしょうか。

月並みな話ですが、僕には人生で目指していることが2つあるんですね。1つは誰かの役に立つ仕事を沢山するということ、もう1つは、仕事もプライベートも含めた人生を全力で楽しむということです。

個人的な価値観ですが、どちらかだけ達成するという方向性はイメージできません。重要なのは両者がトレードオフではないことです。

両方の達成を目指しながら業務に取り組んでいるので、結果的に生産性重視に見えているかもしれません。

ーーなるほど。取り組みの背景には、人生の目標が影響しているのですね。続いて、泉川さんがマネジメントで大事にしてきたことを教えてください。

1つ目は、何も起きない状態にすること。2つ目は、リーダーが暇そうにすること。3つ目は、練習場所を作り、失敗してもらうことです。

僕が考える理想の職場環境は、何も苦しい事件が起きず、成長を感じながら、仕事の意義を噛み締められる環境です。この「苦しい事件が起こらない」という状況は、100%リーダーのパワーで実現できると思っています。

その状態をつくるために、具体的には「予言」を取り入れています。「予言」とは、4半期と2週間という両方の単位で、何が起こるか、誰がどうなるか、その最高パターンと現実パターンと絶対回避パターンを全部紙に書いて、回避策をブレストして実行する作業です。

ーーピンチを未然に防ぐための取り組みをしているのですね。

はい。これはリーダーがヒーローにならない覚悟ともいえます。ヒーローってピンチを助けるからこそヒーローになれますが、そもそもピンチを最初から作らないようにすると結果的にヒーローにはなれません。

また、忙しそうと思われるリーダーではなく、アホで明るくて暇そうなリーダーでいようと心がけました(笑)。その方がメンバーに心理的負担を与えないと考えたからです。

さらに、忘れがちかもれませんが、仕事は「練習」ではなく「本番」です。失敗は重要な経験といえますが、できれば本番ではなく練習で失敗したいものですよね。そのため、社内ツールやスカンクワーク制度(業務外の創造的な開発)といった、失敗して良い機会を設けました。それでも練習が足りない場合は、社内αリリース、社内βリリースといった練習場所をつくりました。この意図は他チームに伝わりにくかったかもしれませんが、綿密に考え抜いた結果の施策でした。

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ーー泉川さんの考えるマネジメント施策は、チームメンバーの視点や思いに寄り添うものであると伝わってきます。

メンバーの幸せな働き方、やりたいことを叶えてあげたいという思いは常々持っていますね。でも、僕がチームに要求するレベルも高いと思いますよ。例えば、機能レビューでは、解決したい課題と理想の状態が明確じゃないものはゼロベースで考え直してもらいます。MTGでも、目的と今回のゴールが明確じゃない場合は開始しません。どんなに時間をかけて機能をつくったとしても、エンドユーザーに価値が提供できないと感じたら作り直します。
 
こんな風に厳しいことを言うことはありますが、チームの外からメンバーに怒りの矛先が向くような環境は絶対につくりません。優秀なメンバーが一緒に働いてくれているので、必ず守るし、僕自身もチームに対してコミットします。

ーー泉川さんのスタンスが紐解けてきました。さて、泉川さんは創業のタイミングでジョインし、ビットキーの事業の源流ともいえる「bitkey platform」を創り上げたメンバーの一人です。いわゆる“ゼロイチ“を実現したわけですが、構想を現実のものにするには、エンジニアにとってどんな力が必要だと考えますか。

未知のアイディアに対して「分からない」と決めつけず、誰にどんな価値を提供できるのかをいろんな視点で考え抜くことに尽きると思います。

理想は現実に引きずられずに描き、現実の解決策は誰よりも具体的に考えます。さらに、実行中は今の作業の延長線に目指すものが本当にあるのかを常に問いかけます。これをどれだけ忠実にやるかが大事かと。

過去を振り返ってみると、「bitkey platform」の構想段階では、答えはまだ誰も描けていないと感じていました。答えがあると思うから「分からない」となるわけで、答えがないと思えば「自分でつくるしかない」となります。

CEOの江尻さんはヒントを持っていましたが、それが絶対でもなければ、全てでもありません。僕らが「これ以上のものは絶対にない!」と思えたら、江尻さんがなんと言おうが説得できる自信がありました。

そう思えるところに行き着くまではつらかったです。ずっと、どんな価値を与えられるのか考え続けていました。

ーー自ら答えを出すことをずっと徹底されているんですね。

メンバーにも伝えていますが、人の話は9割嘘です。もちろんこれ自体も根拠のない嘘です。何が言いたいんだ?と思われるかもしれませんが、要は自分の頭で考えよう、ということですね。

他人の情報をそのまま鵜呑みにし、自分で解釈することなく使っていては本質から遠ざかります。様々な情報を元に、事実を集め、感情も入れて深く考え、解釈し、自分の理論にすることが大切だと思っています。

ーー今の言葉を聞いてピンときたのは、冒頭のインタビュー辞退の話です。企画や依頼内容を鵜呑みにせず、「ハイスタンダードとは何か」「インタビューがどんな価値を与えるか」と深く考えてくださったから、辞退という結論を出されたんですよね。自分の頭で考えることをどのような場面でも貫かれているんだなと感じました。

そこは一貫しているかもしれないですね。

仕事自体も漠然とやってしまうと、いつの間にか自分を評価する上司のために働く、なんてことになるかもしれません。開発を通してどうしたいか?という一点は常にブラしてはいけないと思っています。顧客がこんな体験をして幸せになっている社会にしたい、とか。大事なのはWILLの部分です。

これまでお話してきたことは、目指すものに対して逆算した結果です。当たり前のことばかりかもしれませんが、何かの参考になれば嬉しいです。

ーー泉川さん、ありがとうございました。


◆編集部より

今回のインタビューを通して、また1つハイスタンダードの輪郭が浮き彫りになった感覚がありました。「当たり前のことかもしれない」と終始謙虚に話す泉川さんでしたが、その「当たり前」のバーが常に高い場所に位置しているように思いました。自分の頭で考えることも継続することも、言葉にすると簡単です。そこを徹底することがどれほど難しく、どれほど大切なのか考えさせられました。

次回のハイスタンダードインタビューは、プロダクト開発部門と事業開発部門の対談をお送りします。