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予備のネジ │詩小説

私はネジだ。
小さな箱の中にひっそりと横たわっている。
外の世界は見えない。ただ、箱の外から時折聞こえてくる音だけが、世界が動いていることを教えてくれる。

新品のネジが選ばれ、取り付けられていく音。
滑らかな回転音が機械に響く。その音を聞きながら、私はただじっとしている。自分の番が来るのかどうかも分からないまま。


私が新品と違うのは、その輝きだ。
箱の中で時間が経った私の表面は、少しだけ曇っている。新品のようにピカピカではないけれど、それでもまだ使える状態だ。役割を果たすには十分なはずだと、自分に言い聞かせる。

長い間、箱の中で待ち続けた。
光も入らず、音だけが響くこの場所で、私は何度も自分の存在意義を問いかけた。だが、その答えが出ることはなかった。


そしてある日、ついに箱が開いた。
光が差し込み、私は指先に摘まれて外に出た。
新品と並べられる。新品のネジは眩しいほどに輝いていた。
自分が選ばれることを疑わないその無邪気さに、少しだけ心が揺れた。

新品の隣で、私は機械に取り付けられる。
回転するたびに金属の擦れる音が響く。新品と違って、私の表面は少しざらついている。
けれど、機械は私を受け入れてくれた。その瞬間、私は自分がようやく役割を果たしたのだと感じた。

新品には分からないだろう。選ばれる日を待つ時間が、どれほど重いか。

けれど、それでいい。
新品には新品の輝きがあり、私は私の時間があった。それぞれがその役割を果たしただけだ。

機械の中でじっとしている今、私は思う。長く待つことにも意味があったのだと。
新品の輝きに頼らなくても、私は私の形でこの世界に役立てたのだから。

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