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Photo by
sanagiapothecary
記憶の川を渡るリヴ │詩小説
この世界では、時間は未来から過去へと流れる。
人々は生まれた瞬間に未来の記憶をすべて持ち、成長する代わりに若返り、やがて赤子へと戻る。
そして赤子になったとき、記憶はすべて失われる。
それがこの世界の「終わり」であり、「始まり」でもあった。
川のほとりに立つリヴの視線が、水面に漂う記憶の欠片を追っていた。
触れれば消える幻のようなそれらに、ただ手を伸ばした。
水面には、子どものころの笑顔、誰かの手の温もり、そして薄れつつある未来の光景が揺れていた。
それらはどれも、既に遠いもののように感じられる。
遠くで赤子の泣き声が聞こえた。いや、それは風の音だったのかもしれない。
川の先には、揺りかごのような光が見えた。
それはリヴを導くように輝き、次の瞬間には完全に消えてしまった。
「原点に戻る…それが運命なのか。」
声は小さく、風に流されるようだった。
それでも、その瞳にはどこか穏やかな光が宿っていた。
川の流れは続く。記憶のすべてが流される中で、一瞬だけ旋律が響いた。
風と水が奏でるその音は、かつてリヴの中にあった記憶そのもののようだった。
目を閉じた。音楽が消えると同時に、すべてが静寂に包まれた。
そして、川のどこかで赤子の泣き声がまた響いた。
それは新たな始まりの音だった。