目指したのは「洗練された設計」。数億円のコスト削減を実現した電気エンジニア〜High Standard Interview #13〜
社内の新しい取り組みとして始まった「マイ・ハイスタンダード」。これは困難な状況下でも、高いクオリティやマインドセットを保ちながらリーダーシップを発揮したメンバーや事例を全社に紹介する取り組みです。
四半期ごとに各事業部のマネージャーからの推薦を集め、CEOを交えた会議を通じて数名が選出されています。第4回目(2022年4月-6月選出)は、3名のメンバーが表彰されました。
彼、彼女らがどのようなマインドで日々業務に取り組んでいるのか。High Standard Interviewシリーズとして「ハイスタンダード=高い基準」の源流にあるものを深掘りしていきます。
今回お届けするのは、ハードウェアチームで電気設計を担当する関口さんのインタビュー記事です。
関口 康平(ハードウェア エンジニア)
技術を追求するだけでなく、事業やマーケットに直接貢献したい
── 関口さんの現在の担当業務を教えてください。
ハードウェア製品の開発チームで電気設計エンジニアをしています。電子機器を動かす上での心臓部ともいえる電子回路を開発したり、電気部品をパズルのように組み合わせたりする仕事です。
外からは見えにくいですが、スマートロックなどのデバイス内には電池、モーター、Bluetoothの部品など、いくつもの電気部品が内蔵されています。さまざまな電気部品のバランスを加味して最終的な姿に落とし込んでいくのですが、ここがエンジニアの腕の見せ所。できるだけ性能がよく、小型で、省電力化された製品にするため、日々奮闘しています。
── 最近、電気設計チームのマネージャーになったそうですね。
はい。自ら望んでマネージャーのポジションに置いていただきました。
マネージャーになれば、さまざまな部署とも関わりやすく、世の中のニーズを肌感覚で掴めるようになると思いまして。マーケットや事業開発に近い距離で仕事をし、ものづくりに反映したいと考えました。
── ビットキーに入社する前はどういったお仕事をしていたのですか?
入社前は、ホームシアター・オーディオや、ノートパソコンの電気設計に携わっていました。求められるエンジニア像は「職人」のような、技術を突き詰めた人間でした。特定領域に強みを持った一人ひとりのプロフェッショナルが集まることで、全体で成果をあげていくんです。一流が集う環境で、エンジニアとしての研鑽を積めたのは素晴らしい経験だったと思っています。
── 専門性を突き詰められる環境というのは、エンジニアとしても魅力的なポイントのように思います。なぜ転職を考えられたのでしょうか?
私は性格的に、「気にしい」なんです(笑)。普段のコミュニケーションでも周囲の反応に敏感ですし、仕事でもユーザーのリアクションが気になるタイプなんですね。エンジニアとして、自分が作ったものに対してどのような反応があるのか、どういったところにユーザーの感動があるのかを、肌感覚で知りたくて。
大手のメーカーはその点、縦割り体制のために営業担当や商品企画部門などのビジネスサイドとコミュニケーションする機会が少なく、自分の関わった仕事がどのように世の中へ影響したのか捉えづらい側面がありました。私たちのようにものづくりを担当する人間は基本的に製品開発・企画の領域にまで手を広げることは難しいんです。
しかし、ビットキーは大手メーカーに比べるとマーケットとの距離が近い点が特徴です。お客様の要望を、いちエンジニアの自分であってもダイレクトに受け取ることができます。能動的にマーケットにアクセスできれば、潜在的なニーズや困りごとを探ることができて、ユーザーの体験を向上させられます。それが非常に魅力的でした。
── なるほど。ハードウェアを扱うスタートアップは他にもあると思いますが、なぜビットキーを選んだのでしょうか?
ものづくりに関わるなかでどんなに素晴らしいハードウェア製品を生み出したとしても、それ単体ではお客様に届ける価値に限界があるなと思うようになったんです。これからの時代は、ITシステムなどソフトウェアを絡めた価値提供が必要なのではないかと。ソフトウェアと組み合わせれば、ハードウェア単体ではできなかったことも可能になります。できることが広がるんです。次第にIoT製品に興味を持つようになりました。
そのためIoTメーカーを転職先として検討しましたが、どの企業もハードもしくはソフトのどちらかに注力していて、なかなか両方に強みを持つ企業を見つけられませんでした。そんなときにビットキーと出会い、自社でハードも手がけ、ソフトにも強みを持つ稀有な企業だと感じたんです。
好奇心と行動が、想像を超えた結果をもたらした
── 今回、「ハイスタンダード」であったとして関口さんが全社表彰を受けました。表彰の背景を教えてください。
電子モジュール内にある部品のひとつを取り除いた、というプロセスを表彰いただきました。この電子モジュールは、他社製の電子錠に組み込むことで、ビットキーの認証基盤やサービスとつなげられるものです。通信性能の確認のため、前任者から引き継いだ製品でした。
部品を取り除いたとはいえ、一個あたり50円ほどの部品なので、「え、それだけのことで?」と思われるかもしれませんね(笑)。
実は現在、新型コロナウイルス等の影響で世界的に電子部品が不足していて、部品の需要に対して供給が追いついていない状態なんです。そうなると、元々50円ほどの部品であっても、現時点では10倍以上に価格が跳ね上がっています。大型案件で数十万戸に設置する予定があるのでこの部品をたったひとつ取り除いたとしても、数億円規模のインパクトが生まれます。
── 数億円のコスト削減につながった取り組みとなったのですね。それが、表彰の根本的な理由でしたか?
コスト削減という「結果」よりも、ゼロベースで開発に取り組んだという「プロセス」が根本の評価理由だったようです。
── プロセスについて詳しく教えてください。引き継いだ製品は、元々問題なく動いていたそうですよね。なぜ、あらためて設計を読み解く必要があったのでしょうか。
純粋な好奇心でした。引き継いだ製品がどのような意思・思想を持って設計されたものなのか知りたかったんです。意外かもしれませんが、エンジニア全員に同じお題を与えたとしても、絶対に同じ設計にはならないんですよ。なぜなら、そこには「設計思想」があるからです。設計で力を入れる場所、得意領域、根本的な考え方などは人によっても企業によっても異なります。これらが設計にありありと映し出されるんです。
だからこそ、相互にレビューをして、無駄のない洗練された設計を目指していく必要があります。単純に動けばよい、過去の実績をコピーすればよい、ではないんですね。私は以前から「エンジニアとしてちゃんと設計したい」という思いが強かったので、引き継いだ製品の設計思想も紐解きたくなったんです。
── 紐解いた結果、発見があったと。
はい。一点だけ「なぜついているのかわからない」部品があり、モヤモヤと頭に残りました。そのロジックを解き明かすべく、関係者へヒアリングしたり、過去の資料を漁ったり、自分なりに納得できる材料を集めました。
そして、実際に部品をとった場合を想定し、50〜数百ページある全ての部品の仕様書を読み込んだり、設計検討プロセスをやり直したり、机上設計で仮説を立てて実際に動かすことで確かめたり。かなり泥臭いことを一個一個やっていきました。
── 入社してから多忙な毎日だったかと思います。なぜここまでやりきれたのですか?
僕は「洗練された設計」への思いがめちゃくちゃ強いんだと思います。無駄のない設計をしたい。設計のレベルを常に高めていきたい。その思いが原動力となり、ゼロベースで開発を進めていき、最終的に部品のひとつを取り除くことができたのかもしれません。同じハードウェアチームのメンバーにも、「関口さんは技術を語らせると熱いんだよな」みたいなことを言われました(笑)。
── 今回の取り組みを通じて得た学びを教えてください。
自分の経験に基づいた「直感」や「違和感」は時に重要な打開策へつながること。さらに、好奇心に正直でいることと、即座に行動に移すことの大切さをあらためて認識しました。
余談ですが、私は宮本武蔵の「構えありて構えなし」という格言が好きなんです。基本的な型があっても、必ずしも常に通用するとは限らない。型にばかりとらわれてしまうと、いざというときに充分に力を発揮することが出来ない。そのような意味合いが含まれている言葉です。
今回の取り組みを通して、格言に近い姿勢を少しは体現できたかな、と思えて嬉しかったですね。
「攻め」のハードウェアでブレイクスルーを狙う
── ビットキーに入社してから半年以上が過ぎましたが、スタートアップに飛び込んでみての苦労はありましたか?
大変なことはたくさんありました(笑)。マーケットとの距離が近いことを望んで転職したものの、要望には「無理難題」のようなものも含まれるため、何度も頭を悩ませてきました。
たとえば、どんなに短納期でも、2カ月ほど開発に時間がかかるものを1カ月でこなすとか。ただ納期を考慮すればよいのではなく、安全面やリスクを全部洗い出して、それに対して必要なテストをやって、何とかギリギリ間に合わせるみたいなことが何度もありましたね。
これまでの経験に比べ、ビットキーでは一人でやらなければいけないことの幅が広く、要求されるスピード感も早いです。仕事をキャッチアップしつつ、成果を出すことには苦労しました。毎月違う競技を全力で習得して、試合で結果を出すことを繰り返すような感覚です。
── 苦労を経て、ご自身の成長や変化を感じる部分はありますか?
毎月のように新たな取り組みに関わっているので、柔軟な思考や優先順位付けのスキルは急速に鍛えられたように思います。
また、ビットキーのすべての源流にあるのは「ユーザー体験」なのだと学び、エンジニア人生に影響を与えてもらいました。他チームとのミーティングの場で、電気信号の強さ、周波数、電流など専門用語を使って説明したんですね。すると、「ユーザーにとって何が嬉しいのか?」という反応が返ってきたんです。
前職までは、ユーザーのメリットを説明するのは商品企画の仕事だったので、エンジニアが説明する機会はほとんどありませんでした。しかし、ビットキーでは技術のみならずユーザー体験と紐付いた説明が必要です。
数値を用いた説明を求められることも多いので、技術だけに向き合いたい人には大変でしょうし、僕も正直まだまだきついです。でも、「ユーザー体験」を共通言語として会話できるようになってから、よりいっそうマーケットに求められる製品とは何か、手応えとして掴めるようになった気がします。自身の成長を感じる部分ですね。
── 最後に、関口さんの今後の展望や目標を教えてください。
エンジニアとして「守り」から「攻め」に転じていけたらと思っています。そもそもハードウェアは、ソフトウェアと比べると、簡単には色々なものを変えられないという特徴があります。モノを調達しなければなかったり、部品一つひとつの価格面を考慮しなくてはならなかったりするからです。
ハードウェアで技術革新を起こすとしたら、長期的なリードタイムを見なければなりません。そういった意味では、「攻めにくい」領域ともいえるでしょう。
しかし、たったひとつの部品が強烈な影響をもたらすのもハードウェアの長所です。部品を新しい技術に置き換えたら、できることが10倍になったりするんですね。ブレイクスルーと呼んでもよいほどです。
だからこそ、新たに実用化されつつあるハードウェア技術をキャッチアップし、長期的な視点で技術戦略を考えていきたいです。スピード感をもってR&DやPoCも進めていきたいですね。それが最終的に、ユーザーの価値につながっていくので。
── 「守り」の印象が強いハードウェアが、「攻め」に転じたとき。ビットキー全体に大きな影響力が生まれるのでしょうね。
そう信じています。「ハード」の印象をくつがえすような、ダイナミックな取り組みを柔軟に実行する。そんなチームをリードできる人間になりたいです。
◆編集部より
一般的に、キャリアアップを第一に考えてマネージャーを志向する人は少なくありません。しかし関口さんは「ユーザーの声を反映した製品を作りたい」という気持ちで、マネージャーを志望されました。マネージャーになることで、今まで以上に「ユーザーにとっての価値」に向き合うことにつながると考えたからです。そこには、関口さんの揺るぎない信念と、エンジニアとしての熱量がありました。
ビットキーでは一緒に働く人を募集しています。
詳しくはこちらをご覧ください。
構成・編集 / 写真 / 図 ビットキーnote編集部
取材・執筆 早坂みさと