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つら、ヅラと。

 瑠璃色の建物って、初めて見たわ。光ってるし。
こんな裏路地の住宅街に、こんな店があるなんて、
知らなかった。あれ?何で鞄なんか持ってるのかしら?こんなの右手に持ってたから、だから手が痺れてるのね。ん?左手に握ってるパンフレットは何?
「貴方にも再び青春時代を!!」態とらしい笑顔の男性がビフォーアフターの姿を晒してる。

 カツラね、男性用カツラ、ハゲでもいいんじゃないの。ハゲじゃ、ダメなんですか?
あれ?という事はわたしは、カツラの営業マンで販売員でもあるって事か…一着20万円のスーツから一個50円のキウイフルーツまで売った経験はあるけれど、頭の上に乗せるものは、、、

 いや、この際なんだって売ってやる。与えられた商品の情報と特化を見極めてトークするのは得意だから。
瑠璃色の建物には、年増の女性オーナーが居て「アンタの机はそこね」と部屋の隅っこにある場所を指した。間借りで貸してる事務所って訳ね。アレ?向かい側にはイケメン!あ、こっちに来る、笑顔で。じゃあ此方も営業スマイル満載でね。握手して話していたら男性の後頭部が気になってしまい、何を話したのか、気もそぞろで、、、
だって、彼、イケメンなのに、後頭部ハゲだったから。まだフルじゃない部分カツラでいけそうなのに、何故?装着していないのか?それが気になって仕方なかっただけ。人間って足りないものに自動で補正をするんですって、脳の不思議ね。この彼、外見が良いだけじゃなくて、優しい人だったから、尚更、惜しい、髪の毛が全てじゃないけど、貴方の場合は被った方が価値が暴落しないのに、と判断したから、、、

よーし!今日のターゲットは決まり!!

 早速、営業マンとして話しかける。
今回は、話しながら、笑顔で時々頭のてっぺんに視線を送る、を絶妙なタイミングで行うようにした。
「さっきから、僕の頭の上を見てるけど、何か付いてます?あ、ゴミ付いてるとか?」イケメンが爽やかに笑い尋ねて来る。ピンチどころかチャンス。「あの、三面鏡ってお持ちですか?髪のスタイリングにあると便利なんですよ。左右、後ろ、斜め、確認出来るんで」わたしは鞄から三面鏡を出した。(こんなのが入ってるから重かったワケだ)
すかさず卓上に広げて、イケメンに向ける。お、身長高いから、もっと高い場所からじゃないとダメ。合わせて、さっき掻い摘んだ情報を披露。ダダン。
イケメンの顔がみるみる陰る。(本当に知らなかったんだ、ショックを受けてる?)
「僕は、僕は、自分で自分を褒めてあげたい」という言葉を残してトイレに消えた。気づいたら、ついでに鞄内のカツラも共に。
謎だ…。
年増のオーナーが、瑠璃色の湯呑みに入った抹茶を出してくれた。「ワタシも、ずーっとあの子の後頭部が気になっていたのよ」良くスパッと率直に伝えてくれたわ。おつかれさん、と握手された。

 本当を伝えるべきか、伝えぬべきか、わたしは初めてそんな戸惑いを抱えた。

 真実はひとつだろうか?人の数だけ実は真実も増えるんじゃないだろうか?

…じゃダメなんですか?
…でもいいじゃないですか?

 あの議員が答弁したような言葉だなあって、瑠璃色の室内に風が吹いた。給湯室にオボンを持って下がる年増の後ろ姿を見たら、風で煽られたヅラがヒラヒラ揺れていた。「ああ、そういうことか…」

 目覚めたら昼のような気がしたんだけど違ったんだよね。


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