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hokeniin_39
時計台 ー消える静寂ー │詩小説
田舎の片隅にひっそりと立つ古い時計台。
その動きは静かに、ただ規則的に繰り返されている。
かつてこの場所には多くの人が訪れ、時計台は人々がちらりと自分を見る瞬間を喜びとして感じていた。
たとえ短い一瞥でも、自分が誰かの目に映り、その存在を感じられることが、ほんの小さな安らぎになっていた。
しかし、今ではその視線を感じることもない。
村は寂れ、人々は消えた。広場に足音も笑い声も響かなくなり、時計台は静寂の中に取り残された。何も変わらない動きを繰り返しながら、孤独だけが時間と共に積み重なっていく。
それでも、孤独を埋めるように、小さな鳥が時折訪れる。昼間になると、鳥が時計台に降り立ち、文字盤を軽くつつく。その小さなくちばしが体に触れる感覚は、時計台にとって唯一の慰めだった。
しかし、夜になると静寂が深まり、思考がより暗い方向へと傾いていく。
夜が深まり、冷たい空気が広場を包む中、フクロウが時計台の上に降り立った。その足が体にかすかに触れる感触を、時計台は静かに受け止めた。フクロウはしばらくの間じっとしていたが、やがて翼を広げて再び闇の中へ飛び立った。
その瞬間、時計台は思った。
「もう去ってしまうのか」
フクロウが消えた後、全ての気配が薄れていき、もう誰も自分に触れることはなくなるのではないかという考えが静寂の中に広がっていった。
誰も見ない、誰も触れない――ただ一人で動き続ける未来が、夜の深い影の中で現実味を帯びていく。
「誰かに見られたい。触れられたい。もう一度だけ」
そんな淡い願望が、時計台の中に微かに灯った。
だが、その願いを叶える術は、どこにもない。ただ、今の孤独を受け止めるしかなかった。
「時が止まるその日まで、私はここにいる」
時計台はそう思いながら、また静かに動き続けた。