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「まっ暗闇で踊るスタイル」ミックス企画 vol.6 横山さん(その三)

ビシャモンが作った歌もの曲のパラデータをアップ、お好きにミックスしてねーという企画で6人目にミックスを送って下さった方がJPOP黄金期を支えられたガチエンジニアさんでした!という第一回目のインタビュー記事はこちら。今日は第三回目です!

ミックスして頂いた音源

一回目、二回目の記事はこちら!

https://note.com/bishamonbaby/n/n3e457524aec3


ビシャモン:楽器歴などございますか?どういう経緯でエンジニアになりはったんでしょう?

横山さん:僕は1961年生まれの今60歳。幼稚園に入った時、経緯は覚えてないけど、当時は学校などにあったオルガンは足踏み式の時代だったんですが、ヤマハの電気オルガンを買い与えられました。物心ついたころにはうちには白黒のテレビがあって漫画番組の主題歌をいつも歌ってたので、音楽に興味ありと母親は思ったんでしょう。小学校入学と同時にオルガンはアップライトピアノに変わりました(笑)。小学校5年まで、毎週ピアノの先生に訪問頂き教わってましたが、あまり熱心な生徒ではなく、そこからはギター一辺倒です。21だったか22の時、ひょんなきっかけでパーカッションのペッカーさんのローディに付き、翌日からいきなり当時の日本のトッププロミャージシャンとしか会わない世界に入っちゃったんですわ。82年ぐらいですね。スタジオミュージシャンが超多忙な時代です。今さんや松原さんなどと、毎日のように顔合わせるんですよ。で、そうこうしてるうちに、いつのまにかスタジオのアシスタントエンジニアに、気がついたらフリーランスエンジニアになってました。

ビシャモン:ご自宅の機材環境など教えていただけますか?

横山さん:オーディオインターフェイスは最初期の1UのUADアポロです。DAWはプロツールス。使ってるプラグインはプロツールス付属とUADのプラグインですが大した数持ってないです。アウトボードはギターのディストーションのRATぐらい。ヘッドフォンは標準的なCD900ST。モニタースピーカーは…言っちゃうと、目が点になるかもですが、M AUDIO のBX5 D2 。ペア1万数千円の安物です。しかも出窓のとこにただ置いただけ(笑)。部屋のチューニングなんかなんもやってないし、スピーカーに繋いでるケーブルに至ってはモガミのマイクケーブルを必要な長さにテキトーにちょんぎって、得体の知れないハンダでプラグ付けたシロモノです。確かに現役時代は最高環境であるプロのスタジオでの仕事をしていたのは大きいとは思いますが、それらは極論すればお仕事の作業効率的な話に焦点が向くだけなんです。

(※横山さんの場合、長年のスタジオ経験があるのでこのようなセッティングでもミックスできますが、よいこは真似しないでね。きちんとモニターセッティングしましょう)

ビシャモン:お使いのプラグイン教えてください!(ビシャモンはStudio One 使いでプロツールスはほぼわかりませんでしたが、プロツールスご使用の方はぜひご参考に!)

横山さん:複数になりますが、ご紹介します。プラグインはUADの実機をシミュレートした物を使うのが9割です。プロツールス付属のプラグインは、色をつけたくないけどエグいかけ方したい時に使うことがあります(リバーブとディレイを除いて)。

コンプやEQ はそれぞれの特質があるため多段がけ、微調整を行います。色付けなし状態ではやはり個々のトラックにパンチや重量感や諸々が圧倒的に足りないんです。それぞれの特質を肌で理解することで、自分がしたい表現になります。それぞれの特質を掴むことが大切です。

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まず、EQ三種類

Pultec PRO
パルテックは積極的な音色作りより、空気感、押し出し感、明度感など演出的な使い方です。独特なサチュレーションと空気感を持っており、200~500hzをちょっとだけ上げると、空気の押し出しを感じるような効果、8k以上をかなり上げても痛くなりにくく、その音に対して全体が明るくなるような感じ。1番低いセクションもブーストすると低域の空気感が押し出されてくる感じ。キック・スネア・メインボーカルには挿さっている確率高いです。場合によっては挿すだけのことも。1番低いセクションは、ブーストすると(ブーストするしかできない)選択したFのすぐ上のFあたりが、ブーストすればするほど凹んでいきます。面白い事にSSL4000 Gは1番低いセクションにそのQの変化の仕方を取り入れています。SSL4000 Eではそうなっていません。

MAAG EQ 4
これはトラックに刺す事はあまりなく、mixバスに1段目のコンプの次にデフォルトで挿しています。こいつは1073にちょっと似ている音色で、mix時、全体の空気感的明るさ調整、超低域をちょっとだけブーストするのに使ってます。トラッキング時はmixバスに刺さっているコンプ3種とこのEQ は全部オフ。

EQ のトリを務めるのはCS-1

CS-1の内部は上から
5バンド パラメトリックEQ
コンプ/リミッター
ディレイ/モジュレーター
リバーブ

なんでそんな組み合わせ?な、不思議なプラグインです。それぞれ独立した2U・3Uの機材が、ラックに縦にはまってる出で立ち。コレ、リバーブはともかくそれぞれの効き具合が変態的に超絶すごい。ありえなーいぐらいエグい効き方するんです。故に使い所が難しく使いこなしも難しいのですが、稀にコレがあってよかった~と思わせるプラグインです。

EQは、刻まれたブーストカット数字を鵜呑みにしてはいけません。モヤモヤでアタック成分なんかないとしか思えないシンセベースがキックのアタックなんかかき消すレベルでカチカチいったりする羽目になります。

コンプも強烈で、ほんのちょっとだけですごい変わってしまいます。スレッショルドも効きが良く、ちょっと深くすると音量が半分以下に下がったままになってしまう。エグさ全開のプラグインで頻度は極端に少ないのですが、たまにどうしようもないヒドさのシンセベースだったりした場合にはコレが最後の望み、神です。(なお、今回は出番がありませんでしたのでご安心ください)

ビシャモン:(安心いたしました><)

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横山さん:
次にコンプ4種類。

SSL4000E ダイナミクスセクション コンプ/エキスパンダー
このコンプは積極的な音作りにも隠し味用途にも使い勝手がよく、圧倒的に出番が多い。全トラックの8割は挿さってるSSL。僕にとってSSLコンソールのサウンドはデフォルトです。

1176
コンプといえば、王道、スタンダードな1176ですね。これもよく使います。シルバーパネルのとブラックパネルの2種類。コンプ臭さプンプンにも、コンプ臭あまりしないようにレベル揃えるのにも、どちらにも使います。コンプの難しいところは、アタックを強調したりサスティーンを目立たせたり、で、音圧感・音価(減衰部分の聴こえる長さ)が変わる事で、輪郭もリズムのノリにも、奥行き方向の位置間も、全てに影響が同時に出る点です。ツマミを一つ、ちょっといじるだけで全部に影響するんです。

LA-2A
チューブのコンプです。歌に使う事多し。レベル揃えよりサチリと特有の音質が目的で、ついでにレベルをある程度揃えるイメージ。

同様な目的で
TLA-100
ベース、歌、によく使います。コレが面白いのは実機には付いてないサチリ具合の増減とローカット(スレッショルドにのみ効くか、音声信号そのものに効くか選択可)そして、プラグイン内部だけでパラレルコンプができる機能が追加されてます。

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そして、mixバスのコンプ4種類。

フェアチャイルド 670
いつもmix BUSの1番目に常設。リダクション量は少なくしています。当然それで稼ぐゲインも少し。670では、コンプ目的より全体の音像を670の色で整えるような使い方です。670はアポロに最初からついてくる、レガシー670、670、660と、3種持っていますが、mix BUSにはレガシー670の1択です。個々のトラックにも使うことはありますが、頻度としては少ないかな。

DBX160
mix BUSの2番目。大抵kickとスネアに。いい具合にパンチが出せるコンプ。設定によってはエグいかかりかたするので繊細に繊細に扱かうべし。生っぽいドラムに持っていくときに。生ドラムの時には、聴感上かかってるんだかかかっないんだかの狭間でキメるとアタックも胴鳴りも良き。僕の場合、キック・スネアに160使いたくなる時は、その後ろに大抵パルテックEQPがセットで挿さります。

elysia
mix BUSの3番目に常設。MS処理も可能。でも、僕はMS処理でコンマ1db突っ込むのに血眼になるタイプではないのでMSは使わないです。これもやりようによってはすごい事になりがちな物なので。リダクション量少なくてもゲイン稼げるところはあるけども、やはりバランスやグルーブが変わってしまうので程々に。サチリを付けるツマミもあり極軽く足す事が多いです。

プロツールス付属 マキシマイザー
mix BUS 4番目。mix BUSに既に2つコンプが挿さってるので、マキシマイザーはやはり軽く。スレッショルドでいえば1.5~1.8dbの間になる事多しで、実際のリダクション量は0.3~1db程。最近は、トータルで少し余裕あるレベルに収めてます。

どうしてもやりたければまだマスタリングで弄れる余地は1db前後ぐらいあるかな?

トラッキング時にはmix BUSのインサートは全部オフ。mix BUSについては、挿さってるもの全てマスタリング的な扱いです。mixしながらオンにしたりオフにしたり、mixしながらそれぞれ微調整しながら、といった感じ。

残るはリバーブ以外の空間系ですが、コーラスやダブリング系はディレイで作る事が圧倒的に多いです。Roland CE1とMXR ダブラーをたまーに使う事はあります。フランジャーが必要な時は前述のCS-1の出番です。


横山さん:他プラグイン、簡単にリストアップします。

まずプロツールス付属から(使用頻度は少ないです)
EQ 1BAND
EQ 7BAND

この二つは色付けのないEQが必要な時につかいます。

JOMEEK compresser
ニーブ33609の香りがうっすらします。あまり使わないけど。

MOD DELAY Ⅲ
ディレイはほぼこれ。ダブリングやコーラスなんかもこれで作ること多し。

D-VERB  
ラージホール系で、きめが細かく減衰が最後まで綺麗。ヤマハREV5のラージホールタイプが欲しいときによく使います。こいいう感じのリバーブはプラグインではなかなかないんですよ。
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トラッキング時(外部音源・マイク録音・内部音源のいずれに於いても)HAの付いたチャンネルストリップは必須で使います。どれか一つを漏れなく使います。

SSL 4000
NEVE 1073
API VISION
UAD 610B

現役時代はSSL4000G、通称Gシリーズを好んでいました。どちらかというとNEVE系コンソールのサウンドはちと苦手でした。(あくまでも「コンソールを使う事によって出来上がるサウンド」と、いう意味でNEVEの機材単体の音という意味ではありません。全トラックがNEVEの色でバランスを取るのが好きではない、という意味です)

だいたいどのエンジニアも、その人なりのセットがあるんです。そのセットに使うリバーブは、どこのスタジオでも標準的に常設されてます。僕の場合は以下の様に指定します。
send1 YAMAHA REV7又は5
send2 Roland SRV
send3 LXICON 480XL
send4 RMX
stereo send ドラムモニターの単独送り


ビシャモン:今回のミックスでご苦労された点は?(と伺ったらアレンジアドバイス頂きました)

横山さん:今回の曲ではドラムとベースに苦労した方多いんじゃないですか。ほぞもとさんのようにドラムのMIDIデータ吸い出して差し替えるのもひとつの解と思います。

僕の場合は、ギターのバッキングトラックとピアノにちょっと苦労しました。僕はギタリストでもあるんで、バッキングトラックだけを聴いた時(おお、グングンいってて、こりゃ弾いてるときは気持ちよかったろう。なるべくこの感じ維持だね!)だったんです。ですが、単体では気持ちいいのだけど、他のトラックと一緒に出すと、ギターの気持ちよい低域のエネルギーの強さが他を邪魔しすぎてしまう。その低域の気持ち良いところはアンプシミュか、アンプをマイクで拾ったのかまではわかりませんが、低域の膨らみが実音系ではなく、オフマイクとか部屋鳴りの成分のようで単体では押し出しが強く感じるんだけど、曲中だとどうしても距離感が遠くなりがちではありました。もう少しミッドレンジの成分があれば楽だったかなと思います。それだけちょっと扱いが難しかったけど、それ以外は全然問題なしでしたよ。基本的にイイ音でてました!

(今回、かっちょいいギターを弾いて頂いたギタリストの清水さんにヒアリングさせていただきました。ライン録りで、実機のアンプシュミレーター、キャビネットシュミレータをかけられたそうです)

横山さん:ピアノに関しては、スネアと同じ現象が起きてました。ベロシティの幅を広く取りすぎの上に、最大ベロシティの範囲の音を使ってるので、ピークレベルの箇所では音に響きがなくなりアタックばかり。そこにコンプかけると、さらにそれが強調されてチンチンコツコツした細い音になってしまう。

大抵のサンプリング音源は1個の音源を6個とか数個の強さに分けてサンプリング、ベロシティの強さに振り分けてあてがってます。生楽器は、ドラムもピアノもギターも、限度の強さで弾く(叩く)と、かえって音が細く、ピークがやたら多くて、場合によっては音量も下がったりするんです。あの最大値付近にそういう音のサンプリングがあてがわれている事が多いので、最大ベロシティ領域の音はなるべく使わない方がよいです。ベロシティはあまり大袈裟な幅を使わなくても十分ダイナミクスは感じられます。

ただ、プレイヤーってのはキメや盛り上げるところでは「ダーン、いっけーぇぇえ!」ってなるのはもちろん理解してます。が、生のライブではないので、そこは「どんな音が鳴っているのか、どんなバランスなのか」ということを最優先に考えて録るとより良い結果に結びつきます。

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横山さん:何度も言いますが、機材の特徴把握や使い方は軽視して良いわけではないです。しかし、それらを活かすには機材をいじったり沢山音楽を聴くだけではなく、普段意識してもいない生活音やあるいは風景や、いろんな感動や、あらゆる五感に触れた事を音楽で、mixで、それを自分ならどう表現するのかを蓄積する事の方がより重要だと僕は思うのですよ。

あるいは2Dであるスピーカーやヘッドホンで、奥行きや、距離や、横の広がりのみならず縦の広がりも聴いて。そういう引き出しを作り、どんどん美化された妄想にどうmixを近づけるのか。妄想美化の度合いが上がるにつれて難易度は高くなります。

そうこうしている内に機材の扱いや選択はその中で自ずと自分らしい扱いになっていきます。その感性、扱い方はそれぞれですので、ここまでのプラグインの話とて鵜呑みにしちゃいけません。

ビシャモン:たくさんの質問にお答えいただき、貴重なお時間割いて頂いて、本当にありがとうございました!

横山さん:ミックスのご依頼あれば、お気軽に!

ビシャモン:ありがとうございます!まずは食い扶持稼ぎます(笑)!

三回にわたり、インタビューさせていただきました、横山芳之氏のツイッターはこちら!

ネットにはミックスについてのたくさんのtipsがありますが、それらを拾い食いしていてもなかなか本質にはたどり着かないだろうなと感じました。今回横山さんにミックスの心構えとして大切なことをたくさん伺えたと思います。ほんまにありがとうございました!

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※この企画はコンテストではありません。ミックス初級のビシャモンと共に、「ミックス楽しいねー」「ミックス難しいねー」「プラグインやら機材なに使ってはるの??」「ここがちごいね!」などと、参加者同士がわちゃわちゃするだけの企画です。

というわけで、お好きにミックスしてみてね♪

「まっ暗闇で踊るスタイル」パラデータ置き場


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