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初めて銀テを掴んだ日の話

銀テ:銀テープの略。コンサートやライブの終盤に演出で大量に客席に撒かれる。概ねメッセージやアーティストロゴが入っており参加客が記念に持ち帰ることが多い。金だったり銀だったり、色は様々。

私のささやかな夢の一つに「銀テを持って帰ること」がある。ライブ終盤に客席に向かってパァンと放たれる銀テは、いつも夢のような時間の終わりを華やかに彩る。その景色の一部を持ち帰れたら最高の思い出になるんじゃなかろうか?
……考えるだけだ。

実際のところ銀テが放たれる瞬間を私はいつも上から見ている。アリーナじゃない、段差のついた席から綺麗だ…と思って見ている。
銀テを受け取るには真下にいないと受け取れないのは当たり前だ。まあもちろん行くコンサートによっては、後で会場の人同士で分け合うこともあるんだけど。私が行くような場所にはその文化はないし、あってもなんだか気後れして受け取れなかった。

「受け取れなかった」はだんだんと「受け取らなかった」に変わった。なんだか受け取った人からもらうのが悔しくなった。受け取った人の「受け取る権利」にタダ乗りしているような気もした。
もうこうなったらいつか自分で、この手で掴み取ってやる。そう思っていた。


先日、あるVtuberのライブがあった。
この子を追いかけ始めてから随分と久しいが、とうとう音楽ライブをやるのだという。開催日は平日だったが会社にはスルッと有給を通して私は会場に足を運んだ。
この時点で音楽ライブというものは一旦頭から抜けていた。大好きな推しの初めてのライブだもの、イベントの様な感じでワイワイやるんだろうなと、そう思っていた。

会場に入るとライブの低音の効いたガンガンの音響と開始前映像があった。そう、今回は初ライブで生バンドだという。さらにスタンディング席なのでなるべく体力を浪費しない様にのんびり行ったら意外と後ろになってしまった。
ライブ用の耳栓をして(もう必須アイテムになった)、開始を待つ。

ライブが始まると生バンドの音の振動に臓物を激しく揺らされる。その上に推しの声が響く。滑らかなハイトーン、伸びのある素直な歌声。初めはどう動いていいかわからなかったが、それは私だけじゃなく周りも同じらしい。
それを容赦なく映像が、音が、振動が、そしてライブステージの上に立つ推し本人が煽ってくる。MCは入れてくれるけど曲を聞かせる構成になっており、想像以上に音楽ライブそのものだった。特に今回は声出し・ジャンプOKのレギュレーションなのもあって終盤まで非常に盛り上がった。

アンコール曲を披露し「これで本当に最後の曲」とMCが入って曲が始まった。夢のような時間というのはいつも本当に早く過ぎる。終わりたくない、できればもっとこの声を聴いていたいのに。
そう思いつつも悔いのないようにサイリウムを振ったり声を出していると、ラスサビと同時に銀テが放たれた。
最後の曲を楽しんでいる私たち、演奏してくれているバンドの方々、歌っている推し、この最高潮に楽しい空間に振りかけられたキラキラのゴールドカラーのトッピング。歌詞も相まって本当に星空に見えた。まるでこのトッピングでこのライブは完成したように思える。
あまりに刹那的で、綺麗で、このテープの下にいるってこんなに幸せなんだとその時私は初めて知った。
テープはゆっくりひらひらと私たちのもとに降り注いでくる。
掴まなきゃ。
やっとそう思ってサイリウムを持った手をのばした。
今日ここにいたこと、貴女の歌に魅せられていたこと、どうしようもなくたのしかったこと、このキラキラな輝かしい空間にいたこと、それをどうか一瞬の記憶にはしないで忘れずにいられますように。

そうして私は初めて自分の手で銀テを掴んだ。

終演後に改めてみたら離すまいとずっと握っていたのでちょっとぐちゃぐちゃになっていた。慌ててタワレコに銀テケースを買いに行ったがこれもいい思い出だ。
それこそ「最高の1日」になった、幸せな日だった。


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