可愛いままで消え去る
最近は捨て犬とか捨て猫の動画ばかりを見ている。
そうすると、YouTubeもTikTokも子犬や子猫関連の動画ばかりがオススメに上がってくるのが現代だ。
なぜ子犬や子猫の動画ばかりを見てるのかと言うと、一言で言うなら「可愛いが過ぎる」からだ。
人間ならドジっ子や上目遣いの仕草などはいわゆる「あざとい」と言われて批判的な言葉を受けたりするのだが、子犬や子猫は自然とそんな行動ばかりをしてくる。そして、それがたまらなく可愛くて、子犬や子猫の動画ばかりを見てしまっている自分がいる。
人間の赤ちゃんもそうだが、なぜ動物の赤ちゃんの外見が可愛いのかというと前にも書いた事があるが、これを「ベビースキーマ」と言うらしい。
この「赤ちゃん図式」とも呼ばれるベビースキーマを示したのは有名な動物行動学者のローレンツという人だ。
ベビースキーマの特徴として、
●丸い
●頭が大きい
●オデコが広い
●目が顔半分より下にある
このような特徴が赤ちゃんの見た目と一致しており、決して一人では生きていけない赤ちゃんは周りの大人に自分を「可愛い!」と思わせ、そして「育てたい!」「守りたい!」と思う母性本能を引き出すのだ。
なんということだ。
赤ちゃんは生まれながらに天才的におねだり上手なのだ。
あの人もこの人も、全ての人が生まれた時はキュートで可愛い。だから、大人になれてる。
これがもしもだな、生まれた時から目つきが悪く、母親が母乳を与えた時に母乳をワインのごとくテイスティングして「ビタミンとミネラルが足らんな…」なんて顔されて母乳を吐き出されたりしてごらんよ、この子に愛情を持って育てる事が出来るかって話だ。
今は地下鉄のエスカレーターで女子高生のスカートの中身を姑息に盗撮してる中年も、人に悪態をつきまくり周りに誰もいなくなって寂しい最後を迎えるだけの老人も、みんなみんな可愛くて愛されてた時期があったのだ。
全員もれなく可愛い時があったからこそ、今の命がある。
ならば、大人になってもずっと可愛い存在でいればいいじゃないか。
単純おバカな俺はそう思うのだが、時の流れがそれを許してくれない。
もちろん、大人になっても可愛い姿の人はたくさんいる。しかし、それは大人ならではの可愛さであって赤ちゃんの時の可愛さとは別物だ。それに大人の可愛さにも限界があり、時間の経過と共に必ず容姿は劣化する。
赤ちゃんの可愛さに理由があるならば、大人になるにつれ容姿が可愛くなくなるのにも理由があるのではないのか?
いつまでも可愛くて周りから大事にされたら、生き物としては良い事ではないのかも?若くて新鮮な子孫を残したら黙って消え去るのが生き物の本当の姿なのかも知れないな……
俺は自分の生きた証を残したくて文章を書き始めたが、その目的はもう達成されたと言っていい。俺の文章を読んでくれて俺の文章で救われたという人もいてくれるからだ。たった一人でも俺の心の中を見てくれる人がいてくれるだけで俺の目的はすでに達成されてる。
もちろん本音はお金が毎月50万ぐらい懐に入り、「ジョージたん好き!」「ジョージさんを一生推します!!」などという可愛いガチ恋勢が20人ぐらい出来たらなぁ〜などという、本当にさささやかな願望はあったのだが、この願いが叶わないのは十分に分かったから、今は本当にただただ引き際を探してる段階だ。
そして、現実世界での命の引き際も日々容赦なく迫って来ている。
現代の高齢化社会において、介護の問題は大問題だ。赤ちゃんの世話を喜んでする人は多いだろうが、老人になった俺の世話を一体誰が喜んでしてくれるのか?
今から俺が赤ちゃんのような可愛い外見に戻れるならば、将来のために精一杯の上目遣いをして、計算づくのドジっ子動作であざとさの限りを尽くして周りに好かれるように甘えるのだが、残念ながら時は戻せない。
後、何十年後かに訪れる、俺が人に介護される時が来た時に少しでも「介護してあげたい!」と思われる人間に俺はなれるのだろうか?
もし若いフィリピン女性の介護士が俺の担当になったとしたら、俺は年甲斐もなく恋をしてしまう可能性が高い。そして恋をしてしまった相手に俺はお股おっ広げてオムツを替えてもらう事が出来るのか?いやだ、いやだ!こんなドキドキのご褒美プレイ……いや、恥ずかしい思いはしたくない!それ以前にヨボヨボのジジイになってまで叶わぬ恋をしたくない。
それに俺の事だから、女性介護士が緊急連絡用にと仕方なく教えてくれた仕事用のLINEにも熱い恋心を込めた文章を送ってしまいそうだ。
「やぁ、ビアンカこんちには!今日は天気が良くて青く澄み切った青空、すなわちスカイブルーの空を見ながらこの文章を書いてます。君が僕の担当になった時に君を見て驚いた。僕の心臓がドキドキしたんだ。最初は持病の心不全が起こったのかと思って覚悟をしたが違っていた。まさかの恋!これは恋なのかも知れないと気付いたんだ。僕にはもう残された時間は少ない。だから、正々堂々と真正面からビアンカに思いをぶつける!君の国では日給は1120円らしいね、すなわち437ペソ。今の僕なら800ペソは出せる!どうだい?この金額で僕の専属訪問介護士になってみないかい?」
いやだ、いやだ!この期に及んでまで、まだお金で人の心をなんとかしようとしてる。こんな老人には絶対になりたくない。
赤ちゃんのように問答無用で愛されなくていい。
外見が可愛くなくてもいい。
せめて少しでも、心は可愛く、少しでも人に愛されて旅立ちたい。
最後の心は可愛いままで消え去りたい。