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せめて優しく

先週はまた我が故郷に雪が降り積もった。

もし、雪に命があったとしたら、一旦何のために地上に降り積もるのだろう?

一週間も経たずにすぐに融けてしまう雪を見てると、人間の寿命を一気に見てるように感じた。 せっかく天から生まれ落ちて地上に降り積もったのに、すぐに融けて消え去ってしまう雪の短い命に虚しさまで感じる。

人間の命も意味があるように見えて、本当は何も意味がないのかも知れない。

雪を見てるだけで、こんな風に感じてしまうのは、父親が入院して手術までした事で、俺は否が応でも「死」について身近に考えるようになったからだ。

今は父親がまだ入院してる事もあり、病院の様子を観察する事が多くなってしまっているのだが、病院の待合室にいるのは本当に高齢者ばかりだ。

もちろん、生き物として老化現象には逆らえないわけだから、どうしても高齢者ばかりが病院に行ってるのは理解出来るのだが「人生を頑張った末に待ってるのがこの状態なのか?」と俺は密かに愕然としている。

人生を頑張ったご褒美として最後に何かないのか?

俺は単純にこう思ってしまう。

しかし現実は病院の待合室で椅子にやっと座ってる弱り切った人や、車椅子に乗らないとまともに歩けない人も多数いるし、人生の最後の最後まで本当に体が辛そうな人ばかりがいるのが病院の今の現状だと思う。

この現状を見て、俺は何度でも思う。


人間は、一体何のために人生を生きているのか?


父親も今まで本当に一生懸命に生きて来たよ。

その結末が両腕の痛みと麻痺の悪化であり、さらには立ち上がる事も出来なくなり、トイレにさえ自分で行けなくなるという屈辱的な状態だった。

これは父親自らが言っていたが、

「トイレまで人の世話になるようになったら、本当に終わりや……」

多分父親が急に手術をする事を決断したのは、自分でトイレに行けなくなったからだと思う。

父親は、この人間としての屈辱的な現実に耐えられなくなったのだろうな。

しかし世の男性の中には「赤ちゃんプレー」という、お金を払ってでも女性に赤ちゃんみたいにお世話をしてもらう事が目的の摩訶不思議なプレーが好きな人もいるみたいで、東京の渋谷や五反田に行けば「母乳プレー」なるものまであるらしい。

勘違いしてほしくないのだが、これは決して俺の性癖だから詳しいのでは断じてない!

死に関する荘厳なテーマを書くために、しょうがなく調べてみたら仕方なく出て来た情報でしかないのだ!

とにかく、プライドが高く自分の力だけで人生を生き抜いて来た人にとって、トイレの世話までも人にしてもらうのは、かなりの屈辱なのは想像に難くない。

考えてみると、赤ちゃんとして生まれた時は周りの人にオムツを替えてもらうのはしょうがないとしても、人生の最後になってまでも、また下の世話まで人にしてもらうなんて、なんとも切ないものだ人間とは……

自分の視点から考えれば、もちろん「死」という儀式を避けれるのに越したことはないが、詳しく調べてみると生物が繁栄していく為には「死」は絶対に必要な儀式とも言える。

例えば魚のサケは産卵と共に死に、その亡骸は他の生き物の餌となり、結局は巡り巡ってサケの稚魚の餌にも繋がる。さらに残酷な例として、イスラエルの砂漠に生息しているクモの一種のムレイワガネグモのメスは自分の内蔵を餌として子供に与える。まずは自分の腸が液体化して、それを餌として自分の子供に与えるのだが、 自分の内蔵全てを子供に与え終わると、今度は自分の体自体を餌として子供に喰わせるのだ。

まさに自らの「死」こそが「 生」に繋がっている。

しかしこれは、人間のような高度な知能がない事の証明でもあると思う。利己的な人間ならばここまで子供に自らの命を捧げないだろう。ムレイワガネグモは知能が低いからこそ、本能でこのような献身をしてるだけだと思われる。

しかし人間は悲しいかな、 知能が高いだけに子供をあっさりと切り捨てる親も多数いる。なんなら自分が犠牲になるのは嫌がり、子供の稼ぎさえもあてにしている親も世の中には多数いるだろう。

そんな利己的な人間が、もし、いつまでも死なずに生き続けたとしたらどうなるか?

まずは人口が増えるばかりになるから世界中で食糧危機が起こるはずだ。しかしその食糧危機を技術革新で乗り越えたとしても、今度は増え過ぎた人間の住む土地が無くなり、やがて世界中で領土を奪い合う激しい戦争が起こる事は避けられないと思う。

そして結局は人間の数を減らす事を人類は選択する羽目になるだろう。

こう考えると、やはり「死」とは絶対に避けられない、生き物として絶対に必要なものだと理解出来る。


まさに「死」こそが新たな「生」に繋がる儀式なのだ。


だからこそ人生の最後の時こそ穏やかに死にたいし、 大事な人には最期ぐらいは安らかに旅立ってほしいと思う。

しかし現実は最後の時だけじゃなく、年老いた者への世間の風当たりも辛く辛辣なものも多い。

高齢者の交通事故がニュースになると、ネット上では「老害め!」「老害が車なんかに乗るな!」などという言葉で溢れかえる。

正直に書くと俺も思うよ、頭がボケる前に早く自ら運転免許証を返納して車なんかに乗るなよ!と。

しかし田舎では車は必須なのだ。我が家などは大きな病院まで車で40分ほどの時間がかかる。だから免許証の返納は田舎では命に関わるとも言えるのだ。


誰だって年を取る。

 
今、不本意ながらも「老害」と呼ばれている人達も、今まで一生懸命に若い命を育てる為に頑張って来たんだ。


誰だっていつか必ず老いるのだ。


だから、せめてもの敬意と優しさを表面上だけでもいいから年老いた人たちに表してあげてほしい。


ここで久しぶりに壮大に俺の妄想を書いてみようか。

俺がもし一代で大きな会社を興した経営者だったとしたら……


俺はジョージ……カレー業界の甘えん坊ことビタミン・ジョージだ。

俺はこの会社の社長であり、創業者だ。

俺の開発した「ジョージの真心カレー」からブームに火が付き、さらには回転寿司からシステムをパクった……いやインスパイアした回転式トッピングカレーチェーン店「ココカラドコイク」も世界展開して大成功。

今や2025年10月期の会社の売り上げ予想は2000億円を超える予定だ。

思い起こせば、この会社がまだ一店舗目の小さな店だった時に、一人の若者が面接にやって来た。


その若者の名前は「野望アルゾウ」と言った。


アルゾウは昔はヤンチャをしてたみたいで、家の近所の不法滞在のスロバキア人熟女の下着を盗んで現行犯逮捕となったり、他にもドンキホーテでのガリガリ君の万引きの常習犯でもあり、この結果、鑑別所のお世話にもなってたらしい。

もちろん正直なのは良いことなのだが、会社の面接で自分の過去の犯罪を自信満々に言うなんて、一瞬「アホなのか?」とも思ったが、なんだか俺はアルゾウの事が気に入ってしまった。

そんな俺も昔はかなりの悪だったからね。

死んだ祖母にタモリさんが亡くなったと嘘を付いて、祖母は「死んだのになんで「笑っていいとも」に出てるんや?」と 、祖母は何回も俺に聞いて来たのだが、俺はその時に嘘を撤回するチャンスが何度もあったにも係わらず「それはね、死ぬ前に録画してた映像を流しているんだよ」と、さらに嘘の上に嘘を重ねた。結局は祖母はその嘘を信じたままあの世に旅立った。

これは人を欺いて財物を交付させる詐欺罪にあたると言える。俺は祖母を騙した上に毎週のようにポテトチップスを買ってもらっていたからね。

詐欺罪は刑法第246条であり、法定刑は10年以下の懲役だ。

さらには高校生の時にゲーム雑誌のファミ通を買う為に 、母親がタンスの中に仕舞い込んでいた小銭入れから俺は小銭を抜いていた。これはまさに現代の怪盗ルパンとも言える重罪だ。

こんな風に悪の限りを尽くした俺が、若者が過去に過ちを犯したりからといって、その若い才能を潰すわけにはいかない!

そう思った俺はアルゾウを我が社に採用したのだ。

アルゾウは多少気が荒いところもあったが、仕事は本当に真面目で俺はいつしかアルゾウの事を弟のように思い、アルゾウを心から信頼して重要な仕事も任せるようになっていった。

アルゾウの両親は早くに離婚していた。母親がデンマークからの交換留学生と不倫したからだとアルゾウからは聞いていた。両親が離婚した後にアルゾウは母親に引き取られたが、母親は自宅近所のスーパーでアルバイトをしていたガーナ人の留学生と恋に落ち、その結果、母親はアルゾウを捨ててガーナに行ってしまったようだ。

そのアルゾウが婚約者を俺の元に連れて来た。12才年上アルメニア人女性だった。俺はアルゾウの婚姻届の証人にもなった。どうやらアルゾウの外国人好きの性癖は自分を捨てた母親への復讐心もあるのではないだろうか?

俺はまだ貯金の少ないアルゾウの為に結婚資金を出してやり、さらに新居への引っ越し費用も負担した。アルゾウにここまでするのは、弟のいなかった俺がいつしかアルゾウの事を本当の弟のように思ってたからだ。その俺の思いに応えるように、アルゾウも必死に働いて俺と共にこの会社を大きくしてくれた功労者だった。

アルゾウは俺の事を兄のように慕ってくれて、そして父親のように大事にもしてくれた。


俺はそんなアルゾウの事を家族のように信頼してたんだ。


でもしかし、アルゾウが我が社に入社して30年目の今日……


アルゾウが中心となって取締役会が召集された。


議題は俺の社長解任だ。


もう既に、アルゾウによって取締役の過半数以上は俺の解任に賛成のようだ。


俺が作った会社だぞ?


確かに俺はグラビアモデルのビビアンちゃんとの叙々苑での食事代や一緒に行った高級スパの料金を会社の経費として落としていた。


しかしそれの何が悪い?


俺が一から「ジョージの真心カレー」考え、さらには回転式トッピングのシステムを回転寿司からパクって……いや、インスパイアして企画立案して作った会社だ!俺がいなけりゃ株式上場する事なんて出来なかったし、俺こそがこの会社の親であり、俺自身でもあるんだ!

確かに俺はビビアンちゃんの為に港区の高級マンション「シティータワー麻生十番」の1LDKの部屋を買ってあげたよ?車も欲しいって言うから、マセラティのクアトロポルテも会社の経費で買ってあげた。


俺が作り上げた会社だ!


それの何が悪いんだ?!


俺のこの見苦しい弁明を聞き、アリゾウは静かに口を開きこう言った。

「ジョージ社長……いや、ジョージさん。あなたの行為は背任罪であり、刑法上の犯罪にあたります。刑罰は5年以下の懲役または50万以下の罰金になる犯罪行為です。それにいいですか?もちろん、ジョージさんがこの会社の創業者であり、あなたがいなければ、この会社は生まれていないし、存続も出来ていません。しかし、この会社が株式会社である以上、この会社はジョージさんのものではありません。この会社は株主のものです。」

「それにジョージさんが年甲斐も無く入れ込んでたグラビアモデルのビビアンさんはヤンマガの表紙になった途端に、アイドル俳優の桜餅ケンタロウとの半同棲を週刊誌にスクープされてましたよね?時期的に考えて、会社のお金を三億円以上もビビアンさんに使った挙げ句、ジョージさんは二股されて捨てられたのですよ?売り上げ2000億の社長たる者が本当に情けない……」

「僕が憧れ、追いかけたジョージさんはもういない。ハッキリ言いましょう。あなたは俗に言う「老害」です。この会社の邪魔でしかない。背任罪の公訴時効は5年です。どうしますか?武士の情けです。今すぐ自ら退職金を放棄し社長を辞任してこのまま会社を立ち去るか、それとも取締役会で社長を解任された上で、刑事告訴されるか、どちらかを選んで下さい。」


「あんたの時代は、もうとっくの昔に終わってるんだよ!」


そりゃないよ……アルゾウよ……アルちゃんよ……アルたん……アールン?

俺がお前を会社に採用したんだよ?俺がいなけりゃお前はここにいない!それなのに、それなのに、なんで俺を追い出すのさ………


俺はね、前々から交通事故を起こす老人や定年を迎えた後に他の会社に天下りをするような老人を若者の未来を奪う「老害」でしかないと思っていた。

しかし、そんな人達にも若者の時代があったのだ。愛する人や周りの人、その先に日本の未来を築く為に頑張ってた時代があった。

しかし、どうしても……どうしても「老い」には誰も逆らえない。


いつか必ず、誰だって年老いて朽ち果てていくのだ。


いくら、今の地位や利権に無様に醜くくしがみ付いてる老人と言えども心では分かっているから……


もう自分たちの時代がとっくに終わっているのを。


未来ある若者が歴史を作り上げた先人に表面上だけでも敬意と愛情を持って 、


最期は優しく見送ってあげてほしい。

 
その年老いて無様な姿こそが、いつか来る未来の自分の姿だと思って、


せめて最期は、優しく葬ってほしい。

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