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北国街道を歩く 名立から黒姫まで
6時16分の「はくたか」で糸魚川へ。糸魚川駅で「えちごトキメキ鉄道」に乗り換えて8時11分に名立駅に到着。
名立の集落を過ぎて、北陸本線が海岸沿い通っていた頃の軌道跡地に作られた久比岐自転車道を歩き始める。北陸本線の糸魚川ー直江津間は昭和44年に複線化されるまでは、海岸沿いの線路を走っていた。その跡地が自転車道となっているのだ。鉄道軌道の跡地なので古いレンガづくりのトンネルや、レンガを積み上げた橋脚の跡が残っている。
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20分ほどあるいたところで、崖崩れの現場に行きあたる。土嚢を積み上げて応急処置をしてあるが通行止めなので、並行する国道8号に降りてしばらくあるく。
歩きながら海岸の岩場を眺めていると、岩のしたのほうが、ずっと白く変色している。干潮で水位がさがっているのか、それとも1月の能登半島地震で海岸が隆起したのか。干上がった部分が乾燥しているので、もしかしたら隆起したのかもしれない。
2時間ほどで直江津の街の入り口に到着。遊歩道はここで終点。ここから直江津海水浴場に沿って歩く。ここは地震の時に津波に洗われたようで、海の家の家財道具が海岸沿いの掘っ立て小屋に、乱雑に積み上げられている。それでも海岸沿いの駐車場には、長野ナンバーの車がとまって、バーベキューなどしている。
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直江津海水浴場をすぎて、海岸の砂丘をぐっとのぼると、「親鸞聖人上陸の地」の看板が。流罪となった親鸞聖人が、直江津のこの地に上陸したと説明がある。ここから10分ほどあるくと、国分寺。境内に江戸時代に建立された見事な3重の塔があった。
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ここから、高田まで旧北国街道の看板が、そこかしこにあるので道に迷う心配はない。5月というのに気温がぐんぐんあがり汗ばんできた。直江津に着いたのが11時30分で、グーグルによれば高田には歩いて2時間で着くとある。高田についてから、ゆっくり昼飯にしようと歩き続ける。
途中上杉謙信ゆかりの春日山城跡があったが、見学する気力もなく先を急ぐ。高田の街に近づくと、雁木の通りが始まる。冬の積雪時に歩道を確保するために、それぞれの家が、軒の下を歩けるように1メートル弱くらいセットバックしているのだ。個人が敷地をアーケードとして提供しているようなものだ。
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昔は人通りもあって賑わっていたんだろうと思わせる建物が続くが、ほとんどが、しもた屋になっている。ときどき、酒屋や醤油屋さんが今もお商売をしている。1キロ以上雁木の下を歩いていたら、いきなり高田駅ちかくのメインストリートに到着した。
4月に桜見物に来たときに立ち寄った、クラフトビールのお店で昼飯にしようと思ったが土曜日は夕方からの営業。しょうがないので、先を進む。花見の時には賑わっていた、高田のメインストリートも今日はひっそりとしている。1時半を回ってしまったので、昼営業している飲食店も限られる。途中で蕎麦やに入ろうかと思ったが、がっつり食べたい気もしたので、他に何かないかと先を急ぐ。
ようやくカレー屋さんを見つけて入る。2時を過ぎているからか、誰もお客さんがいなくて、ご主人がテレビを見ていた。地元の学生さんに親しまれているお店らしく、学生さん作成の張り紙がお店のそこかしこに掲示してある。「オリエンタルカレー」という名の卵焼きがのったチキンカレーを注文した。卵焼きは、ぷるぷるでオムレツか茶碗蒸しのようだった。カレーはなつかしい味。昔の喫茶店で出てきそうな懐かしい味。
雁木は高田のメインストリートが過ぎてもしばらく続く。昔ながらのウナギの寝床のような町割りで、新しく若い人が入居することはなさそうだ。これだけの街の資産があっても、郊外に新築で家をたてて住むことになるんだろう。高田まで歩いてくる道すがらに、田んぼの中を無節操に開発した住宅地が延々と続いていた。土地利用をきっちりと制限しないと、いつまでも世代が変わるごとに、あたらしく郊外に住宅地を開発して住み替えることになる。
高田で宿泊しても良かったのだが、翌日に黒姫まであることを考えて、ひとふんばりして新井駅まで歩く。高田から新井まではさらに2時間あまり。そろそろ足が痛くなってきた。このまま上越妙高駅の周辺にあるビジネスホテルにチェックインしたい誘惑を振り切って、先を進む。15時を過ぎても暑い。
高田のまちあたりから「神の国は近い」などと黒いブリキの板に黄色い文字で書いた看板がやたらと目につく。だれがこの看板を書いているんだろう。
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道ばたの消火栓がやたらに背が高い。普通の消火栓を3段重ねにしたような消火栓だ。こんな高さまで雪が積もるのか。
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新井駅にはまだ着かないかと、5分おきにスマホで地図を確認する。気がつくと妙高の山並みが随分近づいてきた。ダイセルの工場の横を通って、17時にようやく新井駅に到着した。
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新井駅から上越妙高駅まで電車で引き返して、今晩駅前の東横インに泊まるのだ。チェックインして着替えてから、晩飯を食べに駅前をうろうろする。大戸屋とコメダ珈琲があった。広場にコンテナ型の屋台村があったので様子をみる。よさげな居酒屋もあったが、入り口に今日は予約で満員との張り紙が、その向かいの中華料理屋さんに入った。
「チャイナエキスプレス Ryo」と言うお店。なんだかアメリカのショッピングモールにあるファストフードの中華みたいだと思ったが、このお店なかなかいい。干し豆腐とキュウリの和え物、真菰筍と木耳の炒め物、四川風ピリ辛ソーセージ、焼き豚入り炒飯を食べたのだが、どれもおいしい。真菰筍は台湾から輸入しているそうだ。癖がなく柔らかくておいしい。サービス出だしてくれた、ザーサイもいい。日本で栽培している生のザーサイをお店で味付けしているとのことで、シャキッとした歯ごたえと山椒をきかせた味付けがよかった。紹興酒は常温でとお願いしたけれど、もしよかったらと、紹興酒をいれた急須をお湯を張った入れ物に浮かしたような独特の酒器でだしてくれた。ほんのりとあたたかい紹興酒もいい。カウンター5席だけの小さいお店だけどあなどれない。
ホテルの横にスーパー銭湯のような施設もあったが、中をのぞくと、ものすごく混雑していたので部屋に入って湯船に湯をはってゆっくりと足を揉みながら体をあたためる。部屋飲みようのビールも買ったけれど、飲む余裕もなくテレビを見ながら寝落ちしてしまった。
次の日は、5時21分の始発の電車で新井駅に移動して続きを歩き始めた。歩き始めは体のあちこちが痛い。ガタピシいっているので、ゆっくりゆっくりと歩きはじめる。妙高の山並みが朝日に照らされてはっきりと見える。昨日見たときは西日の逆行だったので、山肌の様子はよくわからなかったが、今日は雪形がはっきりと見える。赤らんだ山肌を写真に撮ろうとするが、スマホのカメラでは見た目のような迫力にはならない。それでも、見晴らしのいいところで山の写真をとりながら歩く。
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30分ほどで新井の街をぬける。この辺から登り坂が続く。今日は野尻湖までひたすら登り坂だ。登山道をあるくわけでもないので、たいした負担ではないだろうと高をくくっていたが、結構きつい。歩いても歩いても登り坂。旧道なので、時々息が切れるくらい急な坂道もある。登り坂きついなと思っていたら、新井から2時間ほどで、二本木駅に到着。ここはセットバックのある駅。それだけ登りがきついのだ。
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このあたりから、猛烈に腹が減り始める。朝ホテルでピーナツバターをはさんだコッペパンをひとつ食べたのだが、これだけでは足りなかったようで腹がへる。途中のコンビニで何か買おうと思うが、旧道沿いにはコンビニがない。昨日の夜にきまぐれで買った、ハードグミをわしわしとかじって空腹をごまかしながら歩く。
ほうほうの体でセブンイレブン妙高高原店にたどり着いたら、駐車場は満杯で店内もレジ待ちの行列ができている。塩むすびと赤飯と、鮭のおにぎりとポカリスエット、大福をつかんで、レジに並ぶがなかなか進まない。レジでまちながらおにぎり食べてしまおうかと思ったが、日本でそれやると捕まるので我慢。なんとか精算して、店内の飲食スペースに座り込んで、立て続けにおにぎりを三つ食べて一息ついた。やはり今日は登り坂の行程でエネルギーを消耗したようだ。30分ほど座り込んで再び歩き出す。
北国街道があったところに、国道18号が重なり、国道18号のバイパスが別に建設される。国道18号の旧道はほぼ北国街道に重なるのだが、バイパスはトンネルや橋をでルートが大幅に変わっている。国道の旧道は今は通るくるまも少なくひっそりとしている。関川の関所のあたりは、旧道は地形のままに一旦谷底に降りる。谷底あたりが関川の関所。そこからつづら折れに登っていく。一方バイパスのほうは橋で谷をひとっ飛び。
旧道のつづら折れの道は頑丈なコンクリートのガード、万全のスノーシェードで守られているが、今となっては30分あるいても1,2台しか車はとおらない。そんな場所は走り屋が来るようで、コンクリート壁に走り屋さんの年月日入りの事故写真が誇らしげに掲示してある。
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暑さにひぃひぃいいながら、スノーシェードのつづら折りの登り坂を歩いてようやくバイパスと合流。残念なことに歩道がない。後ろから来るトラックに跳ね飛ばされないかとビクビクしながら路側帯の片隅を小さくなって歩く。12時過ぎにようやく野尻湖に到着。
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せっかくなので、遠回りになるけれど湖畔まで歩いてみる。連休だからなのか湖畔の駐車場に入ろうとする車が列をなす。湖ではモーターボートやジェットスキーーが爆音をあげて走り回る。湖畔ではパン屋さんに長蛇の列。キャンプ場や別荘地が続く。
別荘地には空き家が目立つ。せっかく別荘地を買っても維持管理が面倒だろうなと思う。通年で管理人でも雇えるものなら別荘も楽しいだろうが、年に一回いくのだと、自分で掃除したりメンテナンスするだけで大変だ。そんなお金があるならリゾートホテルに泊まった方が楽しいんじゃないか。などと、別荘もリゾートホテルの会員権も買えない貧乏人が妄想する。
湖畔から黒姫駅までが遠かった。黒姫駅には13時30分に到着。ここから上越妙高駅までもどって、昨日晩御飯を食べたチャイナエクスプレスRyuで、唐揚げにビールでも飲んでから新幹線で帰ろうと思っていたのだが、新潟方面いきは1時間後までない。しかも妙高駅から直江津行きへの接続にさらに1時間かかることが判明しあきらめた。予定を変更して長野駅まで出て、そこから新幹線で金沢に戻ることにした。
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黒姫駅から長野駅までは40分ほど。14時30分には長野駅に到着した。ビールを飲みたくて、駅周辺で昼のみできる店をさがす。駅ビルにある蕎麦や、草笛で天ざるでビールと思ったが、店まで行くと長蛇の列。しかも、従業委員が足らないので料理の提供まで時間がかかると言い訳まで書いてある。
諦めて駅前ロータリーの脇にある、ゴールデン酒場という店に駆け込む。マルエフの大瓶と煮込みを注文。煮込みはボリュームがあってタマゴもついて食べ応えあり。ビールを一気にのむ。歩いてたっぷりと汗をかいて身にビールがしみこむ。ひといきついて落ち着いたところで、長野の地酒と野沢菜漬けを注文。
今回は2日間で約60キロ歩いた。2日目の歩き始めはかなり、足腰にガタがきていたが、歩いているうちにきにならなくなった。こんな旅を10日も続ければ、体も歩く旅になれてくるんだろう。ほとんだ誰とも話すことなく過ごしたが楽しい。体もすっきりして気分も晴れた。