【童話読み聞かせ】栗ひろい
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
暴力が人々を苦しめること。苦しい時には、訴えて救いを求めることも必要であることを知らせたい。
読み聞かせのポイント
トラ大臣は真に悪党、ライオン王さまは、いつくしみ深い王者として、会話をすすめてください。やぎとうさぎの会話は、区別をはっきりするために、ことばのはじめに「メーメー」「ピョン、ピョン」を加えました。
おはなし:出村孝雄 / え:長谷部はるか /
著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
山の中に、動物の国がありました。動物の国の王さまライオン王さまは、年をとってしまいました。
でも、ライオン王さまは、山の動物たちが、みんな、なかよく、しあわせに暮らせるようにと、いつも心配していました。
それなのに、とらのトラ大臣は、よくばりで、たいへんならんぼう者でした。
あるとき、トラ大臣は、こんなことを考えました。
「山には、栗がたくさん、なっている。この山の栗を、みんな集めて、わしひとりのものにしてやろう……。それには、よいことがある。この山の動物たちは、ライオン王さまのいうことなら、なんでも聞くから、ライオン王さまの、いいつけだといって、栗を集めることにしよう」
トラ大臣は、じぶんの家の前の、大きな岩の上に立ちました。
「ウォー、ウォー。山の動物たちは、みんな集まれえ」
みんな集まってきました。メー、メー、やぎもきました。ピョン、ピョン、 うさぎもきました。犬も、きつねも、ぶたも、みんなやってきました。
トラ大臣は、ひげを、ピーンと、はねて、いいました。
「エヘン、これから、たいせつなことをいうから、よく聞け。ライオン王さまが、栗の実を、ほしいとおっしゃるのだ。それで、山の動物は、だれでもひとりで栗を千、千個、ひろって、あと五日のあいだに、このトラ大臣の家まで持ってこい。よいか、栗を千、千個、ひろって持ってくるのだ。わかったか」
動物たちは、びっくりしました。
「まあ、栗を千。あと五日に」
みんな、ボソ、ボソ、いいながら、こまってしまいました。
そこで、うさぎが、おそる、おそる、トラ大臣に、ききました。
「トラ大臣さま。もし、五日かかっても、栗が千個、ひろえなかったときには、どうなるのでございますか」
「うん、それができなければ、このトラ大臣が、かみついてやる」
動物たちは、かみつかれると聞いて、びっくりしました。
そこで、やぎが、おそる、おそる、いいました。
「トラ大臣さま。かみつくような、らんぼうなことは、おやめください」
「なにをいうか、やぎ。これは、みんな、ライオン王さまのおいいつけじゃ。さあ、すぐ栗ひろいにかかれえ……。あと五日のうちに、栗を千個、ここへ持ってくるんだぞ」
山の動物たちは、みんな、栗をひろいはじめました。
日は、どんどん、過ぎて、五日めになりました。動物たちは、ひろった栗を、トラ大臣の家にはこびました。
「ワン、ワン、ワン。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。どうぞ、ライオン王さまに、さしあげてください」
「おう、犬か。そこへ、あけてみろ」
「はい、このとおり」
ザラ、ザラ、ザラ。犬は大きなかごから栗をあけました。
こんどは、きつねがきました。
「コン、コン、コン。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。では、ここに、あけますよ」
ザラ、ザラ、ザラ……。そこへ、ぶたがきました。
「ブー、ブー、ブー。トラ大臣さま、栗を千、持ってきました。そら、この とおり」
ザラ、ザラ、ザラ……。動物たちが、みんな、栗をはこんだので、トラ大臣の庭には、栗が山のように、つまれました。
ところが、トラ大臣は、まだ栗を持ってこない者があるのに、気がつきました。
「うむ、まだ栗を持ってこないのは、 やぎとうさぎだ。よし、この夕方までに、こなかったら、やぎもうさぎも、かみついてやる」
トラ大臣は、やぎとうさぎのくるのを待っていました。
さあ、やぎとうさぎは、どうしたのでしょう。
やぎもうさぎも、いっしょうけんめいに、栗をさがしていました。
「メー、メー、メー。こまったなあ。もう、栗はどこにも落ちていない。千にするのには、まだ五つたらないもの、ぼく、こまっちゃったあ」
「ピョン、ピョン、ピョン。ぼくも、まだ五つたらないよう。こまっちゃったあ」
「うさぎくん。しかたがないから、このまま、トラ大臣のところへ、持っていこう」
「やぎくん、だめだよ。あのらんぼうなトラ大臣に、かみつかれるよ。かみつかれたら、死んでしまうかもしれないよ」
もう、日は暮れかかりました。
それでも、やぎとうさぎは、栗をさがしながら山を歩いていました。
そのうちに、ライオン王さまの、ご殿のそばまで、きてしまいました。
ライオン王さまのご殿の庭には、栗の木が、たくさんはえていて、栗の実が、いっぱいなっているのが、外から見えました。
やぎはうさぎに小さな声でいいました。
「ねえ、うさぎくん。このライオン王さまの、ご殿の庭には、きっと栗の実が、たくさん落ちているよ。それをひろえば、千になるよ」
「ほんとだ。この庭の栗をひろえばいい」
やぎとうさぎは、ご殿のかきねを、のりこえて、庭へはいっていきました。
王さまのご殿のひろい庭には、一めんに、たくさんの栗の実が、落ちていました。やぎもうさぎも、大よろこびです。
「メー、メー、メー。落ちてる、落ちてる、たくさんの栗」
「ピョン、ピョン、ピョン。さあ、ひろおう」
「ほら、一つ、二つ、三つ……。ここにもある、四つ、五つ」
やぎもうさぎも、むちゅうになって、栗をひろいました。すると、どこかで、
「ウォー、ウォー」
声がしました。やぎもうさぎも、ギョッと、しました。
「庭に、はいってきたのは、だれだ」
むこうからきたのは、ライオン王さまでした。
「おや、おや、やぎとうさぎだな。これ、逃げなくてもよいぞ」
ライオン王さまは、やぎとうさぎのそばにきました。
「さあ、やぎとうさぎ。どうして、この庭の栗をひろっているのか、わけを話しなさい」
そこで、やぎとうさぎは、ライオン王さまに、いままでのことを話しました。
「王さま、わたくしたちは、トラ大臣さまの、おいいつけで、栗を千、千個ひろって、この夕方までに、トラ大臣さまのところへ、持っていかなければなりません」
「なに、ひとりで千個か」
「はい。できないと、トラ大臣さまに、かみつかれるのでございます」
「なに、トラ大臣が、かみつくのか」
「はい、ところが、わたくしたちは、栗を千にするのには、まだ五つ、たりません。それで、このご殿の庭で、栗をひろっていたのでございます」
「ほう、トラ大臣は、その栗を、どうするのであろう」
「はい、王さま。トラ大臣さまのおっしゃるのには、これは、ライオン王さまの、おいいつけだと、いうのでございます」
これを聞いて、ライオン王さまは、おどろきました。
「なに、なに、わしが、栗をひろえと、いいつけたって。わしは、そんなことは、一度もいったことはない。さては、あのトラ大臣うそをいったな」
「メー、メー、メー。栗を千、ひろって持ってこいと、おいいつけになったのは、王さまではないのですか」
「うん、わしは、この庭に落ちている栗だけでたくさんだ。山の栗は、この王さまのものでもなければ、トラ大臣のものでもない。山の動物、みんなのものだ」
「ピョン、ピョン、ピョン。あのトラ大臣は、山の栗を、じぶんひとりのものにしようとしているのですね。ほんとに悪いトラ大臣だ。王さま、あのトラ大臣は、弱い者いじめをしてこまります」
「そうであったか。では、やぎとうさぎ。これから、わしが、トラ大臣の家へいって、しかってやろう」
ちょうどそのころ、トラ大臣は、家の庭に山のようにつまれた、栗をながめておりました。
「もう、日が暮れた。まだ、やぎとうさぎは、栗を持ってこないぞ。よし、あのやぎとうさぎがきたら、かみついてやるぞ」
そこへ、やってきたのは、やぎとうさぎでした。
「メー、メー、メー。トラ大臣さま、こんばんは」
「ピョン、ピョン、ピョン。トラ大臣さま、栗を持ってまいりました」
「こら、やぎとうさぎ、栗を持ってきてもだめだ。お前たちは、やくそくのときよりも、おくれてきたから、ゆるすことはできん。さあ、かみついてやるぞ」
トラ大臣は、大きな口をあけて、やぎとうさぎの方に、とびかかってきました。そのときです。
「こらっ、トラ大臣。らんぼうを、やめろ」
それは、ライオン王さまでした。トラ大臣は、びっくりしました。
「これは、王さま」
トラ大臣は、ライオン王さまの前で、ペコンと、頭をさげました。
「トラ大臣、うそをいって、動物たちを、苦しめているのは、けしからん。もう大臣をやめなさい」
とうとう、トラ大臣は、大臣をやめさせられました。
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