羊羹とは羊肉のスープ
先日テレビを見ていると、ある商品をメーカーの開発担当者が番組内でプレゼンをし、試食係としてその業界の第一人者たちが合格不合格を付けていくという番組をやっていました。
わたしが見た回はコンビニのスイーツ担当者がプレゼンをし、パティシェの方々が審査員として参加をされていました。
まずコンビニのスイーツ開発担当者が作ったお菓子を有名パティシエや有名料理人がジャッジをする意味がわたしにはわかりませんでした。
確かに昔と比べ格段に進歩したコンビニスイーツですが、同じスイーツとはいえコンビニとパティシェが作るスイーツでは客層も単価も消費期限も作る数量も何もかも違うため求められるものや技術が違うと考えるからです。しかしジャッジされるコンビニ側もテレビで商品が紹介され話題となれば良い広告になるんだろうから出演するんだろうし、そもそもテレビ番組とはこのようなものかと見ておりました。
いくつか紹介されるスイーツの中で、フィナンシェを出された担当者がいました。
その前に三品紹介されて三品連続で審査員から全員合格をもらっておりコンビニ側はとても盛り上がっておりました。
その四品目ということでプレッシャーの中、フィナンシェを出されたのですがそのフィナンシェがこちら。
見てわかるようにドーナツ型なんですね。
わたし自身テレビを見ていてツッコミを入れました。
これフィナンシェじゃないじゃん。
次の瞬間、テレビの中でも同じ言葉が出てきました。
これ、フィナンシェとして審査するの?
そうです、これはフィナンシェの定義から大きく外れた見た目をしているのです。
フィナンシェはフランスでとても歴史があるお菓子で、もちろんフランス語なんですが、英語に訳すと「ファイナンス」、つまり金融や金融業といった意味で、このような名前になった由来はフランスの菓子職人たちが金融業で働く方々に手軽に食べてもらえるお菓子を作りたいと考案したのが始まりとされ、金融業の方々にとって縁起が良い金の延べ棒をイメージし、また食べる際もポロポロとこぼれてスーツが汚れないようにと片手で手軽に食べられるようにと心遣いがされています。
19世紀のパリで考案されたフィナンシェは金融家だけでなくフランス全土で大流行し、100年以上たった現在でも老若男女に愛されているお菓子です。
形だけではなくその作り方も定義があり、焦がしバターとアーモンドパウダーを使って香ばしい風味が特徴とされています。
またフィナンシェは表面が固めでパター感が強く出るのが特徴なのに比べ、この商品はフワフワしている印象でした。
その上で、今回の商品を見てみると、焦がしバターを使わずマーガリンを使用していると言っておられ、形も金の延べ棒ではなくドーナツ型。なのに名前はフィナンシェという謎。
審査員の方も、これはドーナツじゃないの?フィナンシェの名前でいいんですか?と助け舟とも取れるコメントをされていました。
結果は不合格、ある審査員の方は
フィナンシェを冒涜している
という厳しいコメントまでされていました。
この番組を初めて見たのですが、審査員が合格・不合格という2択になっているのが少し違和感を感じました。
審査員であるパティシェからしたらフィナンシェには明確な定義があり、そこから外れたものをフィナンシェと呼べないから不合格としたのは理解ができます。
いっそのこと合格・不合格ではなく、出来良し・改善の余地ありとかに変更すれば、今回もまた違った結果になっていたのかもしれません。
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それを見ていた感じたのは、今回は確かにフィナンシェの定義から外れたものでしたが、歴史を振り返ってみると本来のネーミングとは元の原型を留めていない食品がたくさんあることに気が付きます。
代表的なものとしては羊羹と饅頭です
羊羹はなぜお菓子なのに羊の文字が使われているのでしょうか。
羊羹とは文字通り羊の羹(あつもの)、つまり羊肉のスープを意味する名前で、鎌倉・室町時代に中国に行っていた僧侶らによってもたらされたとされています。
中国で学んだ僧侶たちは肉食を禁じられていたので持ち帰った羊羹の製法を変え、羊や豚など動物性の材料を使った羊羹(羊肉のスープ)から植物性の材料を用いた精進料理に置き換えて日本に定着させたと言われています。
当初は植物性の材料を用いるとはいえ汁物として提供されていたと考えられますが、16世紀初頭には汁と具を別々にしたものが供されるようになっており、さらに16世紀半ばには料理以外に茶の湯の菓子としても認識されるようになりました。
いかがでしょうか。
はるか昔とはいえ、日本に入ってきた当初の形とこれほどまでに違う菓子も存在しています。ここでは省略しましたが饅頭の原型もとても現在のものとは違っています。
確かに定義が決まっているものを違うとして不合格にすることは決して間違っていませんが、過去から現代に渡って日本人は美味しいものを求めて試行錯誤してきた歴史があります。
今回のコンビニスイーツもフィナンシェというネーミングを避けていれば・・と考えなくもありませんが、美味しいものを作りたいという開発陣の方の思いは伝わってきましたのでわたしも一度食べてみたいと思います。