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Photo by
piccolotakamura
禁忌 │詩小説
小学生の頃、シャープペンシルは特別な道具だった。
学校では禁止されていて、持っているだけでちょっとした優越感を感じるものだった。理由なんてわからない。
ただ、使ってはいけないと言われるほど触れたくなる――そんなものだ。
今では机の上にいつもある、何の変哲もない道具。
芯をカチカチと繰り出す音が日常の一部になっている。
スマホ画面をスクロールする指を休めて、手元のシャープペンシルを握りしめる。
カチ、カチ――
無意識にその音を鳴らすたび、胸の奥で何かが揺れる気がした。
画面にはSNSの投稿欄が開いている。
軽い言葉が次々とタイムラインに流れ、頭の中に浮かぶのはほんの短い一言だ。
「それって本当に似合うの?」
指が止まり、シャープペンシルを握り直す。
芯が紙に触れるような感覚が、言葉を打ち込むたびに胸に刺さった。
カチ、カチ。
心のどこかで音が反響する。
夜、静かな部屋の中でふと手元を見た。
何気なく触れたシャープペンシルの消しゴム部分がいつもと違う硬さを持っていることに気づく。
違和感を抱きながら、指先でそれを触れた瞬間――
「グサ」
指先に冷たい感触が走り、次にじわりと血が滲んできた。見ると、そこには鋭い刃が仕込まれていた。
あの頃、ただの道具だと思っていたものが、いつの間にか違うものに変わっている。
けれど、この痛みは不思議と嫌ではなかった。むしろ心地よいとさえ感じる。 血の滴がペンを伝い、机の上にぽたりと落ちる。
画面にはさっき投稿したばかりの言葉が反映されている。
「もう一度だけ……」
その声は誰に向けたものでもなく、ただ自分の胸の中で響いていた。